第2話
姫の護衛を務めて早5年。
「ルーヴァン、今宵の舞踏会なのだが……」
「ついて来いと?」
「……うん」
彼女は、人が大勢いる場所が苦手だ。
「私のような物騒な人間には、舞踏会など似合いませんし、私が姫のお傍に居たら、未来の旦那様となるお相手に出逢えないのでは?」
と口で言ってはいるが、彼女を誰かに渡すなど、俺は許さない。表面的には、ただの護衛だが、俺は彼女の幼馴染であって、誰よりも彼女を知っている。彼女が今望んでいることだって……。
「父上の事を考えれば、私も嫁に行かなければならないのだろうが…私はまだ、自由に暮らしていたい。だから、ルーヴァンが居てくれた方がかえって良いんだ」
「私は盾ですか……」
「いや、防虫剤かな」
例え方が酷すぎる。
「とりあえず、舞踏会に着ていく服を選ばねば……」
シーファは立ち上がり、召使いを呼んだ。
「……? 姫のドレスはもうお決まりになっているのでは?」
「何を言っているのだ。ルーヴァンの服を選ぶのだぞ?」
彼女は首を傾げて微笑む。しかし、そんなことは恐れ多い。
「私は護衛として傍に居るだけですので……」
「いや、今回は、護衛ではないルーヴァンに傍に居て欲しいのだ」
なぜか、と聞こうと思ったが、今はやめておく。彼女が聞いて欲しく無い、と言うように、困った様に笑ったからだ。
ずっと彼女の傍で寝食共に過ごしてきた為か、彼女の眉ひとつの動きで、彼女の気持ちがわかるようになった。それは逆も同じで、彼女も俺のことをわかってくれていた。
「ルーヴァン、お前も偶には着飾らないと、勿体無いぞ」
「そんな、私にはこの服が一番です」
「根拠のないことを言うな。この私が選ぶのだから、似合うに違いないだろう?」
それも根拠の無いように思えたが、否定もできないので首を縦に振っておく。
*
「どうだ? 着心地は?」
「……なんか、不思議な感じがしますね……。慣れなくて……」
「そうか。……ああ、敬語は使わなくて良い。今宵は、雇用関係ではなく、友として、隣に居て欲しい。……ダメか?」
彼女は、俺がいつも腰に下げている剣を部屋の角のテーブルに置き、振り向きざまに笑いかけた。
その笑顔が、蕾が開いたような輝きを放ち、俺はまた、彼女を守り抜きたいと強く思った。
誰にも渡さない。
俺は彼女の手をとり、微笑みかけた。
「どうか今宵は、この手を離さないでくださいね」
「……もう少し他の口説き方は無かったのか?」
「……。
「うわっ。友に戻った途端に生意気にっ」
「……照れ隠しはおよしなさい。見え見えですよ? お姫様?」
「ちがっ……!」
彼女は顔を真っ赤にさせてそっぽを向いてしまった。
「……こっちだって、口説きなれないんだから恥ずかしいんだよ……」
俺はポロッと本音を零し、首の後ろに手を回した。
今宵の舞踏会は、きっといつも以上に緊張するだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます