第12話:裏のセカイ

「はぁぁぁぁぁ・・・・」


如月ビルから帰って晩飯を済ませた俺は、自室のベッドに寝転び盛大にため息をついていた。

その手には1枚の紙が握られている。


「日本魔導士協会・・・か・・・」


(まさかこんなベタな名前の協会が本当に存在していようとは・・・)


その紙は、日本魔導士協会への入会手続書であった。


今日の美玲との話で、俺が始祖(オリジン)とやらと同じ様な存在である可能性が判明し、このまま野良(ノラ)の魔導士でいると何かと不都合だという事で協会に入る事になったのだ。




【日本魔導士協会】


その名から容易に想像できる様に、日本国内に存在している魔導士が入会している組合の様なものだ。

基本的には魔導士としてこの世に生を受けた瞬間に入会が決定するのだが、俺の様に途中入会という形となるのは非常に稀らしい。


その協会が掲げる基本理念は、


『この世に存在する魔法という異能の力を、世界に影響を及ぼさない程度に制御すること』


である。


この協会の存在は、一般の人間には知られていない。かといって魔導士でない人間に全く知られていないというのも不都合なので、日本であれば天皇陛下、総理大臣、大物政治家、大財閥の総帥など、限られた人には存在が明かされているそうだ。


なぜ魔法というものが公(おおやけ)にされていないのか、それは始祖(オリジン)が例の文献に記していた様に、『魔法が人間の歴史を大きく動かしてしまうから』である。


魔導士の間にはこんな諺(ことわざ)があるらしい。


「歴史の裏に魔法あり」


魔導士の中でも優秀と言われている研究者曰く、人類の歴史の中で起こった大きな事件や、逸話として語られる伝説のほとんどには、裏で魔法が関係しているらしい。


かの有名な「アーサー王伝説」も、実際の歴史を物語に消化しているに過ぎず、それに登場する「聖剣エクスキャリバー」は世界最強の魔剣として実際に存在するそうだ。

今はヨーロッパのバチカン市国のどこかに厳重に保管されている。


なお、当時は始祖(オリジン)がまだ存在しておらず、アーサー王は魔剣を操っただけで「魔法の才能を与えられたわけではない」ので、魔導士としては認められていない。


他にも、人類最悪の歴史的事件と言われる「第一次世界大戦」「第二次世界大戦」勃発の裏にも、国家ごとの魔導士協会のいざこざがあるらしい。


いくら例をあげてもきりがないので、これぐらいにしておく。


美玲曰く、


『魔法の力というものは、ファンタジー的な存在で十分です』


とのことだ。


とにもかくにも、俺はこの紙にサインと母印を押して、近いうちに美玲に渡すこととなった。


少し気になったので美玲に聞いてみたのだが、美玲の父親である如月 樹(いつき)も、もちろん魔導士協会の一員であった。

それも普通の会員ではなく、日本国内では五本の指に入る程の強い魔力を持つ名誉会員、つまり幹部クラスなのだそうだ。


実は今回の俺の入会には如月樹が噛んでいるらしく、彼が協会に直接申し出たため、申請書さえ出せば軽い面接と実力検査だけで申請が通ることになった。


これまた美玲曰く、


『途中入会でここまでスムーズに申請が通ることはまずないんです。お父様に感謝してください。感謝しまくってください』


とのことだ。


日曜を挟んだ明後日の月曜の放課後、その美玲のお父様が時間を作ってくれることになり、申請書を提出すると同時に面会することになった。


「『現実世界』の如月グループでの業務も死ぬ程あるだろうに・・・これは本格的に感謝しないといけないな」


そう心の中で呟きながら申請書を机の上に置き、その代わりに金ピカPSDを手に取った。


「最近ご無沙汰してたからな。ここはいっちょ、魔導士協会の実力検査までにガンガン強化しておきますか!」


明日の日曜日は予定が無いため、今日の夜と明日一日中でみっちりゲームができる。


「実力検査で、『ま、まさか、こんな才能があるなんて・・・!』って検査員を驚かすのも面白そうだな・・・」


おっといかんいかん。例の厨二病が少々こんにちはするところだった。


(もう治ったと思ったんだけどなぁ。まあ、こんな状況じゃあ仕方ないか)


敬司はゲームを開始し、ステータス画面を開いた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

カンダケイジ:勇者Lv32


筋力:16(+28)

素早さ:11(+12)

体力:12(+11)

魔力:14(+18)

賢さ:16(+8)

魅力:9(+4)


装備:ミスリルソード・マジックローブ・魔法の籠手・聖女の涙・中級魔道書・ミスリルオーブ


スキル:

【打撃】スマッシュLv4・力溜めLv4・見切りLv4・三段返しLv3・★6一閃牙(剣術)

【魔法】ファイアLv5・フリーズLv3・ライトニングLv3・エアショックLv2・★6炎槍・★7焱嵐

【パッシブスキル】カウンターLv3(60%)・危機察知Lv2・追撃Lv2(20%)

【アクティブスキル】パワーエンハンスLv3(160%・3T)・サーチ・マジックエンハンスLv2(140%・3T)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ん・・・?」


開いたと同時に俺は違和感を覚えた。


「魔法が・・・増えてる?」


魔法のスキルの欄を見てみるとそこには、『★6炎槍』の表記があった。


「これってもしかして・・・」


そう。おそらくギースと戦った時にとっさに発動したら、たまたま上手くいったと思っていた、「ファイアランス」と呼ばれる魔法だ。


「ゲームをプレイしている時はこのスキルは無かったのに、いつの間に追加されたんだ?」


現実世界で使えたからゲームのステータスに追加されたのだろうか。

とりあえずゲーム内でも使えるのか試してみることにした。



ズガァァァン!



炎がモンスターに当たる簡素なエフェクトとともに、モンスターがワンパンで溶ける。


「え?結構強くね?」


その後も何回か試したのだが、威力は『ファイアLv5』の2〜3倍程で、クールタイムは1ターン伸びたぐらいだった。


「完全に上位互換じゃねぇか・・・」


おそらくこれからの攻略の主力となってくれるだろう。

もう一個上の『★7焱嵐』も使ってみたのだが、これも同じくモンスターをワンパンしてしまうので、力の差がよくわからなかった。しかし、クールタイムが『★6炎槍』のほぼ倍だったので、相当な威力である事は期待できる。


「現実で使ったらどうなるんだ?」


『炎槍』であの威力だったのだ。

『焱嵐』はどんな威力になるのだろうか。


「ふふふ・・・・はっ!」


(だっっかっっらぁ!落ち着け俺!本格的に厨二病が再発してんじゃないか?)


というわけで、雑魚モンスターが弱くなってきたため、王都の近くから離れることにした。





・・・1時間後、雑魚モンスターがそこそこ手応えがある様になってきた頃、


「あれ、これってもしかして、新しい街?」


城壁の門に近づいて調べると、


『魔法都市カストレアへようこそ』


と書かれていた。


「おお!早速入ってみよう!」


門を開けると、そこは王都の様な中世の住宅街ではなく、商店街の様な成りをしていた。

村人に話しかけると、


「ここは魔法都市カストレア。魔法と知識の街じゃよ。北にある魔法学園では、新たな魔法を覚えることができるぞい。それと魔法を使うのに役立つアイテムも商店街に揃っているぞい。楽しんでいきなされ」


「魔法学園?」


とりあえず行ってみることにした。



・・・・

・・・

・・



「た、高い・・・」


覚えられる魔法のリストを見て、俺は驚愕した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


習得したい魔法を選択してください


★6魔法

炎槍(ファイアランス)

50000G(Lv20)習得済み


氷舞(アイシクルダンス)

50000G(Lv20)習得可能


雷撃(エレクトショック)

50000G(Lv20)習得可能


風刃(ウィンドカッター)

50000G(Lv20)習得可能


★7魔法

爆槍(バーストランス)

120000G(lv30)習得可能


氷塊(アイスブロック)

120000G(Lv30)習得可能


雷速(ボルテッカー)

120000G(Lv30)習得可能


風強弓(ウィンドアロウ)

120000G(Lv30)習得可能


★8

未開放


★9

未開放


★10

未開放


★11

未開放


★12

未開放


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


欄は★12まであったが、習得条件を達成していないのか、未開放となっていた。


今の自分の手持ちは13万Gほど。

ここまで必要以上のゴールドを使わずにコツコツ貯めたお金である。

このお金で★7を一つ、もしくは★6を2つまで習得できる。


「どれにすっかなぁ・・・」


悩みに悩んだ挙句あげく、


「君に決めた!」


『★7魔法スキル『雷速(ボルテッカー)』を習得しました』


★7の雷属性の魔法を習得した。

スキル説明欄を見て使えそうだなと思ったのも理由の一つだが、選んだ一番の理由は、


「現実で使ったらカッコよさそう」


というものだった。


その後も魔法都市の周りでモンスターを狩り続け、レベルを上げ、深夜1時頃に就寝する事にした。

もう少し続けていたかったが、いろいろあって精神的に疲れていたのか眠たくなってしまったのだ。


「明日も一日時間があるから、今日はひとまず休もう」


そう言って俺はベッドに潜り込んだ。



次の日は真昼間の12時に起床し、昼食を兼ねた朝食を済ませると、そのまま晩飯を忘れてゲームをしていた。


おそらくこんなにゲームを続けたのは久しぶりだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

カンダケイジ:勇者Lv50


筋力:20(+32)

素早さ:17(+25)

体力:17(+18)

魔力:24(+35)

賢さ:18(+17)

魅力:14(+13)


装備:ミスリルソード改・エルフローブ・魔法の数珠・女神の涙・中級魔道書・ミスリルオーブ・フィールドマップ


スキル:

【打撃】スマッシュLv5・力溜めLv5・見切りLv5・三段返しLv5・★6一閃牙(剣術)・★7烈火十文字(槍術)

【魔法】ファイアLv5・フリーズLv5・ライトニングLv5・エアショックLv4・ヒールLv3・★6風刃・★6炎槍・★7焱嵐・★7雷速

【パッシブスキル】カウンターLv5(80%)・危機察知Lv4・追撃Lv5(80%)

【アクティブスキル】パワーエンハンスLv5(200%・3T)・サーチ・マジックエンハンスLv4(180%・3T)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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