第2章:如月グループ接触編

第10話:戦後処理

「なにこれ・・・でかすぎんだろ・・・」


土曜日、東京都渋谷区某所。

敬司の目の前には、高さは間違いなく100メートルは超えているであろう高層ビルがそびえ立っていた。


もう一度スマホを確認すると、美玲から送られてきた位置情報は、間違いなくここを示している。


「本当に、ここにいるのか?」


あまりにも場違いな雰囲気のビルの中へ、敬司は一人で入っていった。



・・・・

・・・

・・



時は敬司がギースと戦い、如月さんと友達宣言をしたすぐ後に遡さかのぼる。


「あの、神田君」


「なに?」


「今日はもう遅いですし、私は流石に帰らなくてはいけない時間です。神田君もそうでしょう?」


そう言われ敬司はふと左手の腕時計を見ると、夜の9時を回ろうとしていた。


「え!?もう9時!?晩飯の時間じゃん!家に電話を、、、ってナニコレ!着信履歴が30件!?」


スマホの着信履歴に、30件縦に並ぶ「妹」の文字。


「確かに如月さんの言う通りだ。我が妹が相当お怒りのようだ」


今日は確か親が家にいないから晩飯は瑠美るみが作っているはずだ。


(これは、覚悟を決めて帰らなくてはな)


「妹さんがいるんですか?」


「ああ、俺に似ないでよく出来た妹だよ」


「へぇ、そうなんですね。是非お会いしたいです」


「え?会いたいの?」


「いえ、なんとなく気になるだけです。神田君の妹ってどんな人なのかなーと思いまして」


「あ、そう」


その後いくつか言葉を交わした後に、解散することになった。


「今は時間がないので仕方ありませんが、神田君にはお話ししたいこと、聞きたいことが沢山あります」


「うん、俺も同じだ」


「そこで、明日の土曜日、場所を用意しますから会ってまたお話ししませんか?」


「土曜日、か・・・」


「なにか、予定でも?」


「いや、ないよ。場所はどうやって知らせてくれるの?」


「あ!そうですよね、、、連絡できなきゃ意味ないですよね。すみません。LIME交換しませんか?」


「了解。えーと、よし。如月さん、このバーコード読み取ってくれる?そのあとスタンプでも何でもいいから送ってくれればこっちも友達登録できるから」


「わかりました。はい、友達登録、完了ですね。フフフッ」


「如月さん?」


「あ、すみません!つい嬉しくて、笑ってしまいました・・・」


「別に謝らなくてもいいけど・・・そんなに嬉しい?」


「はい。だって、身内や生徒会役員以外にLIMEの交換したのは神田君が初めてだったので」


「え!?マジで!?」


「はい、本当です。見てください」


如月さんがスマホを見せてくる。


「Oh・・・」


如月さんと同じ苗字の名前は家族だろう。

それとギースを含めた三人の執事(?)など身内の名前。そして現在の生徒会役員数人。


そして俺。


人数にして20人に満たない。

年頃の女子高生でこの人数は流石にありえない。俺でさえ100人以上はいるのに。


「お恥ずかしい限りですぅ・・・」


恥ずかしいなら見せなきゃいいのに。


「ま、まあ大丈夫さ!これから増やしていけばいい!」


「そうですよね!頑張ります!というわけで詳しい話は明日にしましょう」


「オッケ、それじゃあまた明日な、如月さん」


そう言って帰ろうとしたその時、


「あ、ちょっと待ってください!」


「ど、どうした?」


如月さんに呼び止められた。


「あの、その、私達、友達になりましたよね?」


「おう。俺たちは友達だ」


「それでなんですけど、神田君の『如月さん』って呼び方は少し他人行儀っぽい感じがするかなーと・・・」


(ああ、成る程)


「わかった、じゃあ美玲。これでいいか?」


「はい!ありがとうございます!」


言葉にした瞬間、死ぬほど顔が熱くなったが、美玲は喜んでくれたらしくそれだけでほっとした。


「でも、その理論だと美玲も俺の事を呼び捨てにしなきゃだぞ?」


「呼び捨てって・・・神田・・・ダメです!できません・・・」


「まあ、確かにキャラじゃないよなぁ」


男子の名前を呼び捨てで呼ぶ美玲が想像できない。


「それなら、その・・・」


「うん?」


「敬司君・・・で・・・」


「おおふぅ」


こ、これはなかなかの破壊力ではないか?

女子に下の名前で呼ばれる経験などなかったからな。況いわんや美少女の美玲をや。

悪くない。悪くないぞ。むしろ良い。


「お、おかしかったですか!?」


「いやいや!おかしくない!むしろ良い!」


「それなら良かったです。それではまた明日、敬司君」


「おう、じゃあな、美玲」


今度こそ本当に別れた。

美玲にとぼとぼついていく『命令』が解けた3人の執事が印象的だった。






「ただいまー」


家に帰り、玄関のドアを開けると、妹が仁王立ちしていた。


「おかえり」


声が、笑ってない。


「あ、あのぉ、瑠美さんや?これには事情が・・・」


「今何時?」


「い、一大事?」


「・・・・・」


(なんか言ってよぉ・・・)


腕時計を見る。


「すみません、10時過ぎでございます」


「今日何時に帰ってくるようにって言った?」


「えーと、8時には帰ってこいと・・・」


「で?お兄ちゃんはこんな時間になるまでどこで油を売ってたの?」


「だからそのー、色々理由がありまして・・・」


「言い訳なんて聞きたくない!」


「ええー!?」


言えって言ったのそっちじゃん。


「問題なのは時間よ!時間!なんでこんな時間になるまで何も連絡してこないかなぁ!?何回電話かけたと思ってるの?」


「30回ぐらいはかけてたと思います」


「うるさい!回数なんてどうでも良いの!どんだけ心配かけたと思ってるのよ!遅くなった理由を言う前に言うことあるでしょう?」


「心配かけてすみませんでした」


「もう一回!」


「心配かけてすみませんでした」


「もう一回!」


「心配かけてすみませんでした」


「もう一回!」


「もう充分だろうがぁぁぁぁ!!!!」


玄関でのやり取りはこの後10分続き、ようやく俺は解放された。


心配だった晩飯だが、全てきちんと温め直して出してくれた。瑠美の怒り様から晩飯は諦めかけたが、そこらへんはちゃんとしてる様だ。


「うん。美味いな。また腕あげたんじゃないか?」


「っつ!褒めようったって今日の罪が消えるわけじゃないんだからね!?」


「へいへい」


ツンデレっぽい言葉を発する妹も悪くないが、何度も怒らせるわけにはいかないので今度からは気をつけよう。


「ご馳走様」


「お粗末様でした」


スマホを握って自室に向かおうとすると、



ピロン♫



と、LIMEの通知音が聞こえてきた。

美玲からの連絡だった。


『改めて今日は本当にすみませんでした。魔法云々の話は明日じっくりできればと思っています。ギースさん達には、敬司君は怪しい人ではないとちゃんと言い聞かせておきますから安心してください。土曜に合う場所については、下のURLからアプリのマップに飛んでください』


そのあと、場所を記したURLが投稿される。


「渋谷かぁ。なんでまたそんな都心に?」


と呟いていると、


『それではおやすみなさい。敬司君』


なんだろう。ちょっとグッとくる。


「了解、おやすみ・・・っと」


敬司は返信を済ませ、自室に入った。



・・・・

・・・

・・



「本当に、ここにいるのか?」


敬司が行き着いたのは、「如月ビル」と呼ばれるところだった。


高さおよそ300メートル。日本最高高度を誇るビルである。

その巨大ビルをオフィスに構えるのは、日本有数の大手財閥、「如月グループ」である。


そう、美玲は本物の『お嬢様』だったのだ。


現在の財閥総帥は美玲の父親である如月 樹(いつき)。そのまた父親、美玲の祖父にあたる如月 全十朗(ぜんじゅうろう)と共に2代で日本最高峰の財を成した、いわば天才親子である。おそらくその血が娘にも流れているんだろう。


政財界に大きく幅広いパイプを持っており、権力的にはあの有名なト◯タグループやソフト◯ンクグループとも懇意だという。


「只者じゃない只者じゃないと今まで思っていたが、まさかここまでだったとは・・・」


しかし、美玲がここに俺を呼んだのはおそらく自慢のためではない。俺に彼女自身の全てを見せ、それでも臆さず「普通の友達」として接してくれるのかを試しているのだろう。


「安心してくれ。俺の決意はそんな事で萎えたりはしない」


俺はさらに意識を高め、ビルの中に入っていった。


美玲によれば、ビルに入ってすぐ目の前のカウンターに「如月美玲に呼ばれてきました。神田敬司です」と言って身分を証明できるものを見せればすぐに通してくれるらしい。


「目の前って・・・30メートルは離れてるぞ・・・」


エントランスからかろうじて確認できるカウンターに向かい、原付の免許証を見せて神田敬司だと名乗ると、


「神田様ですね。美玲様からお話は伺っております。どうぞ、こちらへ」


社員らしき人が案内してくれることとなった。その人にについていき、エレベーターに乗る。


(10、20、30、40・・・えぇ?何階あるの?このビル)


エレベーターは52階でやっと止まり、とある接客室の様なところに連れられた。


「それでは、美玲様をお呼びいたしますので、少々お待ちください」


「わかりました」


社員が部屋から出て行き、一人になった。


部屋の中には様々な賞状やトロフィーが飾られている。


「すげぇな、これ。全部如月グループって書いてあるな」


おそらく全てこのグループが受け取った賞なのだろう。そうして部屋を物色していると、


「え・・・・?」


信じがたい文字がとあるトロフィーに書かれていた。


『ゲームハード・ゲームソフト日本シェアトップ記念 如月グループ株式会社SOGA』


「SOGA?SOGAって・・・!!!」


そう。俺が異能の力を持つ原因となったゲームソフト、「勇者の冒険」を製作したと思われるゲーム会社だ。


「如月グループの傘下だったのか!?」


なんという偶然。いや、必然なのか?

とにかくこれは相当大きな情報だ。もしかしたら如月グループに関わることができれば、それを通じてSOGAに接触し、「勇者の冒険」の秘密に近づけるかもしれない。




「いいねぇ、面白くなってきた・・・」




敬司が一人でそう呟いてにやけていると、


「神田様。美玲様をお連れいたしました」


「あ、はい!どうぞ!」


急いで席に戻る。


ガチャ


「おお・・・・」


美玲の姿は美しかった。

いや、いつも見る制服でも相当綺麗だったのだが、今の美玲はその比ではなかった。

ピンク色のフリルのついたいかにも高級そうなドレス。今から社交パーティにでも行くのではないか、と思えるほどの素晴らしい正装だった。いつものストレートの髪型は一つに三つ編みでまとめて右肩にかけ、花のついたカチューシャをつけていた。


眼福眼福。


「す、すみません敬司君。男子と合う約束をしているとお父様にお伝えしたら、是非このドレスを着て行きなさいと言って聞かなくて・・・お見苦しいものを・・・」


「い、いやいや!めっちゃ綺麗!めっちゃ似合ってるって!」


「そ、そうですか?」


「おう!自信を持っていいぞ!」


「ありがとうございます!よかったです、おかしいと言われなくて」



そう言って美玲は向かい側の席に座り、早速今日の本題に入ることにした。

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