二章 〜森へ。
第12話
その日の夕食の時、コルテは全てを悟ったように黙ってバスケットを渡してきた。中を覗くと、美味しそうな食べ物がたくさん詰まっていて、ずっしりと重かった。
「ごめん、ありがとう。大事に食べるよ」
「森の方まで行けば、いくつかの小さな集落がある。もし何か困ったことがあればそこに頼りなさい。悪い人はいないから」
コルテは少し泣きそうな顔をしていた。シーファはそっと彼女とハグを交わし、彼女に結ってもらった栗色の髪にそっと触れた。
「またここにきた時は、この結い方、教えてね」
「もちろんよ。元気でね」
新月の夜、シーファは大きめの布を頭から被り、ルーヴァンの後ろにピッタリとついて城下町を出た。
*
「寒い……」
休まず歩き続け、森に入ってしばらくすると、シーファがそう呟いた。
確かに夜は冷える。暗くて彼女の様子ははっきりとはわからないが、足取りが少し重くなっているようだった。
「宿が無いから今ここで眠ってしまうのはかえって危ない。日が昇ってきたら安全な場所を探してそこで眠ろう」
小さく、うん、と聞こえたが、心配なのでルーヴァンの袖を掴む細いその手をそっと握った。
*
日が昇り始めた頃、ルーヴァンとシーファは小さな洞窟を見つけ、そこで眠った。
シーファが目を覚ましたのは正午頃だった。
洞窟の入り口の方に何かの気配を感じ、そちらへ視線を向けると、1羽の鷹がいた。
「ルーヴァン、起きて。テナがいるわ」
その声に、ルーヴァンは飛び起きて鷹を探した。というか目の前にいた。
「テナ……よくここがわかったな……」
ルーヴァンは鷹の名を口にして頭をそっと撫でてやった。
「テナの足にこんなものが結ばれてたわ。きっと王宮の誰かが……っ!」
「もう読んだか?」
彼女は、首を横に振り、不安そうな表情でルーヴァン見つめた後、微かに震える手で結ばれていた紐を解き、文書を広げたその途端、サッと青ざめた。
見ると、その文書にはこう書かれてあった。
『一刻も早く国に帰ってきてください。
憐れな美しき姫君よ。 __アドヴェクター第2王子』
ヴィラッドの言葉ではなく、シュアルヴィッツの言葉で書かれていた。
アドヴェクター第2王子は、シュアルヴィッツ国王の次男。長男である皇太子よりも優秀な人物と言われている。彼は兎に角、頭が切れる。血も涙もない冷酷な__鬼。そのように言う者もいるほどだ。
「憐れってどういう意味よ……。私たちはまだ負けていないじゃない!」
沈黙を破るために押し出されたその声は、震え、洞窟の中に冷たく響く。
「国王様に何かあったのかもしれない。どうする? このままセランタに居るにしてもシュアルヴィッツの兵が来ている。王宮に戻るにも何か嫌な予感がする。砂漠を越えて行くにしてもリスクが高すぎる。何が……何が正しい?」
「私は、このままセランタにいる。今の状況で王宮に戻るのは、私も嫌な予感がするから……」
その瞳には、恐怖の色が浮かんでいた。長い睫毛が落とす影が一層その色を濃くしているように見える。
すると、不意に影が宙を舞った。
「待って! テナ! 行かないで!」
彼女の悲鳴のような声は、ただ洞窟に吸い込まれるだけで、鷹は空高くへ舞って行ってしまった。
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