第4話

「ルーヴァン、」

「はい。なんでしょうか?」

「……眠れんのだ。散歩に付き合ってくれないか?」

「……ええ、喜んで」


 この王宮に仕えるようになってから、10年。 

 最近、シーファは眠れないと言って深夜に俺のところへ訪ねてくることが多い。

 彼女は決まって同じ夢を見るそうで、それに苦しんでいた。

「また同じ夢を見た」

「……これで、2週間ですね。呪術師にでも今度相談してみましょうか?」

 王宮内の庭園を2人でゆったりと歩く。彼女の羽織っている衣と、栗色の髪がそよ風に吹かれ、美しくなびく。

 月明かりが彼女の白い肌に当たり、反射し、なんとも言えないほど美しく輝きを放つ。

「……あの夢は、正夢になってしまうのだろうか」

 彼女は近くのベンチに腰掛け、池の水面を見つめて、呟いた。

 見ると、彼女の唇と指先は微かに震えている。

 俺はそっと手を伸ばし、彼女を抱き締めた。

「な……⁉︎ そんなことしなくても良い! お前は私の母でも、なんでもないであろう⁉︎ ただの護衛である故……」

「今は護衛ではなく、貴女の友だ。……シーファ、何も怖がらなくていい」

「ずるい」

 彼女はそう言って、俺の胸に顔を埋めた。

 ずるいのは、貴女でしょうが。

 俺は彼女の髪をそっと撫でた。

「その夢……。いつも見る夢とは、どのようなものなのですか?」

「……本当に、正夢にはなって欲しくないものだ」

 それは、アバウトすぎる。

「……北の国と、西の国が、今、仲が険悪なっているのは、ルーヴァンも知っているだろう?」

「はい」

 北の国(シュアルヴィッツ帝国)と、西の国(ヨルグァナ帝国)は、国境線上にある鉱山をめぐり、対立しているのはここ3週間ほど、街のどこへ行っても話題になっている。

「……夢によると、あの国々は時期に戦を始める」

「……⁉︎ それは……」

「しかも、我々もそれに巻き込まれる事になる」

「……っ!」

 驚きの余り、言葉が出なかった。

 いくら夢であるとはいえ、彼女の見る夢は侮れないものだ。いわゆる、予知夢。-それだけリアルで、毎晩のように見る夢であるならば、予知夢である事の可能性が高いのだ。

「シーファ、明日にでも呪術師に相談し、王様にこの事を伝えねば……‼︎」

「……やはりルーヴァンもそう思うか? 夢では戦の行く末は見ていない。本当に戦になってしまえば、それは長引くということであろう。……私に出来ることは、何かあるだろうか?」

 緑色の透き通るようなその瞳は、相手の心も、未来も、全て見えていそうなくらい不思議なものだ。見つめられるだけでドキドキしてしまう。

「……。今は兎に角、呪術師にこの事を話すのです。それから貴女が出来ることを考えなければ……」

「……そうだな」

 彼女は目を伏せ、ハッと溜息をついた。いつの間にか月は雲に隠れ、夜の闇は更に濃くなっていた。

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