第13話:天然生徒会長
「おはよう敬司」
「おう、おはよう。大沢」
「あーあ、月曜日って一週間のうちで一番テンション下がるよなぁ。お前もそう思うだろ?」
「まあ、確かに少々気だるくなるのは否定しないけど・・・」
「毎日日曜日、毎日夏休みにならないかなぁ」
「そんなこと言ってるとますますだるくなるぞ」
「そうだな、毎日日曜日だと思って頑張るか!」
「おい、言ってる事がほとんど改善されてないぞ!」
そうやって二日ぶりに朝ホーム前の笑談に花を咲かせていると、
ガララッ
「あ、如月さんおはようございます!」
「美玲ちゃんおはよう!」
「お姉様!おはようございます!終末はいかがお過ごしでしたか?」
「お姉様、あぁ・・・今日もお美しい・・・」
「みなさん、おはようございます」
美玲が朝の生徒会の仕事から教室に戻ってくると同時に、クラスの皆が一斉に美玲に朝の挨拶を始める。このクラスではいつもの事だ。
今までの俺は、いつもその「おはようラッシュ」を傍目から眺めているだけだった。しかし、
(そうだよな、せっかく友達になったんだ。ここで今までと同じ様に挨拶せずに見てるだけなんて、美玲に失礼だ)
そう思い、俺も挨拶しようと美玲に群がる集団に混ざろうとしたその時、
「あっ・・・」
集団の真ん中にいる美玲と目が合った。
するとさっきまでの笑顔が満面の笑みに変わり、前にいた何人かを押しのけて敬司に近づき、
「おはようございます!敬司君!」
先に挨拶されてしまった。
「お、おはよう・・・美玲・・・」
その笑顔に100点!
・・・と喜びたいのも山々だが、もしかしたら少々天然が入っているのかもしれない天才生徒会長様は、教室に核爆弾を投下してしまったことに気づいていなかった。
いや、「美玲」と呼び捨てにした俺も同罪か。
「「「「・・・・・・」」」」
「おはようラッシュ」から一変。
一気に静まり返る教室。
おそらく唯一理由がわかっていない美玲は、『何か変なこと言いました?』って顔でキョロキョロしている。
(これは、盛大にやっちまったな・・・)
さりとて俺は美玲の友達だ。
覚悟を決めろ、神田敬司。
そして沈黙の中、一番最初に口を開いたのは美玲だった。
「あ、あのぅ・・・私、変なこと言いました?」
(間違いない・・・本気で言ってる・・・)
その疑問に答えたのは大沢だった。
「いや、おかしいというか何と言うか・・・今、敬司のことなんて言った?」
「敬司君・・・ですが?」
「俺の記憶が確かなら、先週までは『神田君』だったような・・・」
「はい、確かにそうですが・・・」
「というか敬司も『美玲』って呼んでたような・・・」
「はい。私がそう呼んで欲しいと言いました。特別な仲になった証にと・・・」
「ちょっっ!!」
「「「「えええぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」」
核爆弾が爆発した。
「おい敬司!どういう事だ!説明しろ!!!」
「美玲ちゃんを呼び捨てに!?ま、まさか!?」
「おおおお、お姉様!?一体これはどういう事ですか!?」
「敬司?俺たち、友達だよな?」
「この後ファンクラブ全メンバーを収集しろ。早急に会議を開くぞ!」
「「「「了解!」」」」
「おいお前ら!!!職員室まで聞こえてるぞ!!!なに騒いでる!!!さっさと席につけぃ!ホームルーム始めるぞ!!」
成る程。混沌カオスとはこんな状況の事を言うのか。
ホームルーム後、質問攻めにされると思いきや、美玲が一番最初に俺のところへ来て、
「すみません、お騒がせしてしまったみたいで・・・」
「い、いや・・・美玲は悪くないよ・・・」
「ありがとうございます。あ、それと、今日お昼ご飯一緒に食べませんか?」
「「「「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」」」」
「え・・・いいけど・・・なんで?」
「お友達とお昼ご飯を食べるのが夢だったんです!それと、話したい事もたくさんありますし」
「あ、そ、そう・・・」
それを先に言ってくれ・・・
発狂した男(一部女)達はもう聞いてないぞ・・・
それがトドメとなったのか、これ以上詮索される事は無くなった。
しかし、逆にそれは皆の誤解を解く機会を失ってしまうこととなった。
その後、すでに彼女がいるので辛うじて理性を保っていられた大沢に再度問い詰められたため、魔法 云々(うんぬん)のとこは省いて説明した。
「なるほど、そういう事だったのか。確かに如月さんを慕う人は多いけど、対等に話せるって人はいない感じだもんな。なんつーか、高嶺の花?って感じで」
案外すぐに納得してくれた。
「如月さんを泣かすなよ?」
だから付き合ってるわけじゃないんだって。
・・・・
・・・
・・
・
【昼休み】
「失礼します」
「はい、どうぞ」
美玲の許可とともに生徒会室に入る。
朝の約束通り、昼休みに弁当箱を持ってきていた。何故生徒会室かというと、教室や学食で2人で食べようものなら、あまりにも強い嫉妬の視線に耐えられないと思い俺が美玲に希望したのだ。
「今日はいつにもなく教室が賑やかでしたね」
「そうだね」
誰のせいだよ、誰の。
「そこでさっそくなんですが、魔導士協会の申請書は持ってきましたか?」
「ああ、持ってきたよ。はい」
美玲に申請書を渡す。
「・・・はい。記入漏れ、記入ミスありません。お父様に渡せば、これでおそらくすぐに申請は通ると思います」
「ありがとう。しかし、美玲のお父さんはすごい人なんだな。その魔導士協会本部を動かせるくらいに」
「そうです。父として尊敬していますし、魔導士としても尊敬しています」
「そうか・・・今日会うのがますます楽しみになったよ」
「ふふふ。楽しみにしててくださいね」
2人とも弁当箱を広げ、食事を開始する。
「あ、そういえば一つ、魔法に関して気になることがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「この前ギースと戦った時に、『炎槍』を第六なんとか魔法って言ってたんだけど、あれってなんだ?」
「あぁ、魔法の序列のことですね」
「序列?」
「わかりやすく言えばランクです。この世に存在する魔法はすべて、最低級の第一位界魔法から最上級の第十二位界魔法までの12段階にランク分けされています。第一から第五位界魔法を初級魔法、第六から第九位界魔法を中級魔法、それ以上を上級魔法としています」
「へぇ、そんなランク付けがあるのか」
ん?それなら、
「なぁ、もしかして、『焱嵐(ファイアーストーム)』って魔法あったりする?」
「ありますよ。火と風の複合魔法の第七位界魔法です。最も、複合魔法なので、その威力は第八位界魔法に匹敵します」
「『雷速(ボルテッカー)』は?」
「はい、それも雷属性の第七位界魔法です。どこでそんな魔法を知ったんです?」
「い、いやぁ、なんとなくそんな名前の魔法があるのかなーって」
「そういうことですか」
そんな言い訳で納得してくれたようだ。
なるほど、ゲームの世界の魔法の★が、現実世界の魔法の序列に関係していたのか。
「魔導士としては、中級魔法の第六位界魔法さえ使えれば一人前と言われています。それ以上となると、極端に使える人数が減ってしまうんです」
「ちなみに美玲はどこまで使えるんだ?」
「わたしはせいぜい第六位界魔法、です」
「え?ってことは十分一人前じゃないか」
「はい。私の年で第六位界魔法まで使えるのはとても珍しいらしいです。鍛えれば第十位界魔法までなら使える素質はあるらしいです」
「それってすごい事じゃないのか?」
「すごい事、なんでしょうね。魔導士皆からも天才、と呼ばれているらしいです」
「やっぱりすごいんじゃないか」
「でも敬司君も同じじゃないですか。ギースさんが言ってましたよ?『あの男は第六位界魔法を使えるようだ』って」
「ああ、『炎槍』の事か」
「それです。でも、もしかしたら同じじゃないかもですね。なんとなく、なんとなくなんですけど、敬司君には私なんか到底及ばない、もっとすごい才能があるような気がするんです」
「そうか?」
「はい。もしかしたら何百年かぶりに、最上級魔法の第十二位界魔法を人間が拝める日が来るかもしれないですね」
美玲がそう言ったのとほぼ同時に、
キーンコーンカーンコーン
昼休みに終了5分前の鐘が鳴った。
「昼休みはもう終わりですね。それでは、放課後またよろしくお願いします」
「了解。美玲は生徒会お休みするんだよな?」
「はい。なので敬司君も部活はお休みしてください」
「それはもう顧問に伝えてるから大丈夫。それじゃあ、教室に戻ろうか」
そうして午後の授業を大量の視線を浴びながらもなんとか受け、放課後学校から離れた場所で美玲と落ち合い、例の如月ビルに向かった。
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