第18話:監視役

「それで?これはどういう事なのか、きちんと説明してもらえるんですよね?ア・リ・ス・さ・ん?」


「まあまあ、そんなに怒らなくていいじゃない」


「怒ります!敬司君にあんな事するし、付き合ってるだの何だのって・・・ぅぁぁあぁああ!全部アリスさんが原因なんですからね!?」


「ケイジに抱きついてたのはミレイも同じでしょう?」


「あっ!あれは仕方がなかったんですよぅ・・・」


美玲は生徒会室の会長の席に座って、赤くなった顔を手で覆っている。


今朝の騒動は収まるところを知らず、休み時間になるたびに三人に突っかかる人が絶えなかった。

とにかく今は何故アリスがここにいるのか、現状確認をするのが第一に優先という事で昼休みにこうやって生徒会室にお邪魔しているのである。

ちなみに俺はというと、美玲とアリスという二人の美少女を侍らせるプレイボーイという噂が広まることとなった。



ほれ見ろ、面倒な事になった。



「なあ、どうせこれは魔導士協会絡みの話なんだろ?学校の中でしていい話なのか?」


誰かに聞かれでもしたら面倒だ。


「それなら大丈夫よ。私とミレイがすでに人避けと遮音の結界を二重に貼っているから」


「なるほど、それなら大丈夫か」


素直に納得する自分に驚いた。

どうやらここ二週間ぐらいで、すっかり魔法があることに馴染なじんでしまったようだ。


「話を逸らさないでください!まずはどうしてアリスさんがここにいるのか、その理由から教えてください」


「そうね、まずはそこから話しましょうか。最初に結論を言うと、私は敬司の監視役になったのよ」


「「監視役?」」


「そうよ。本当だったらケイジの試験をした後そのままバチカンに帰る事になっていたのだけれど、日本に残りたくなったの」


「それはどうしてだ?」


「試験が終わった時に言わなかったかしら?『勝ち逃げは許さない』って」


「あ・・・確かに言ったな。って、え!?まさかそれだけの理由で!?」


「正直に言うと私としてはそれだけね。そこで、バチカンの魔導騎士連盟に日本に残らせて欲しいってダメ元でお願いしたら、むしろこちらからお願いしますって言われたのよ」


「それまたどうして?」


「どうやら連盟は最初から私をケイジの監視役として日本に留まらせたかったらしいの。連盟がその旨を私に伝えようとしたら、逆に私の方からお願いしてきたものだから『我が意を得たり』って感じね」


「つまり連盟とアリスの利害が一致したってことか」


「そういうこと。私はケイジにリベンジする機会が得られる。連盟はケイジの情報を私を通して得られる。お互いwin-winの関係ね。それでどうやって監視したらいいのかって聞いたら、既にケイジと同じ学園への留学手続きは済ませてあるって言うのよ。手続きが早すぎて流石に驚いたわ」


「確かにそうですね・・・。アリスさんが日本に来ることが決定して一週間も経っていないというのに、転入手続きが既に済んでいるというのは驚きです」


美玲が不思議そうな顔をしてそう言った。


「そこに関してなんだけど、私の留学の件に関してもバチカンの連盟と日本の協会の間でやり取りがあったそうなの」


「アリスさんが早急に転入できるように日本側が手引きしたってことですか?」


「ええ。もともと日本側とバチカン側の契約は、『アイリス・エーレンフィールが神田敬司の日本魔導士協会編入試験実力検査を行う代わりに、バチカン魔導騎士連盟は魔導研究の情報のうちの幾らかを日本魔導士協会に差し出す』というもので、私が日本に留まることは契約には含まれていなかったの。そこに新たに『アイリス・エーレンフィールが神田敬司の監視役として日本に留まり、その手引きをする』という要件が追加された形ね」


「それでは、その対価としてバチカン側が研究の情報を更に差し出したりしたんですか?」


「そういうことになるわね。それ相応の対価が必要になるのは当たり前よ」


「なあアリス、そうまでしてバチカンは俺の情報が欲しいのか?」


「当たり前よ。本当だったら、拉致してでもバチカンに連れ帰りたいぐらいよ。バチカンだけでなく、他の国もね」


「ら、拉致・・・」


「まあ、そんな事をすれば大問題になるのは目に見えてるわ。詰まる所それほどあなたが『始祖(オリジン)』に近い存在であると言うのが重要だという事よ」


「なるほど、とりあえずアリスがここにいる理由に関してはわかった」


「私もわかりました。それではアリスさん、もう一つの質問をしていいですか?」


「いいわよ。何かしら?」


「今朝のホームルームの時に、どうして敬司君に抱きついたりしたんですか?」


美玲が「やっと聞きたかった」というように質問した。


「二人も見ててわかったと思うけど、男子からくる質問が欲望丸出しすぎてて正直うんざりしてたのよ」


(ああ、やっぱりアリスも思ってたのか)


「そこで、ケイジにしか興味ないって言っておけばこれから言い寄ってくる人もいなくなると思ったの」


「そ、それって敬司君をだしに使ったって事じゃないですか!!!」


「あら、でもケイジにしか興味ないっていうのは紛れも無い本心よ?こんなに興味を惹かれる人、今まで初めてよ?」


「ぐぬぬ・・・」


なんだろう。アリスと美玲の視線の間にバチバチと電気が走っているように見える。


「ま、まあとりあえず今の現状は理解できたんだ。何はともあれこれからよろしく、アリス」


「ええ。ケイジもミレイもよろしくね」


「よろしくお願いします・・・」


美玲の警戒は未だに解かれていないようだった。


・・・・

・・・

・・


その後の午後の授業もなんとか切り抜け、放課後は質問攻めにあう前に俺は学校を飛び出した。


美玲は生徒会長の仕事で帰れないらしい。

アリスは一人暮らしを始めたらしく、生活に必要なものを買い揃えるために買い物に行くらしい。


「思えば最近部活行って無いな・・・早く顔出さないとな」


そう言いながら俺は帰路に着いた。

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