Enemy Side
「うるせぇな。どこへ行こうと俺の勝手だろうが!」
金のネックレスをし、ラフな格好と固めた頭髪をした男は、すがってきた線の細い女性を突き飛ばす。
「ああ、ごめんごめん。いいよ。今夜会える。じゃあまたね」
と言って携帯を閉じる。
男は、大きいお腹を押さえてうずくまる女性を一瞥するとさっさと部屋を出て行く。
「京司! どこにいるの? 今、警察から。静音さんが……、お腹の子も」
「司法解剖の結果。死斑から亡くなる直前に暴行を受けた可能性があると……」
「お前が! お前が娘を!」
「しかし病院関係者は、彼女が亡くなる直前に『彼は悪くない』と話すのを聞いています。弁護側は……」
「聞いたかよ。本人がそう言ってんだ。証拠を持ってこいよ! 証拠を」
「おのれぇ、よくも娘を。殺してやる」
「はっ、やってみろぉ。言っとくが、これは正当防衛だ」
男は、地面に伏して足を掴んでくる初老の男を蹴り上げる。
・・・
「はっ、はっ、はっ」
男は寂れたオフィス街を走り、廃ビルの扉にもたれる。
「事情聴取だろうが。犯人みたいに追いまわすんじゃねぇ」
車の音と赤色灯の照り返しが近付き、もたれかかるドアを肘で叩く。三度目の打撃でドアは開き、中に転がり込む。
誰もいない廃ビルのはずが、人影が見える。
長い髪で線が細い。
「静音!? そうか、俺を連れに来たのか? いいぜ、連れて行けよ。どこへでも」
・・・
「はーっ、はっはー。やったぜぇ」
黒煙を噴き、墜落して行く機体を見ながら男は笑う。
「殺しはサイコーだなぁ。なあ! し……、天音!」
後ろに座る女は悲しそうに笑う。
・・・
紫にカラーリングされたロケットの様な形状をした戦闘機の後を、黒いラインの入った白い機体が追う。
紫の機体からは黒い弾がバラ巻かれるが、白い方は全て機銃で撃ち落とした。
至近距離で爆発した炸裂弾の影響を受け、紫の機体の後部が歪む。
「はっはっはー。そんな炸裂弾が効くかよ。後方武器は知ってりゃ何て事ねぇんだよ」
白い機体に乗る男はそう言ってグリップのボタンを押し、炎を上げて飛び立つサイドワインダーを見送る。
紫の機体の後部が発光し、飛び立たなかった花火のようにその場で火を噴く。フレアを撃とうとしたが装甲が変形していたために暴発したのだ。
サイドワインダーは迷う事なくフレアに着弾。紫の機体は、尻、胴、頭と順に爆発して木っ端微塵になった。
「今の見たかよ。間抜けな奴だ。やっぱこいつは、『天音』はサイコーだ」
後ろに座る女は悲しそうに笑う。
・・・
「こいつと、後もう一機落としゃ終いか?」
金色の機体の背後を追いながら男は言う。鈍重だ、何て事ない。直ぐに終わる。そうすれば、どんな願いでも叶うんだ。そしたら……。
そしたら?
自分は何を願うのだろう。
ふと一瞬意識が遠のき、目の前がぼやけた様になる。原因不明の頭痛のせいか?
「危ない危ない。今戦っているんだ。俺はいつ死んでもいいが、その前にやる事があるだろ」
目を凝らすとぼやけた視界に敵機が見える。白を基調に黒いラインが入った前進翼の戦闘機。
確か背後の敵から逃げていたはずだが……、記憶が飛んだのか?
まるで自分の中に、別の意識が流れ込んでくるようだ。頭の中のもやもやを振り払うように振ると、目の前の敵に意識を集中する。
「次の敵か? そうか、これが最後か! これで終わりだ。落ちろぉぉ!」
狙いを定め、ミサイルの発射ボタンを押す。
火を噴くミサイルは真っ直ぐに敵に向かい着弾。目の前は炎に包まれた。
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