第24話
アドヴェクスターは静かに笑みを消したかと思うと、シーファの隣に腰掛けた。
と言っても、それは少し離れたところで、シーファは初めてソファの無駄な大きさに違和感を感じた。
「シーファ、食事が冷めてしまうよ。話しながらでもいいから、食べると良い」
シーファはテーブルに置かれたほんのりと優しい香りの湯気を立てるそれに目をやり、手を伸ばす。
「貴方は私に対する呼び方が定まってなさすぎる。なんか……気持ち悪いから統一して」
「気持ち悪い……か。わかった。そしたら、名前で呼ばせてもらうね。その代わりと言ってもなんだが、シーファも俺のことは名前で呼んでほしいな」
「……長いからやだ」
「子供みたいなこと言うなぁ」
まだ子供だ、と言いたいところだが、この人のことだ。後々からかわれる材料にされる気がして黙って食事を口に含めた。
「……俺との婚約の件は、シーファが拒否するのならば仕方がないが、そうするとこの国は」
「その話なら」
シーファはコクリと小さく喉を鳴らし、アドヴェクスターの話を遮った。
「……その話なら、私はお受けします。……この国の為にも、王は優秀な方が良いでしょう」
「……俺は国の為という理由よりも、シーファの本心が知りたい。俺が憎くないのか、俺の隣に座ってシーファは嫌な気持ちにならないのか、俺の……」
「何故悲観的になっているのかが私には全く理解出来ない。『頭の切れる冷酷な王子』はどこに行ったのやら……」
シーファは少々呆れ気味でそういうと、静かに立ち上がり、引き出しにしまっておいたおいた古びた箱を取り出した。
「……これ、怖くて開けてないの。私が部屋に籠る直前に机の上に置いてあった。……ルーヴァンからだと思うの。代わりに、開けて」
シーファのその表情は、今にも泣き出しそうにも見えたが、笑っているようにも見える。アドヴェクスターは彼女からその箱をそっと受け取ると、箱を見つめた後、彼女を見た。彼女は目を固く閉じて俯いている。
「……シーファ、きっとこれは大切な思い出だ。自分の手で開けるべきだと思う。…………そうか、それなら、俺が開けるから、せめてシーファ、目を開けなさい」
シーファは目を開けると、背を向け、部屋を出て行ってしまった。
アドヴェクスターは、古びた白い箱を両手で包むようにして持つと、そっと開けてみた。中には、デザインはいたってシンプルだが、裏にこの国の王家の紋章が刻まれた懐中時計が入っていた。
それを閉じると、アドヴェクスターは箱を片手に部屋を出た。
碧の鼓動 水楢 葉那 @peloni
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