序章 〜異国へ。

第1話

「時期にお前は、あの方のお嬢様…この国の姫様の護衛をするんだ。出来るな?」

 ある日突然、俺は父にそう言われた。7歳にして、弓術、剣術、武術は大人に負けないくらいだった。天才と呼ばれても、それが一体何の役に立つのかもわからなくて、嬉しいとも思わなかった。

 父にこの話をされた時も、わからなかった。

 父は、この国の王の護衛をしていた。俺は、多分その繋がりで姫の護衛をすることになったのだ。

 初めて王宮に行ったのは8歳の誕生日を迎えた次の日。そこに居た、1人の少女は、部屋の隅に置かれた椅子にちょこんと座り、警戒心全開で俺を見つめていた。

 俺はその時、彼女の美しさに息を呑んだのを今でもハッキリと覚えている。今まで、“美”を理解できなかった俺が、その時初めて「これが“美”なのだ」とわかった。

 栗色の髪に、緑色の透き通った瞳、雪のような白い肌、さくらんぼのような紅い艶やかな唇。

 俺はその時、触れてしまっては壊れてしまいそうで、近づけなかった。そして何より、目が離せなかった。



「ルーヴァン! 待ってよぉっ」

「早く早くっ! あっ‼︎ シーファ! そこの木の根っこ、気を付けて……!」

 どしゃあっ

 ちゃんと言ったのに……。転びやがった。

「うっ……うえっ……」

 やっぱり泣いた。俺は彼女に駆け寄り、顔や手についた泥をシルクのハンカチで勿体無いと思いながら拭いてやった。勿論、俺のものではない。

「泣くなよ」

「うっ……ルーヴァンが待って……うぐっ……くれないのが……悪いもんっ……!」

「んー……。ごめんって! ほら、あそこの小屋に行こう。そこでちょっと休憩しようよ、なんか秘密基地っぽいだろ?」

「うんっ……」

 その少女は、涙と泥でぐしゃぐしゃになって頷き、ゆっくりと立ち上がった。繋がれたその手は温かく、硬く離そうとしなかった。



 共に過ごす時間を重ねる度、シーファは俺の目を見て話すことが増えていった。

 そうやって、少しずつ、2人の距離が縮まって行くのを感じた時、俺は初めて、身に付けた“強さ”を、この人の為に使うと決めた。

 内気で、繊細で、どこか危なっかしくて目が離せなくて、何よりも美しい、そんな彼女の隣に、ずっと居たい。思いが強くなる程、己の弱さと戦うことになるのも、覚悟して。

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