第11話:始祖(オリジン)

如月ビル52階、応接室にて、2人の若き魔導士が向かい合う。


「今日は来てくれて本当にありがとうございました」


美玲がペコリと頭を下げる。


「いやいや、頭を上げてよ。俺も知りたいこと、聞きたい事あるし。それに、美玲の本当の姿を見れて良かったよ」


「・・・ありがとうございます」


何に対しての礼なのかはわからなかったが、とりあえず受け取っておくことにした。


さて、と美玲。


「いろいろとお話をしたいのは山々なのですが、その前に敬司君には謝らなくてはいけない事があるんです」


「謝りたい事?ギースの件は不問にしたつもりだけど・・・」


「いえ、その事ではありません」


美玲は持ってきていたファイルの中から、写真付きの履歴書の様なものを4枚取り出し机に並べた。


その写真は・・・


「母さん?父さん?瑠美に俺も!?俺の家族全員の写真だ・・・」


「実は、敬司君がここに来る前に、敬司君の家族関係について少し調べさせていただきました」


敬司はそのプリントを手に取る。


そこに書かれていたのは、家族全員の名前、性別、年齢、出身地、学歴、住所、職業などが書かれていた。中には敬司の知らない情報まで入っていた。


「一体こんなのどうやって・・・」


「すみません。それは教えられないんです。というか、私も知りません」


「知らない?」


「はい。お父様に敬司君の話をしたところ、『会うのは構わないが、彼の事を先に調べてからにしてもらう』と言って調べてきたんです」


「なるほど、ね」


個人情報を勝手に調べてしまうのはどうかと思ったが、俺と美玲の二人で会うだけと言っても状況が状況だ。美玲は大財閥のお嬢様で、俺は誰とも知れぬ馬の骨。心配になるのは当然だろう。


「敬司君、怒らないんですか?」


いかにも不安そうな顔をする美玲。


「まあ、普通だったら怒ったり怪しく思うのかもしれないけど、悪用さえしないのであれば、仕方のない事だったと思っておくよ」


完璧に許した訳ではないが、仕方がなかったという事は認める事にしたのだ。


「わかりました」


不安な顔ではなくなったが、少し緊張が残っていた。俺の言いたいことをわかってくれたらしい。


「それと、調べたのにはもう一つ理由が有るんです」


「それは?」


「敬司君の家系の中に、魔導士がいるのかどうかを知るためです」


「なるほど、それでどうだった?」


「敬司君の家系に、魔導士は一人もいませんでした」


うん、知ってた。


「おかしいです」


「え?」


「おかしいんです。敬司君の両親は共に魔導士ではありません。なので、その子供である敬司君が魔法を使えるはずがないんです。なのに敬司君は魔法を使えます。普通はこんな事ありえないんです」


「もしかして、魔法の才能ってのは遺伝に関係していたりするのか?」


「はい。魔導士を親に持つ子供が全て魔導士になれるとは限らないのですが、魔法とは本来遺伝によって受け継がれていくものなんです」


なるほど。そういうシステムになってるのか。しかし、


「でもさ、美玲」


「はい」


「『普通』はこんな事ありえないんだよな?」


「はい。ありえないです」


「『本来』受け継がれるものなんだよな?」


「はい」


「『絶対』とは言わないんだな」


「・・・・・」


「なるほど。つまり俺に当てはまる例外があるって事か」


「・・・・・」


「どうした?」


「驚きました。以外と鋭いんですね。敬司君」


「美玲の思わせぶりな話し方からなんとなく予測しただけだよ」


「そこに驚いたと言っているんです。はい、確かに例外は存在します。いえ、存在すると言っていいのかどうかわからないのですが、もしかしたら敬司君がそれかもしれません」


「その例外とは?」


「人間が後天的に、魔法の才能を何らかの方法で与えられるケースです」


「っつ!!」


「どうしました?」


「いや、なんでもない。続けてくれ」


後天的に才能を与える何らかの方法。

俺の場合は間違いなくあのPSDだ。


「このケースは非常に、と言っても足りないくらいに稀なんです。何せ、魔法の才能を持って生まれなかった者に才能が与えられたケースは今までに一度しかないからなんです」


「一度だけ?」


「はい。後天的に魔法の才能を植え付けられた人間は、後にも先にも始祖オリジンと呼ばれた魔導士ただ一人だけです」


「オリジン?」


「はい。私たち魔導士はそう呼んでいます」


「ちなみに、誰がそのオリジンとかいう奴に才能を与えたんだ?」


「・・・・・」


また黙り込む美玲。


「おーい?」


「神様です」


「え?」


「だから、神様、です」


「カミサマ?」


「決してふざけているわけではないですよ?文献にきちんと書いてあるんです」


「どれくらい前の?」


「・・・・700年前です」


「700年前!?!?!?」


「実はその文献は始祖(オリジン)が書き残したものなんです。彼・・・か彼女かはわかりませんが、取りあえず彼とします。彼はこの世界に初めて生まれた魔導士なんです。彼は文献の中に、『私は神に人知を超えた力を頂いた。これをどう使うかで、間違いなく人間の歴史は大きく変わるだろう』と書き記しています」


「それって信憑性あるのか?」


「文献に信憑性があるかどうかについては、世界中の魔導士からしてみれば『信じるしかない』、『信じないと辻褄つじつまが合わない』という程度です。しかし、今この瞬間、その信憑性は一気に高まりました」


「まさか・・・」





「そうです。敬司君という、『例外』によって、です」





「俺によって・・・?」


「はい・・・私だって、俄にわかには信じられません。しかし、目の前に例外がいるんです。混乱してます。すごく混乱してます。今私が冷静に喋っていられるのが不思議なくらいです。正直言ってキャパオーバーです。どうしたらいいんですかこれ。ねぇ、どうしたらいいんですか!?」


「そ、そんな事言われてもなぁ・・・」


俺の知ったこっちゃないし・・・


(ということは何だ?俺は神から魔法の才能をもらったとでも言うのか?あのPSDが神なのか?いや、そんなわけないだろう。じゃあ、あの時PSDを落とした自転車を運転してた人が!?いや、まさかな。神様がふらっと川辺を自転車で走ってました〜なんてありえないだろう。いや、でも・・・)


俺も混乱してきた。キャパオーバーだ。


「・・・・・」


「・・・・・」


「とりあえず、落ち着こう」


「そ、そうですね」


二人して頭からプスプスと煙を吹きながら、再び元の席に着いた。


「敬司君」


「お、おう」


「質問があるのですが」


「何なりと」


「敬司君はどうやって魔法の才能を得たのか、覚えてますか?」


やはり来たか。この質問。

そうだな。ここは二人だけの秘密ということで美玲を信じて話してみよう。


「いや、残念ながら覚えてないんだ」


(!?!?!?!?!?)


「そうですか・・・少しでもいいので原因の候補、みたいなものはありませんか?例えば突然いつもと違うことが起きた、みたいな」


「いや、それもないな」


(え?お、おい?俺何言ってんだ!?)


「わかりました・・・覚えてないのであれば仕方ないですね・・・」


「ああ、力になれなくてごめんな」


(おい!言え!言えって言ってんだろ俺!!!俺の言う通りに動けよ!喋れよ!)


「この件に関してはまだまだ調べる必要性がありそうですね。是非、協力してもらえませんか?」


「オッケー。なんたって俺は貴重な『例外』なんだからな」


(そんな・・・・なんで・・・・)


俺はその後もPSDの事を何度も喋ろうとしたが、その度に『謎の人格』に邪魔されてしまった。


「・・・・・・」


「敬司君?どうしました?」


「あ!いやぁ、うん。頑張るよ。協力する・・・」


「???」






何が、どうなってやがる。


どうなってんだよ!コンチクショウ!!!

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