第10話

「なんであの人達が薬師だってわかるんだい?」

 コルテは丸い瞳で尋ねてきた。これは誤魔化せそうもない。

「コルテ、詳しいことは後でちゃんと話すわ。まずは人が増えてきたから客引きしましょう」

 ルーヴァンが口を開きかけるとシーファが横から冷静に言った。

「そうね。夕食の時にでも聞かせて頂戴な」



 店を閉め、シーファが売れ残った野菜でスープを作り始めたのは日没直後のことだった。

 床に敷いた色とりどりの刺繍が施された布の上に料理を並べ、3人はそれを囲んで床に座る。シーファが最初にお辞儀をして料理に手を伸ばす。それに続いてルーヴァンもコルテも料理を口に運んでいく。

「コルテ、これから話すことは、どうか誰にも言わないで欲しいの。約束してくれる?」

 シーファが尋ねると、コルテはゆっくりと頷く。

「実は彼女、ヴィラッド帝国の姫君でございます」

 シーファが言う前に、ルーヴァンがそう告げる。

「そして私めは姫君の護衛です」

「ああっ……! 申し訳ございません、このような無礼をどうか……」

 コルテは一瞬硬直した後、慌てて座り直して詫びようとする。

「良いの。私たちは北の方で始まった戦から逃れるために一時的に王族の身分は捨てたの。だから普通に接して貰った方が返って嬉しいわ」

「北の、戦?」

「国王様が戦から姫君を守るために決断なさったことですが、今のところ、こちらにまで戦の火が来ることは無いと思われます」

 コルテは、そう……。と呟き、視線を落とした。

「コルテ、戦が終わったと言う知らせが来るまで、ここに置いてくれませんか?」

「それは勿論。でも……そんな大事なお姫様を私が守れるか……」

「彼女は私がお守りします。ですから、貴女は『行き場のない孤児を保護した』というだけで良いのです。ご心配なさらず」



 深夜、シーファが眠ったのを確認したルーヴァンはコルテの部屋へ行った。

「コルテ、もし……もしも、考えたくもないけど、俺たちの国がこの戦で負けてしまえば、敵国は姫君を探し出そうとする。その追手がここに来た時は、俺たちはきっと逃げることになる。そしたら、コルテは俺の事も、彼女の事も、素性は何も知らなかった。行き先も知らされていない。そうして欲しいんだ」

「……私は別に武器を持った兵士なんて怖くも何ともないさ。あんたらを守ってやれるなら、そのくらいの嘘、ついたって構わない。この命が尽きようと、絶対に守ってやるから」

 彼女は暖かな声で、陽だまりのような笑顔をみせた。

「ありがとう。コルテ」

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