第20話:協会本部訪問1

「樹さん、質問なんですけど、魔導士協会の本部ってどこにあるんですか?」


車で向かっているのであれば、どこか地図に載っている場所のはずだ。


「すまないが、それは教えても意味はない」


「え?意味がないってどういう事ですか?」


「テロや襲撃の可能性を最小限にとどめるため、魔導士協会本部への行き方を知る人間は数人に絞られているのだよ」


「でも今から俺たちも本部へ向かうのであれば、結局場所がわかるのでは?」


本部についた後にでもスマホのGPSを使えば一発で場所は割れるだろう。


「まあ、着いてみたらわかることだ」


すると、樹がそう言った後すぐに運転手が、


「皆様、衝撃に備えてください!」


と、車内の全員に聞こえるように言った。


「え?衝撃?」


「おお、早速来たか」


「来たって何がですか!?」


「これからかなり揺れる事になる。リムジンの席に備え付けられているシートベルトをしっかりと閉めなさい」


「シートベルトって・・・これか」


紺色の座席の隙間にシートベルトの金具が装備してあった。

とりあえずベルトをしっかりと腰に巻く。


「樹さん、一体何が来るんですか?」


「そうだな、端的に言えば次元断層を超える際の摩擦振動だな」


「何言ってるんですか!?」


「皆様、衝撃、来ます!5・4」


運転手がカウントを始める。


「え?ちょっと待て!心の準備が!」


「3・2・1・0!突入します!」


ガァァァァン!


カウントがゼロになった瞬間、リムジンの中が薄暗くなり、震度5に匹敵する程の大きな揺れが車体を襲った。


「うわぁぁぁぁ!」


敬司は想像以上の揺れに声が抑えられず叫び声を上げる。

美玲とアリスがどさくさに紛れて両腕を掴んでいたが、それを気にしている余裕もなかった。


5秒ほど続いた揺れが次第に収まる。


「はぁ、はぁ、な、なんだよ今の・・・」


「そうですね、敬司君は協会本部へ行くのが初めてですから知らなかったんですね。敬司君、窓の外を見てみてください」


「窓の外?」


美玲に言われるがままに窓の外を見る。


「な、何だこれ!」


外に広がっていたのは、高速道路やビル街が連なる都会によく見る風景。

しかし色が違った。前にギースの結界魔法とやらを受けた時と同じ様に、その風景の全てが塗りつぶされた様に紫色になっていた。

人や車は全て消え、異質な静けさを放っていた。


「これって・・・」


「はい、敬司君はギースさんの件で一度見ていますよね。ご想像の通り、ここは超大型の結界の中です」


「超大型って・・・でかすぎじゃないか?」


見た目からの予測だが、結界の端が見えないことから少なくとも都市一つ分は丸々飲み込む程の大きさだ。


「皆様、そろそろ到着致します」


運転手がそう言うと、敬司たち五人が乗ったリムジンはとある建物の敷地内へと入っていった。


リムジンが停車し、運転手がドアを開けてくれる。


「色が、ついてる・・・」


リムジンから降りてすぐ目の前にあったのは、一面紫色だらけの中に不自然に建った、きちんと色の付いた大きな研究所の様な建物だった。


「ここが魔導士協会本部です。東京の中心部に位置する大型結界の中に存在しているため、現実世界からは干渉できないようになっているんです。気になるのでしたら、スマホで場所を確認してみてください」


美玲に促されるようにスマホを取り出し、GPSマップを開く。


「あれ?場所が映らない・・・って圏外じゃないか!」


スマホの電波表示のところには『圏外』という文字が写されていた。

場所的には都心にいるはずなのに、普通は圏外になることはあり得ない。


「だから言っただろう?『着いてみたらわかる』と」


最後に樹がリムジンから降りる。


「協会本部へ行くためには、普通の魔導士は彼のように『資格』を持った者に連れてきてもらうしかないのだ。『資格』を持つ者にしか、あの結界は通れないようになっている」


そう言って樹は運転手の方を見る。


「私わたくし、因幡宗一いなばそういちと申します。以後、お見知りおきを」


そう言って運転手の因幡は深々と礼をする。


「まあ、最も私には『資格』など関係なく通れるがな」


「樹様、確かにその権限は与えられておりますが、たまに私用のために勝手に結界を越えるのはお止め下さい。お一人で本部にくる際は毎回連絡して欲しいと言っているではありませんか」


「細かいことは良いのだ。それでどうだった?初めての『結界越え』は」


「・・・あれはもう少し安全にならないんですか?」


「これでもかなり緩和された方だぞ?だが安心したまえ、ちょっと揺れるが安全性はバッチリだ」


「ちょっとじゃなかったですよ!震度5はありましたよ!」


「よし、それでは中へ入ろう。因幡、案内しろ」


「かしこまりました」


「樹さん!話聞いてます!?」


とにもかくにも、敬司は日本魔導士協会本部へお邪魔することとなった。


・・・・

・・・

・・


「おい、あれってもしかして・・・」

「ああ、おそらく噂の『始祖』だろう」

「横にいるのって『炎姫』だよな?たしか、バチカンの・・・。なんでこんなところに?」

「どうやらあの『始祖』の監視役に着いたらしいぞ」

「監視役!?もう海外から目をつけられているのか・・・」

「樹さんとその娘さんまで、一体何事だ?」



「「「・・・・・・・」」」



なんか、ものすごい注目されている。

俺たち四人が通った先々で、協会本部の中にいる人がこそこそと話している。

どうやら悪口を言われているわけではなさそうだが、良い気分じゃない。


因幡についていくままに本部の奥まで進んでいくと、応接室に案内された。


「それでは中で会長がお待ちです。どうぞ、お入りください」


そう言って因幡は部屋のドアを開ける。

樹が最初に入り、敬司、アリス、美玲と続く。


「長らくお待たせしてしまったようで、申し訳ありません、会長」


樹が最初に口を開いた。


「全くだ、如月よ。どれだけ待ったと思っておるのだ」


「二週間ほど、でしょうか?」


「そうじゃ、二週間じゃ。まあ良い、結果的にこうして連れてきてくれたのだからのう」


そう言って会長とやらは敬司の方を向く。


「初めましてじゃな、神田敬司よ。私が日本魔導士協会会長じゃ」


「・・・・」


「どうした?」


「え?会長・・・ですか?」


「そうじゃが?」


「いや、でも・・・」


「驚くのも無理はない。しかし、こう見えても私はこの中で一番年上じゃよ?」


「と、年上って・・・」


本当だったら魔導士協会会長の御前という事で、しかるべき態度で接するべきだったのだろう。

しかし、今の敬司にはそんな事を考える余裕はなかった。


なぜなら、会長と名乗る「のじゃ語」を発するその生き物は・・・妹と同じくらいの年に見える女の子だったからだ。

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現実世界をRPGシステムで無双します〜拾ったゲームは神のゲームでした〜 ジョージ和寛 @georgewakan

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