第14話:魔導士協会編入試験1


「うわぁ・・・やっぱでかいなこのビル・・・」


「如月ビルは日本で最高高度のオフィスビルですから」


学校帰りからそのままで、敬司と美玲は如月ビルに向かった。申請書を美玲の父である如月樹に渡すためと、挨拶のためだ。


「なんか、緊張すんなぁ」


「なんでですか?」


「だって美玲の父親は日本魔導士界のトップみたいなもんだろ?そういう存在に会いに行くのに緊張しない方がおかしい」


「そんなに緊張しなくていいですよ、別に気難しかったりとか、曲がった性格しているわけではないですから」


「そうか・・・なら良かった」


「でも、少々面倒な事にはなりそうですね・・・」


「え?どゆこと?」


「会えばわかります」


そんな会話をしながら、ビルに入りエレベーターで上へ登る。


「何階に行くんだ?」


「最上階の66階です」


「ろ、ろくじゅうろく・・・」


この前の52階より更に上があったのか・・・


チン!という音がなり、エレベーターのドアが開く。


開いてすぐの10メートル程のレッドカーペットが敷かれた廊下の先に、大きな両開きのドアがあった。


「この先が、お父様がいる部屋です」


美玲について行ってドアの前に立つ。


「お父様、神田敬司君を連れてきました」


「そうか・・・入れ」


ドア越しに聞こえたのは、おそらく如月樹の声だろう。


低く響く、威厳のある声だった。


ガチャッ・・・


ドアを開けると、何十坪あるのかわからない程大きなスペースの中に、オフィスデスクが一つポツンと置かれただけの部屋だった。壁は全面ガラス張りで、66階からの景色を全面に映し出していた。


そのポツンと置かれた机に、彼は座っていた。


「成る程、君が件(くだん)の『始祖(オリジン)の生まれ変わり』か」


如月樹は顎に髭を蓄えた、見た所40歳ぐらいの袴(はかま)を着た男性だった。見つめられただけで恐縮してしまいそうな鋭い目は、しっかりと敬司を捉えていた。


「お父様、そう決めつけるのは少しばかり早計ですよ」


「確かにそうだ。初めましてだな。私が如月美玲の父親、如月樹だ」


「こ、こちらこそ始めまして、神田敬司と言います。よろしくお願いします」


「うむ、よろしく。ではここからは神田君と呼ばせてもらおう。ところで神田君、美玲から私の事はどこまで聞いている?」


「はい。如月グループの総帥で、日本魔導士協会の会員もとい幹部の方だと聞いています」


「幹部・・・か。別にそのような役職があるわけではないのだが、強(あなが)ち間違いでもない。協会本部に直接意見が通るぐらいの権力を持っていると思ってくれればいい」


「はい、わかりました」


「さて、堅苦しい挨拶は抜きにして、早速本題に入ろう。美玲、申請書は持ってきているか?」


「はい、こちらに」


美玲が樹に申請書を手渡す。


「ふむ・・・問題は無いようだな。神田君」


「はい」


「おめでとう。これで君も魔導士協会の一員だ。歓迎しよう」


「もうですか?」


「君の入会は既に決定事項なんだ。あとは私が協会にこの紙を提出すれば終わり。となればもう入ったも同然だ」


「あ、ありがとうございます・・・」


なんかいつの間にか裏で色々動いてるみたいだな。


「あの、一つ質問があるんですが」


「何だね?」


「俺の入会の件で樹さんが便宜を図ってくれたそうですが、どうしてそこまでしてくれたんですか?」


「面白そうだからだよ」


「え?」


「至極単純だ。両親が魔導士でないのに君自身は魔導士だ。美玲から話は聞いているみたいだが、過去に存在したであろう始祖(オリジン)に似た存在。イレギュラー。そんな者が現れたとなれば、これから面白い事が起こるに決まっている。それが楽しみだからだ」


「えーと・・・」


敬司が何と言おうか迷っていると、


(敬司君)


美玲が小声で話かけてきた。


(お父様は・・・何というか、何か事件や面白そうな事が起こったら首を突っ込まずにはいられない性格なんです。『巻き込まれ体質』ならぬ『巻き込まれたい体質』というべきでしょうか)


言い回しに若干違和感を感じたが、言いたい事はわかった。


「聞こえてるぞ、美玲」


「え!?は、はい!すみません・・・」


しゅんとなる美玲。


「こんな至近距離ならテレパシーでも『聴こえる』ぞ。まあ、自分でもわかってることだがな」


「俺の事って、そんなに面白いんですか?」


「ああ、面白いとも。今や君の名前は日本の魔導士協会だけでなく、世界各国それぞれの魔導士協会でも大ニュースになっているだろう」


「せ、世界中!?!?」


「どうやら君は事の重大さがわかってないようだな。そうだな・・・君の存在の発見は、魔導士にとっては現実世界の科学者がタイムマシンを発明してしまうのと同じくらいの発見だ」


「そ、そんなですか・・・」


「何せ魔法というものの根源が明らかにされるかもしれないのだからな。大騒ぎになって当然だ」


何だろう・・・どんどんやばい方向へ話が進んで行っているような・・・


「安心したまえ。別に君を取って食おうというわけでは無い。君は君の思う通りに魔導士としての人生を歩んでくれればいい。そしてそれはおそらく平坦なものでは無いだろう。だからこれからいろんな事が起きたときに、君が望むのであれば喜んで手を貸そう」


「どうしてそこまで・・・」


「さっき言わなかったか?『面白そうだから』だ」


見れば、樹は威厳もへったくれもないほどニヤニヤしていた。


成る程、これは重症だ。

ビルに入る前に美玲が言った「面倒な事」っていうのはこの事か・・・


「お父様・・・」


美玲が呆れたという顔で肩を落としていた。


「おおっとすまない、気を取り直して話の続きをしようか。神田君は晴れて魔導士協会に入る事になる訳だが、形式上面接と実力検査はきちんと行わなくてはならない。面接に関しては私が今ここでしてしまった事にしよう。えー・・・面接試験、合格っと」


(それでいいんだ・・・)


「そして残るは実力検査なんだが、私が直々にしようと思っていたところ別の人にしてもらう事になった」


「え?お父様が検査係になっていたはずではないのですか?」


「一昨日までは確かにそうだったのだが、昨日『彼女』たっての希望という事で急遽変更になったのだ」


「彼女?」


俺が疑問を口にした瞬間、


『日本魔導士協会、キサラギ・イツキ様。到着いたしました』


後ろのドア越しに聞こえたのは、間違いなく女性の声だった。


「ほら、噂をすれば何とやらだ。何とか間に合ったみたいだな。入りたまえ!」


樹がそう言うとドアが開き、一人の女性が部屋に入ってきた。


いや、美少女、か。


「お初にお目にかかりますイツキ様。アイリス・エーレンフィール、只今バチカン魔導騎士連盟より参上いたしました」


「ウァォ」


その姿に思わず変な声が出てしまった。


服装は黒を基調に赤を乗せたゴスロリのようだった。真紅に染め上げたような鮮やかな赤い髪は、ウェーブのかかったサイドテールにまとめている。髪の色に合わせたように目の色も赤色だった。辛うじて服に収まっている豊満な胸は、スタイルの良さと相まってかなりの存在感を放っていた。


すると彼女は俺の方を向き、


「あなたが例の始祖(オリジン)ね?」


「あ、ああ、そうだけど・・・」


「よろしく、私はアイリス・エーレンフィールっていうの」


「えーと、エーレンフィールさん、よろしく。俺は神田敬司っていうんだ」


「そう、ならケイジって呼ばせてもらうわ。私のことはアリスって呼んでね。皆そう呼んでるから」


「君がそれでいいなら・・・」


こんな話をしながら俺は、


(この子、日本語ペラペラだな)


そんな事を思っていた。

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