第5話
翌日、俺はシーファを連れ、呪術師のもとを訪ねた。
「……久し振りだね、シーファ、ルーヴァン」
しわがれた声に、高い鼻の、いかにも「魔女」という風貌の老婆は、そう言ってシーファの髪を撫でた。
「今度はどうしたんだい?」
「……婆様、私、また、夢を……みて……」
彼女の声は段々と小さくなり、やがて俯いた。
「夢か。どんな夢を見た?」
「北の国と西の国が、時期に戦を始めて、我々、ヴィラッド帝国もそれに巻き込まれる……という夢です。ここ2週間毎晩見ます」
「それは……。早く王様に知らせた方が良い。それはきっと予知夢だ。慌てなくていい、もし現実になってしまっても、お前の父上はきっとお前を守ってくれる」
老婆は深刻な表情でシーファに言った。
シーファは黙って頷き、俺の方へ向きを変えた。
「父上に会いに行くぞ」
「はい」
「婆様、ありがとうございます」
「いえいえ。……ちょっと、ルーヴァン、耳をお貸し」
老婆はシーファに手を振った後、俺に手招きした。
「何がなんでも、姫を守り抜きなさい。片時も離れてはならぬぞ」
声を潜めて、彼女はそう言った。瞳には、強い「芯」があり、それは俺の背中を押した。
*****
シーファの父にあたる、このヴィラッド帝国の国王様が居る宮廷の廊下を歩いていると、兵士やら何やらが慌てたような様子で我々を通り越していった。
もしや……
「お父様!」
突然、シーファは駆け出し、部屋に入って行った。俺もその後を追い、少し遅れて部屋に入ると、そこには将軍や、位の高い兵士が10名程居た。
「……お父様、これは……も、もしかして……?」
「……シーファ、心配することはない。なぁに、これくらいの戦、すぐに片付くさ。だから、そんな顔をするんじゃない」
遅かった。既に戦は始まり、そしてヴィラッド帝国はそれに巻き込まれたのだ。
「お父様、こんな戦に加わってはいけません。この戦は……、そう簡単なものではありません」
その時、国王の眉がピクリと動いた。
「……どういう事だ?」
国王は、彼女が予知夢を見ることは知っている。これは、戦に参加するのを止められるかもしれない。
「お父様、私、ここ最近ずっとこうなる夢を見ていたの。それを……話に来たのにっ……もう遅かったなんてっ……!」
彼女は両手で顔を覆い、肩を震わせた。俺はその肩をそっと抱き、国王に申し上げた。
「国王様、彼女は2週間ほど、戦の夢を見続けていたそうです。そして毎回、戦の行く末は見えないそうです。……ということは、この戦、長引く可能性が十分にございます。どうか……」
「わかった」
俺が言い終わらないうちに、国王は立ち上がって言った。
「ルーヴァン、シーファを連れて、逃げろ」
一瞬、頭が真っ白になった。
彼女を連れて、逃げる……? そんな事をしては、彼女を傷付けてしまう。しかし、ここに残ったところで、安全が保証される訳でもないのだ。
「万が一の為だ。ルーヴァン、お前はシーファを連れてしばらく国を出るのだ。少しでも安全な場所に……」
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