第17話:いきなりの転校生
「皆、始めまして。自己紹介をさせてもらうわ。私の名前はアイリス・エーレンフィール、本日からバチカン市国からの留学生という事でこの学園に通う事になったの。これからよろしく」
「「「おおおおおおお!!」」」
教室の主に男子が声をあげて沸いていた。
「おい男子!騒ぐ気持ちも分からんでもないが静かにしろ!エーレンフィールが混乱するではないか!日本人ならまだしも彼女は留学生なんだぞ!」
突然の転校生イベントに騒ぎ立てる男子に向けて先生が注意する。
「いいえ先生、別に問題ありません。何せ私は、日本では夏季休暇が近い中途半端な時期に転校してきた留学生。皆が混乱するのも無理はないですわ」
「い、いや・・・男子が騒いでるのはそういう理由ではないと思うのだが・・・。しかしそこまで気にしているというわけではない様だから安心した。これから色々と言葉の壁・・・は大丈夫そうだな。文化の壁にぶつかる事もあるかもしれないが、そこは異文化交流だと思って楽しんでくれるとありがたい」
「ええ、日本での新しい生活で面白いものも見つけられそうですし、楽しみだわ」
そう言うと、アリスと俺の目が合い、彼女がニッコリと笑った。
俺の後ろの席の男子たちが、
「今俺見て笑った!」
「いや、俺だ!」
「俺と目があったんだ!」
と騒いでいたのは見なかった事にしよう。
「それでは君の席だが、場所はちょうど空いている如月の横にしよう。後ろにいるあのブロンド髪の子がそうだ。彼女はこのクラスの学級委員長と生徒会長をしていてな、何か学生生活で分からない事があればなんでも彼女に聞くといい。実は如月は日本人とアメリカ人のハーフだ。だからというわけではないが、気があうかもしれんな」
「わかりましたわ」
アリスはそう言って美玲の横の席に付くと美玲に向かって、
「学校でもアリスって呼んで頂戴。これからよろしくね」
という言葉とともに右手を差し出した。
「え・・・あ、はい!よろしくお願いします!」
美玲とアリスが握手した瞬間、またクラスのみんなが「これは絵になるな」と騒ぎ出した。
(あれ?確か美玲とアリスは知り合いじゃなかったか?)
魔導士協会編入試験の際にそんな話をした気がする。
知り合いだという事はまだ皆に気づかれていない様だった。
「さて!転校生の紹介も終わったということで、早速朝のホームルームを・・・と行きたいところだが、今朝は取分け話すことはない。エーレンフィールには色々と聞きたいことがあるだろうが、一限開始までにはきちんと席に着いておく様に。それではホームルームを終了する」
ホームルームを終えた先生が出て行くと同時に、クラス中の生徒がアリスの席に一気に群がった。
「ねえねえエーレンフィールさん!どうしてそんなに日本語上手なの?」
「彼氏はいるんですか?」
「バチカンから来たって言ったよね?どうして日本に来ようと思ったの?」
「す、好きなタイプは何ですか?」
「というかめっちゃ可愛いんだけど!私写真部なんだけど、モデルになってくれない?」
「スリーサイズを教えてください!」
生徒が口々にアリスに質問をする。
っていうか男子。欲望だだ漏れだぞ。
すると困った顔をしたアリスは席からすっと立ち上がり、
「そんなに一斉に質問されたら、答えられるものも答えられないわ。それに・・・」
席を立ったアリスは敬司の方へと近づいて、敬司の目の前でピタリと止まる。
「え、えーと・・・アリス?ってうわぁ!!!」
アリスが敬司の右手を掴んで席から立たせ、そのまま右腕を両手でガッチリとホールドされてしまった。
(え!?ちょ!アリス!?胸!当たってるんですけどぉ!?)
「男子には残念だけど、今私はケイジにしか興味ないから、ごめんなさいね?」
「「「「 なっっ!!」」」」
「あ、アリス!!!何を!?」
転校生のいきなりの爆弾発言に驚きを隠せない生徒達。
「どういう事だ敬司!」
「お前には如月さんがいるだろう!」
「エーレンフィールさんとは初対面じゃないのかよ!」
「如月美玲様というものがありながら・・・貴様ァ!」
「ちょっと待ってくれ!誤解だ!いや、美玲の事も誤解だけど・・・とにかく全部誤解なんだぁ!」
俺が必死に弁明を図ろうとしたその時、
『二人とも・・・何してるんですか?』
後ろから刺される様な冷たい声が聞こえた。その声の主は、
「み、美玲?」
「何をしているのかと聞いているんです」
「何って、ケイジに抱きついてるだけよ?」
「・・・!と、とにかく敬司君から離れてくださいぃ!」
「おわっ!」「あら」
敬司のアリスの間に入った美玲が二人を引っぺがす。
「ちょっと何するのよぉ。別に悪い事してるわけじゃないじゃない」
「悪い事じゃなくても、ダメなものはダメなんですぅ!」
「ダメなものはダメって・・・一体ミレイはケイジはどんな関係なのかしら?」
「え!?えっ・・・と・・・」
いきなりの核心を突く質問に、美玲が固まる。
「私は・・・敬司君の、と、友d」
美玲が友達と言おうとしたその時、
「美玲様はそこの神田敬司と恋人関係にあるのだ!」
「いくら美しい方であろうと、お姉様の恋路を邪魔することは許しません!」
敬司と美玲の関係を盛大に勘違いしているファンクラブとお姉様隊が先に答えてしまった。
「へえ?恋人?そんな事は初耳だわ」
「ふぇ!?こ、恋人!?いえ、違っ!」
慌てる美玲を見て、アリスが「ははぁん、なるほど」とつぶやきながら不敵な笑みを浮かべる。
「それなら尚更なおさら離れるわけにはいかないわね」
するとアリスが離された敬司の右腕を再度掴みなおす。
「な、何してるんですか!離れてくださいぃ!」
すると今度は残った左手を美玲が掴んできた。アリスほどではないが、人並み以上にはある美玲の胸が敬司の左腕に押し付けられる。
現在まさに「両手に花」状態である。
(おおう、美玲の胸もなかなか・・・ってそんな事考えてる場合じゃない!)
「お、おい!二人とも何やってるんだ!」
教室のボルテージは最高潮に達する。
「美玲様!頑張ってください!」
「何で・・・何で神田ばっかりぃ!」
「アリスさん!神田なんかよりも俺と付き合ってくれませんか!」
「ここに!アリス様親衛隊の結成を宣言する!」
「「「「おおおおおお!!!」」」」
(ちょっと待ってくれぇ!俺を抜きにして勝手に話が進んでいくんだけどぉぉぉ!)
頼むから・・・頼むから・・・
「頼むからいい加減にしてくれえええぇぇぇぇぇぇ!!」
俺の心からの叫びは、虚むなしくも教室の騒ぎにかき消されてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます