第14話

 どのくらい歩いただろう。2人はひたすら歩き続け、川に出た。

「少しここで休もうか」

 そう言ってシーファの方を見ると、彼女は既に川の水を手ですくって口にしていた。

「昔からこういう時だけ素早いよな」

「それ、褒めてるの?」

「半々かな?」

 水に触れているうちに、緊張感が和らぎ、2人から笑顔が溢れる。

「ルーヴァン、顔に泥付いてる。……転んだりしてないのに」

 彼女はクスリと笑って濡れた手でルーヴァンの頬を拭う。

「冷た……」

 彼女の手は酷く冷たいように感じられて、少し心配になる。

「寒くないか?」

「うん、平気。でも少しお腹減ってきたかな」

「じゃあ、コルテに作ってもらった焼き菓子でも食べようか。米粉で作ってあるから多少腹は膨れるだろう」

 荷物の中からそれを取り出し、無言でかぶりつく。

 その時。

「姫を探し出せ! 一刻も早くだ! 行け!」

 よく通る男性の声が対岸の奥から響いてきた。

「……! シーファ、行くぞ」

「うん」



 日没後、ルーヴァンとシーファは大木の根元に並んで背中を預けた。

「あの声、姫って言ってたよね。私のことかな……。もし捕まったら、奴隷になるのかな? 殺されるのかな?」

「何があっても、シーファは殺させない。絶対に助けるから。安心して眠っていいよ。」

 彼女を殺すなど、絶対にさせない。自分の身を呈してでも守る。守り抜かなければならない。数年前に亡くなった父の遺言でもあり、ルーヴァン自身の意志だ。

 2人は肩を寄せ合って樹にもたれ、一枚の布を被ってそっと目を閉じた。



 *



「全員いるか?」

 長身の青年は焚き火の向こうにいる部下に聞いた。

「はっ。東の方を捜索しましたが、手がかりも掴めませんでした……」

「そうか……。しかし、いい知らせがある。テナが2人を見つけた」

 部下は目を見開き、青年の表情を覗く。

 それを見た青年は静かに口角を上げると、おもむろに立ち上がった。

「明日からはテナを追って動け。確実に見つけ出せ」

「はっ」

 部下は胸に手を当て、頭を静かに下げた。

「明日に備えて今夜はもう休め。下の者たちにも休ませてやれ」

 そういうと青年は眠っている鷹の近くへ行き、沈むように眠りについた。




 空が微かに白く光る気配がして、青年は目をゆっくりと開ける。

 次第に白い光は朝焼けとなり、辺りを赤く染めていく。

「今日が勝負かな、」

 高台に登り、森を見渡していると、次第にあちこちから鳥の声が聞こえはじめ、テナも目を覚ました。

 青年はテナを腕に乗せると、目を伏せて囁く。

「シーファ姫とルーヴァン殿を探して来てくれるか? 私は彼らに、言わねばならないことがあるんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る