第16話
「では、ヴィラッドはシュアルヴィッツの支配下に置かれるのですか?」
「いや、そのつもりはない。私はどう足掻いても、正当な理由であの国の王にはなれない。手柄も取ったことだから、あの宮殿からは出てきた」
「ということは、この国民は今まで通りで居られるのですね?」
彼は静かに頷き、何かを言おうとした瞬間、部屋に声が響いた。
「父上の仇だ!」
見ると、シーファの手には国王の持っていた短剣が。
ルーヴァンは、アドヴェクスターに向かっていこうとする彼女を遮り、短剣を叩き落とした。
「邪魔をするな! 離せ!」
「姫、彼は貴女を殺すことはありません。終わってしまった戦にこれ以上犠牲者を増やす必要がありますか……?」
「うるさい! もうこの者に買収されたのか⁉︎ 目を覚ませルーヴァン!」
彼女は今にも零れ落ちそうなほどいっぱいに涙を浮かべている。それを見るのが辛くて、ルーヴァンはシーファの顔を見ることが出来ずに視線を落とす。
「姫君、私が殺したのは貴女の父親じゃない」
その言葉に、ルーヴァンも、シーファも動きを止める。
「……話にならん」
シーファはそう呟くと、部屋を出て行ってしまった。
「ルーヴァン」
彼女を追いかけようとした瞬間、アドヴェクスターに声を掛けられて立ち止まる。振り返ると、彼は切ない瞳で言った。
「シーファと、同じ寝室にさせてくれ」
信じられないことを言う人物だ。
「そのような事をすれば貴方のお命がいくつあっても……!」
「その前に片をつける」
相手に有無を言わせないその瞳に、ルーヴァンは黙って従うことしかできなかった。
*
夕刻、シーファの部屋を訪れると、ベッドの上で
「シーファ、寝室の話は侍女に聞いたか?」
「……裏切り者」
「何故そんな事を言う?」
「さっさと敵国の者に、しかも父上を殺した人間に買収されて、恥ずかしくないのか?」
くぐもった彼女の声は掠れており、先刻まで泣いていたことがわかる。
「買収はされていない。俺の意志だ」
「……出て行って」
怒りか何かで、その声は震えているように聞こえる。ルーヴァンは言われた通り、音も立てずに部屋から出ると、自分の部屋に籠もった。
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