OVER
「敵機、撃墜」
「こっちもね」
まさに映画なんかで墜落するシーンで聞こえる音が機内に響く。本当にこんな音がするんだ。
「エンジン停止! 機首を上げるには推力が足りません! 落ちます!」
至近距離で炸裂弾を使ったダメージと、相手の爪を更に受けた損傷で機体がガタガタだ。垂直に飛べるVTOLとは言ってもエンジンが止まればただのグライダー。しかも重すぎるグライダーだ。
風に乗って上へ昇るためにはより多くの風を受けなくてはならない。今のままではその浮力を得る前に地面に激突という事なのだろう。
「恭助さん、覚えてますよね。城に帰るまでが決闘です」
そうだったね。いよいよお終いか?
「サイドワインダーロック! 恭助! 発射して! 全部!」
ミサイルを? なぜ? とも思うがウミネコの言葉を信じる。
ボタンを二度押し、左右に一発ずつ残ったミサイルが火を噴く、が発射されない。翼に固定されたままだ。機体が僅かに加速する。
「機首を上げて! ゆっくり!」
操縦桿を手前に引く。いきなり動かしすぎると失速する事は最初の戦いで知っている。
失速ギリギリの位置で引き、地面擦れ擦れの所で機体は上へ昇った。さすがに冷や汗をかいた。一度失速を経験していたからこそ出来たのだ。
機体はゆっくりと宙返り、天地が完全に逆転した所でウミネコは機体を回転させ、上下を正しい物に戻した。
「これがインメルマンターンですよ」
「どうでもいいよ」
と汗を拭く。まだ心臓の鼓動が治まらない。
「時間は大丈夫なの?」
「決着がついた後は時間制限はありません」
ウミネコが役目を終えたミサイルを切り離す。
「信管入ってますからね。着陸する時危ないですから」
「恐いな。地面に擦らなくてよかったよ。でもどうやって着陸すんの? 滑走路も車輪もないんでしょ?」
「はい。ちょっと荒っぽくなりますよ」
ちょっとである事を祈ろう。
いつの間にか草原になった背景に城が見える。屋上のドーム、あそこへ降りるわけだが……。
機体はゆっくり旋回するように降りて行く。そして着陸地点を正面に捉えた。思ったより早い。
「大丈夫なの?」
ウミネコは答えない。集中しているのだろう。
どんどん城が近付く。目を開けているのが恐い。
「恭助。こっちを向いて、シートに抱きつくように、しっかり捕まってください」
言われた通りにし、目をきつく閉じる。
ばん! という音と共に機体が急ブレーキをかけたような衝撃。何かにぶつかったような感じではない、エアブレーキを全て開いたような、柔らかい衝撃だ。それでも僕は首根っこを引っ張られたような衝撃を受け、必死にシートにしがみつく。
その次の瞬間に本物の衝撃。地面に激突したか。
僕の体は簡単にシートから引き剥がされ、キャノピーの内面に思い切り叩きつけられた。
だが背中に感じたのは固いガラス板の感触ではなく、柔らかく、温かい感触。
「ウミネコ!」
僕の体を包むように抱き、クッションの代わりとなったウミネコを抱き上げる。
「ウミネコ!」
口と頭から血を流して動かないウミネコに呼びかける。
うう、と微かに呻き、ウミネコは目を開けた。
「きょう……すけ。大丈夫?」
「それは僕の台詞だろ。しっかりしろ。大丈夫か」
「メイドは、死にませんよ」
と微かに笑う。
そうか、機体と同じように次の戦いには。でも、こんな目に合ってまで……と僕は胸が熱くなるのを感じた。
ウミネコを休ませてあげないと……、とコクピットを見回すが、どうやって出ればいいのか分からない。おろおろしているとチェコフが上がってくる。
チェコフが機体の外側から斧の形をしたキーを取り外すと、煙を上げてキャノピーが開いた。
堤恭助
総戦績 五勝
騎馬 うみねこ
決り手 ハンギングクローによる相手の自爆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます