第16話:魔導士協会編入試験3
【アイリス】
「『炎槍』は全部片してやったぞ。本当の勝負はここからだ!」
辺りに静けさが戻る。
ミスリルソードの切っ先を向けられたアリスは、
(本当に・・・すべて防いで見せた・・・)
正直に言って驚愕である。
すべては防げず一発ぐらいは被弾するかと思っていたのだ。
そして彼女にはもう一つ驚いたことがあった。それは、
(あの右手の剣は、いつ抜いたの?)
さっきまで空手であった敬司の右手には、『炎槍』を三本 屠ほふって見せた銀色の剣が握られている。
(ケイジの身なりから考えて、見たところ刃渡り1メートルに近い西洋剣を隠す場所はないわ。となればあの剣は『抜いた』のではなくその場で『生み出した』もの)
そんなことが出来るのはおそらく二つだけ。
(『召喚魔法』、もしくは『錬金術』・・・。ケイジは間違いなくそのどちらかを使ったってことだわ)
召喚魔法とはこの世にあらざる者を魔法の力でこの世界に呼び出すものである。主な例としては召喚者の体や魂を売る代わりに願いを叶える『悪魔契約』がある。
それに対し錬金術は、何もない「無」の空間に物質という「有」を作り上げる物質錬成魔法。既に存在している物質を他の物質に変化させることもできる。この魔法によって人間の体を作り上げ冥界から魂を呼び戻して復活させる「人体錬成」は、魔術界では永遠のタブーとして禁じられている。
(でも、錬金術で作ることが出来るのはあくまで「この世界に存在し得る」物質。あの剣が鋼などであったとしたら、『炎槍』に耐えられる筈がないわ)
なら結論は一つ。
(あの剣は『召喚魔法』によって呼び出された剣・・・。おそらく材質はこの世のものじゃない・・・)
そして『炎槍』を3本屠った際にできた壁の傷。恐らく斬撃のあまりの鋭さに斬撃が飛んだのだろう。であれば、あの剣の直撃だけは避けなければならない。
アリスはこれらの考察を5秒もかからず終わらせた。
彼になら、自身の全てをぶつけても「壊れない」気がした。
【敬司】
(なんとか、乗り切った!)
魔法のクールタイム制の事もあり状況は芳かんばしくなかったが、武器でも十分渡り合える事が証明された。
(魔法を連続で発動できない欠点は武器で補えるかもしれないが、問題なのは接近できるかどうかだ)
魔導士は基本的に遠距離からの攻撃を基本とする。故に敵を容易に近づかせない事が前提となる戦い方をするのだ。
それに対抗するためには、先ほどのように『見切り』のスキルと『危機察知』のスキルを駆使して相手の魔法を迎撃もしくは回避して懐に入り込むしかない。それで隙さえできればゼロ距離で強力な魔法を叩き込む。
魔法と武器の複合戦術ハイブリッドスタイル。
(差し詰め『魔剣士』と言ったところか。俺にはこれが一番合っているのかもしれないな)
敬司とアリスはお互いに状況整理を済ませ、再び視線を交わす。
先に動いたのはアリスだった。
「ケイジ、こんなに楽しませてもらったのは本当に久しぶりよ。そのお礼として、私の全てをぶつけてあげる」
アリスがそう言った瞬間、ズン!と地面に響くプレッシャーが敬司を襲った。
凄まじいほどの炎が彼女を纏まとい、それが徐々に凝縮して形を成していく。
敬司はその形に見覚えがあった。
「これは・・・龍(ドラゴン)!?」
アリスの後ろに一体、巨大な炎のドラゴンが現れた。
「さあ、ケイジ。あなたにこれが受け止められるかしら?」
敬司は瞬間に理解した。アリスのこの魔法が、正真正銘最後の切り札級のものであると。
「炎を纏いし龍よ、全てを焦土と変えよ!『龍焦炎舞(フレイム・ドラゴニカ)』ァ!」
グラァァァァァァ!!!
まるで爆発音の様な雄叫びと共に、龍がこちらへ向かってくる。
敬司は龍に向かってミスリルソードを構え、
「受け止めてやるさ。正面突破だ!」
敬司の体とミスリルソードに雷が纏い始める。次第にその規模を増す雷は、敬司を一つの雷球に変えた。
自らを雷と化して、天から降り注ぐその速度と破壊力をその身に体現する魔法。
「『雷速(ボルテッカー)』ァァァ!!!」
龍の頭と同じぐらいの雷球が高速で飛び出し、衝突する。
「こ、これは・・・厳しいか!?」
敬司はなんとかミスリルソードで受け止めたものの、龍の勢いが収まらない。
とてつもないエネルギーの衝突に、限界に近づいたミスリルソードが悲鳴をあげる。
(このままだと、剣が折れる!)
敬司は龍の勢いを止めるべく、彼に残されたもう一つの魔法を放つ。
「これでどうだぁぁ!『焱嵐』!」
剣を右手だけで支え、左手に魔法陣が展開される。
その魔法陣から竜巻の様にうねる巨大な炎が溢れ出し、雷球をさらに覆い始める。
「いっけぇぇぇー!!!」
黄色と赤色の二色を纏った敬司は徐々に炎龍を押し返し始め、遂に炎龍を生滅させた。それと同時に敬司が使った2つの魔法も解けた。
「っはぁ、はぁ、はぁ、っ」
強力な魔法を複数同時に使い、肩で息をする敬司。
アリスを見ると、彼女もやはり疲弊しているのか、息が乱れている様だった。
「まだ、倒れていない・・・か」
敬司はクールタイムが丁度終わった『炎槍』を発動しようとした。すると、
「まって・・・その必要はないわ」
その言葉と同時にアリスは地面に膝をついた。
「魔力切れ・・・かっこ悪い終わり方ね・・・。その『炎槍』を撃たれても、もう防ぐ手段がないわ。悔しいけど、あなたの勝ちよ、ケイジ」
「俺の・・・勝ち?」
「ええ、そうよ。おめでとう」
「・・・・」
「案外あっさりと認めるんだな、って顔してるわね」
「っつ!いや、そんなことは・・・」
少し、思ったかも。
「私の喋り方や振る舞いをみて、高いプライドを持ってる様に見えるのは仕方ないわ。実際に私は自分自身の力に誇りを持っている。けどね、私は勝負事には基本ストイックでいようと思ってるの。全力で戦って負けたならそれは私が弱かっただけの話。『私は負けたなんて認めないわ!』なんて言うつもりはないわ」
アリスはゆっくりと立ち上がり、俺の元まで来て右手を差し出した。
「久しぶりに全力で戦えて楽しかったわ」
「いや、こっちも色々と発見があった。ありがとう」
二人は握手を交わした。
「でも、勝ち逃げは許さないわ。次は勝つわよ」
「オッケー、望むところだよ」
挨拶が終わったところで樹が試験終了宣言を行う。
「これにて実力検査を終了し、神田敬司が魔導士協会編入試験の全課程を終えたことをここに宣言する」
晴れて俺は日本の魔導士として協会に招かれることとなった。
また四人で転移結晶で樹のオフィスに戻り、今日はひとまず解散という形となった。
俺よりも疲れている様だったアリスは、一足先に泊まっているホテルに戻るそうだ。
できればもう少し話をしたかったが、俺も疲れていてそれどころではなかった。
戦闘でボロボロになった制服は樹が同じ大きさの新品の制服に取り替えてくれた。
遅くなると事前に家族に連絡は入れていたため、妹に怒られたり晩飯がなくなるということは無かったが、飯を食ってすぐに風呂に入らずにベッドに潜り込み、そのまま眠ってしまった。
風呂は、明日の朝入ろう。
・・・・
・・・
・・
・
翌日の朝、学校にて
「おはよう敬司」
「おー、大沢ー。おはよう」
「どうした?疲れた顔してんなぁ」
「そうか?回復したつもりだったんだけどなぁ」
そんな何気ない会話をしていたのだが、今日はやけに教室が騒がしかった。
特に男子が。
「なあ、大沢、なんか今日イベントでもあったか?」
「イベント?」
「そう。クラスが騒がしい気がするんだが・・・」
「あぁ、イベントならあるっちゃあるかな」
「何なんだ?」
「実は、風の噂で聞いたんだけど、今日この学園に転校性が来るらしいぜ」
「は?転校生?夏休みまであと1ヶ月のこんな時期に?」
「まあ確かに不思議に思うのも無理はないが、さらにおかしな事にその転校生は留学生らしい」
「留学生?ってことは外国から来た・・・」
あれ?これってまさか・・・
「なあ、大沢!その転校生の特徴とかわかるか?性別とか、髪型とか!」
「お、おう。やけに食いつくな。そうだなぁ、直接見たわけではないから聞いた話になるけど、その転校生は女子で、赤い髪の色をしていて、スゲェ可愛かったそうだ。あ、あと胸も大きかったってよ」
留学生、女子、赤い髪、可愛い、あと胸が大きい。
敬司がこのキーワードの羅列を聞いて思い浮かぶ人間は一人しかいなかった。
「おいお前ら!いい加減席につけ!朝のホームルームを始めるぞ!」
ホームルームの時間になり、先生が教室に入ってくる。
「えー、今日はいきなりの事で私も少々混乱しているのだが、転校生を紹介したいと思う」
その言葉に、「え?今更?」と疑問を抱く生徒や、「おい!やっぱりあの噂本当だったんじゃないか!?」と小声で喋り出す生徒が出てきた。
「それでは、入って来なさい!」
ガラッとドアを開けて入ってきたのは、赤髪の美少女だった。
(やっぱり!!!そういう事かぁ!!!)
「皆、始めまして。自己紹介をさせてもらうわ。私の名前はアイリス・エーレンフィール、本日からバチカン市国からの留学生という事でこの学園に通う事になったの。これからよろしく」
アリスが自己紹介を終えた瞬間、
「おおおおお!スゲェ!めっちゃ可愛いじゃん!」
「マジかよ!美少女の転校生!?しかも留学生!?噂の通りだぁ!」
「俺、俺っ!このクラスで良かったぁ!!」
「なるほど、確かに美しいが、我らが女神、如月美玲様にはかなわない!」
クラスの生徒が一気に騒ぎ出した。
特に男子が。
とっさに近くの席にいる美玲に、「どうなってんだよ!!」という視線を向けると、「すみません、私にもわかりません。何が何だか・・・」という感じで首を横に振った。
確かにアリスの様な美少女がクラスに来てくれるのは嬉しい。しかし、これは色々と面倒な事になりそうだと敬司は思った。
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