第11話
それから、何事もなく日々が過ぎていった。
1週間ほどで北の戦の噂はこの国にもあっという間に広がり、戦況は港で貿易商人たちが噂しているのを聞いては、毎晩シーファとこれからのことを話していた。
そしてコルテの元に来て早くも一年半の時が経った時。
西の国、ヨルグァナ帝国の軍がシュアルヴィッツ帝国軍からの攻撃で半数以上の犠牲者を出したという噂が驚異的なスピードで広がった。
援軍としてヨルグァナと共に闘っていたヴィラッドにも大打撃を与えた。
「シュアルヴィッツが優勢ということか……。ここから逆転してもらわないと困るわ……」
「ソフィーナ、大丈夫。国王はきっと、きっとこの戦に勝ってくれる。だから……早くその風邪を治せ」
彼女は度々体調を崩すことがあったが、今回はなかなか熱が下がらない。この状況が長く続き、もしシュアルヴィッツの手がここまで来ればひとたまりも無い。
「
「コルテ……ありがとう。お腹ペコペコよ」
「それは良かった。熱いから気をつけな」
彼女はそっと粥を口に運び、口に含むと目を細めて幸せそうな表情をした。
それから更に1ヶ月が過ぎ、シーファの具合も良くなった一方で、戦況は悪くなっていた。
「コルテおばさん!」
3人で衣服を繕っていると、1階から少年の声が聞こえてきて、コルテは急いで降りて行った。
しばらくして彼女の驚いたような声が聞こえてきた。
「どうしたんだいその頬は⁉︎」
ルーヴァンは音を立てないように階段を降り、耳を澄ませた。
「港で遊んでたら、鎧を着た人に異国語で急に話しかけられたんだけど、わからないから立ち去ろうとしたら殴られて、怒鳴られたんだ。
それを周りの貿易商人が庇ってくれたんだ。なんて言ってたのって聞いたら、
『ヴィラッドの姫君の居場所を教えろ』って。そんなの俺たちに分かるわけないのに……。でも、街中から情報を集めろって言われて、こうやって聞きまわってるんだけど……。おばさん、知ってる?」
背筋に冷たい氷水を流されたような感覚がした。
「そんな、ヴィラッドの姫君がこんなボロっちい八百屋にいると思うかい?」
「……。ありがと、おばさん」
まさかこんなにも早いとは思ってもいなかった。ここはもう危ない。港から離れないと……。
2階に上がると、シーファはいつの間にか荷物をまとめて長い布を頭から被り、そこに座っていた。
ルーヴァンは唇を噛み、彼女の前に座った。
見ると、膝の上で組まれた細い手が震えている。
ルーヴァンはその手をそっと包み、彼女に優しく落ち着いた声で言った。
「……仕方ないよ。逃げるしかない。前に話した通り、王宮からは遠回りして森の方へ行こう。大丈夫、俺が守るから。……絶対、絶対守る」
彼女は小さく頷き、手を握り返した。
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