第19話
彼はそっと向かいのソファに腰を下ろし、一息つくと、ゆっくり、重たそうに言葉を綴った。
元々、俺とシーファは婚約関係にあった。
シーファが3歳の時、シーファの母親が病によって亡くなられる間際に、彼女の一言で決まったそうだ。
『シーファを必ず幸せにしてほしい』と。
その時既に俺は兄よりも優秀である、と噂が国内外に広まっていたそうだ。
しかし翌年、ヴィラッドの国王が何者かによって暗殺された。
その情報は一切外に漏れることなく、王宮の者が気付いた頃には、既に異国のものが王座に着いていた。それが、今回俺の手によって討ち取られた男だ。
王宮の者は、誰一人彼に抗うことが出来なかった。国王の側近が皆、変死を遂げたからだ。
国王の実の母である「婆様」は、宮の離れに軟禁され、シーファ姫は実の父親を殺したその男を父親だと信じ育った。
そして翌年、シーファと俺の婚約が、不自然な形で解消となった。
更に翌年にはルーヴァンという姫より1つ年上の少年が姫の護衛として就かされた。
それから3年の後、とある舞踏会で俺は「変態」と噂されている伯爵に絡まれている姫君を見かけた。酒を無理やり飲まされているようにも見えた。
何故他の者は見て見ぬ振りをしているのかと腹を立てながら2人の間に割って入り、そのまま青い顔をした姫を会場の外へと連れ出した。
「大丈夫だったか? 酒はどのくらい飲まされた?」
自分よりも一回りも幼いように見える彼女にそう問うと、姫は静かに涙を流し「帰りたい」とだけ言って俯いてしまった。
それがシーファ姫とわかったのは、彼女の城へ送り届けた時だった。
なぜ姫との婚約が突然解消されたのか、それを聞きたかったが、城の者は俺がシュアルヴィッツの第2王子だとわかると、突然態度を変え、なんのもてなしも無く宮から追い出した。
違和感を感じた俺は、宮の敷地自体からは追い出されなかったため、少しの間庭に身を隠して探ろうとした。そこで「婆様」と出会った。
「婆様」は俺の姿を見ると、すぐに離れに案内してくれた。
「貴方は、シュアルヴィッツのアドヴェクスター第2王子でよろしいですか?」
「ええ、」
「なんのもてなしも無しに追い出すなんて、宮の者もすっかり変わってしまったのね……。貴方がここに潜んでいた理由は大体察しがつくわ。……姫との婚約破棄のことでしょう?」
「はい、何かご存知ですか?」
「知っているも何も、私は国王の実の母だった者ですから。まあ今は、ただの老いぼれですよ」
「だった? 」
「……あらいけない、そろそろ見回りが来る時間よ、見つかると面倒だから早くおかえりなさい」
そう言って、特に何も聞き出すことは出来ず、今度こそ宮から追い出されることとなった。そして帰り際に彼女はそっと蚊の鳴くような声で言った。
「……シーファはこのままでは幸せにはなれない。だから、貴方が幸せにしてあげてください。何年先でも良い、どんなに時間がかかっても良いから、どうか……」
それがきっかけとなり、国では仕事をこなしながらヴィラッドの過去を探った。
外部に漏れると、きっと厄介なことになる。直感的にそう思い、1人で全て調べ上げた。3年前には、ほとんどの情報が集まり、あとは確証を得ることができれば完成だった。
そして、我が国とヨルグァナとの戦が始まった時、言い方は少しおかしいが、運良くヴィラッドも参戦してきた。
宮を訪ね、姫は国を出て身を隠していると聞いた時は驚いたが、都合が良かった。
元々、自らが調べた事が事実と分かったら、王座に座っている裏切り者の首をはねてやるつもりでいたから。
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