Flash Back

 がばっ!! と男は飛び起きた。

 全身に汗をかいて、荒い呼吸をする。

「どうかした?」

 横で寝ていた線の細い女性が体を起こし、心配そうに顔を覗き込む。そのお腹は大きく膨らんでいる。

 男は慌てたように周囲のベッドの上をポンポンと叩く。

 ベッド? そうか寝ていて……、夢か。と安心したように仰向けに倒れ、ふうと息をつく。

「どうしたのよ」

 女性は男の意外な一面を見た、という様に少し笑う。

「いや、お前が……。お前と、子供が死んじまう夢を見てな」

「まあ、ひどい」

「ほんと……。ひどい夢だった、夢でよかったよ」

 と顔に腕を当てて目を隠す。

「心配なら、浮気性な所を直すのね」

「おいおい、俺がいつ浮気を」

 と抗議するように起き上ったが、女性はむう、と悪戯っぽく睨む。

「……ああ、もうしない。絶対だ」

 と言って大きくなったお腹を撫でる。


「この子の名前も考えなきゃね」

「うーん、そうだな。俺の子だし、…………き、京助ってのはどうだ?」

「なーに、それ? 和名は嫌いなんじゃなかったの? どうしたの一体」

「ん、ああ、そうだな。どうしたんだろうな」


 女性は顔を近づけ、少し悲しげな表情をすると、

「女の子だったら、『天音』でもいい?」

 男は女性の顔を見る。唇を近づけ口を開くと、世界は真っ白な光に包まれる。



 京司の声は、機体の唸る音と、爆音に掻き消された。

 炎に包まれ焼かれる身を後ろから女性の腕が優しく包み込む。

 エンジンが爆発し、翼が弾け飛び、爆炎を上げながら少しずつ削られて小さくなっていくVTOL『天音』は、地面に辿りつく前に完全に煙になって消えた。

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