第8話
一夜目は森の大木の根元で野宿。
二夜目も森の川の近くで野宿。
三夜目も森の木の上で野宿。
そして今日。やっと街に出た。
セランタの大きな街は国のど真ん中と、「海」に面したところにある。それ以外は森か草原だ。ルーヴァンたちが辿り着いたのは「海」に面した街、セラチュイムという城下町。人は多いが、ヴィラッドよりも規模は小さいように思える。
「ロヴェル、まずは食料の確保か?」
「そうだな」
人混みの中を縫うように進んでいくうちに、シーファは慌てたように袖を掴んできた。どうやら、逸れそうになったようだ。
「ロヴェル歩くの速すぎ」
「……すまん」
ふくれっ面の彼女を連れ商店街を進むと、一軒の八百屋の前に弾き出された。
「おや、お二人とも仲が良いねぇ。お兄ちゃんも大変ねぇ。お遣いかい? ここのは安いよ」
店の奥から出てきたのは、割腹のいい女性だった。齢50くらいだろうか。
「いや、まぁ……兄弟みたいなものですが……。お遣いじゃなくて、普通に。さっきここに着いたばかりで」
「あら、若いのに旅人かい? どこから来たんだい?」
「私たちはヴィラッド出身よ。両親が死んでしまって、住む家が無くなってしまったの」
「まだ若いのに苦労してるんだねえ。そういえば、お嬢ちゃん確かにヴィラッドらしい顔立ちしてるものね。真っ白な肌にはっきりした目鼻立ち。羨ましいわ、私も若い頃はもうちょっと可愛かったのよ?」
女性はそう言って笑い、袋に野菜や果物を詰め始めた。
「んで? 宿は決まったのかい?」
「いえ、今日も野宿をしようかと……」
ルーヴァンが答えると、彼女は手を止め、顔を上げた。
「そんなに可愛い妹がいるっていうのに野宿⁉︎ あんたしっかりなさい! ここはそんなに治安がいいわけじゃないんだ。野宿なんてしてたら娘売りの連中に拉致られるよ!」
それだけは避けたい。
「……わかった‼︎ 金はいらないから、あんたらうちに泊まっていきな!」
「え、」
なにがわかったと言うのだ?
「そんな、大丈夫ですよ! 宿なら今から探しますから!」
「今の時間からだったらきっとほとんど埋まっていると思うわよ?」
「でも……なんか申し訳ないというか……」
「じゃあ代わりに、明日から店の手伝いをするっていうのはどう? 最近腰が悪くて仕入れの時大変なんだよ。しかも客の数も減ってきているから、嬢ちゃんには店番の手伝いを頼みたいね」
彼女は、これで文句ないだろうと言うようにウインクするとにっと笑った。
「お願いします!」
「俺たちで良ければ!」
「よし決まり! 部屋案内するからついておいで」
「で、ここは好きなように使っていいからね。隣の部屋が片付いていないから、今日は二人同室で我慢してもらえるかい?」
「いえ、別にずっと二人部屋でも大丈夫ですよ」
「……あんた年頃なのに兄ちゃんと同室を嫌がらないんだね」
「いえ、二つに区切るので」
シーファは真顔でそう言うと、ルーヴァンを横目で見た。彼女のその瞳には影がある。
「で、あんたらの名前は?」
「ロヴェルです」
「ソフィーナです」
「二人ともヴィラッド人らしい名前だね。親御さんは愛国心が高かったんだねぇ」
「ええ、まあ」
シーファは苦笑いをして髪を揺らした。
「私はここいらじゃ、八百屋のコルテって呼ばれてるんだ。コルテって呼び捨てで構わないよ。あと敬語は不要!」
「ありがとう、コルテ」
「ソフィーナは愛想が良いねぇ、明日からの売り上げ回復が楽しみだよ」
彼女は陽気な声でそう言い、笑ってみせる。その笑顔が、なんだか懐かしいようにも思えたのは、何故だろうか。
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