第9話: 私、友達ができました。
『二人とも!やめてください!』
「「っつ!!!」」
突然結界の中に響いた女性の声に驚いた二人は動きを止めた。
(この声って・・・)
「み、美玲お嬢様!?」
俺の後ろを見て驚愕の表情を浮かべるギースの視線を追って、敬司も後ろを向くと、そこには先ほど追跡(ストーキング)していた如月さんが結界の中に立っていた。
「お嬢様!?どうしてここにいらっしゃるのですか!?ヴィリーとベクターに保護してもらう様に働きかけたはずだが・・・」
「いいえ、ギースさん。ここに来たのは私の意志です」
「お嬢様の?」
「はい」
「それでは、ヴィリーとベクターは?」
「私が『命令』して、ここに来るのを許可させました。今は結界の外に待機させています。私的独断です。彼らに罪はありません」
「な、なるほど、、、い、いえ!お嬢様!そんな事を言っている場合では有りません!そこにいる男、カンダ・ケイジは極めて危険です!今すぐ結界から出てください!」
「出るも何も、私がここに来たのは神田君に会いに来たからです。出る必要はありません」
(え?俺に、会いに?)
そう言った如月さんは敬司へ歩いて近づいていく。
「な、何をしているのですか!?近づいてはダメです!今すぐ離れて!」
ギースは如月さんを止めようと動こうとする。
「ギースさん、待機してください」
「し、しかし!」
すると、如月さんはすぅーーっと息を吸い込み、
『命令です、ギース。待機なさい』
「ぐっ!!」
突然如月さんがシリアスな声を出したかと思うと、ギースが金縛りにあった様に動かなくなった。
「き、如月、さん?」
「こんばんは、神田君。まさかギースさんの結界の中にいるのが神田君だとは思いませんでした」
「は、はあ・・・」
いまいち状況が読み込めていない敬司はそう返すしかなかった。
「面倒な事に巻き込んでしまって本当にすみません。ギースさんは私に対しては恐ろしい程に過保護で、怪しいと少しでも思ったらすぐに手を出してしまうんです。でも神田君は怪我をしていない様ですし、ギースさんが襲う前に止めに来られて本当に良かったです、改めて本当にすみません!」
そう言うと、如月さんは深々と頭を下げた。
「お、お嬢様!なぜそんな輩に頭を下げるのですか!」
「これはあなたの失態ですよギースさん。私のクラスメイトに危害を加えようとしていたのですから。ことが起こる前だったから良かったものの・・・」
このまま二人を放って置くと話に置いてかれそうなので、如月さんに話しかけた。
「あのー、如月さん?」
「はい、何でしょう?」
「俺、既にギースに攻撃されたんだけど。魔法で」
「・・・・・え?」
開いた口が塞がらない、という感じのアホっぽい顔をしていた。
(如月さんこんな顔するんだ)
「いやだから、フレイムランスとか、アースなんとかとか、魔法で」
「で、でも・・・神田君怪我してないですし、かすり傷一つないですし・・・」
「そうですお嬢様!この男、私と同じく第六位界魔法を操る程の手練れの魔導士です!全力で戦ったのですが・・・歯が立ちませんでした・・・申し訳ありません・・・」
「ギースさんが、歯が立たない?」
「・・・」
無言の、肯定。
如月さんは再び敬司に向き直る。
「神田君、まさか神田君は本当に魔導士なんですか?」
「え、えーと、、、」
どう答えたものか。
俺は魔導士になったつもりはない。
しかし、魔法を使える人間の事を魔導士と呼ぶのであれば、俺は魔導士なんだろうか。
(俺が、魔導士・・・?)
少し気恥ずかしい気分だが、肯定しておくか。
「う、うん、実は俺、魔導士なんだ・・・」
「やはりそうだろう!!!お嬢様!!!こいつは危k」
『黙りなさい!』
「ムグッ!」
如月さんの『命令』によって、強制的にギースが黙らされたように見えた。
これも魔法なんだろうか。
「神田君、少し試したいことがあります。いいでしょうか?」
「な、なんですか?」
「今までに、ギースが不審者と勘違いして民間人を襲うことが何度かあったのですが、その度に魔法に関する記憶を消させてもらっているんです」
何度かって、ダメだろそれ。
どう考えてもギースはポンコツだろ。解雇しろよ。
「神田君にもそれをしなければならないと思ったのですが、もし本当に神田君が魔導士なら魔力を持っているはずなので、記憶消去魔法が効かないと思われます」
「魔力を持っていると記憶が消されないのか?」
「魔力を持たない一般人であれば、簡単に術式が体に組み込まれ、脳の海馬に蓄積された記憶を破壊、再構築して定着させます。しかし、魔力を持つ人間の体に術式を組み込もうとすると、対象の体内魔力による抵抗が生じるので、術式に込められた魔力が消耗、消滅して魔法が無効化されるんです」
「如月さん?日本語でおk?」
「とにかく、もし記憶消去魔法であなたの記憶が消えなければ、間違いなくあなたは魔導士です」
「わ、わかった。やってみてくれ」
「はい。それでは失礼します」
如月さんが俺の後ろに回り、後頭部に手を当てる。
「術式解放・・・記憶対象感知。忘却せよ、『記憶消去(メモリーイレイシング)』」
「・・・」
「・・・」
「終わりました。神田君、そこに立って動かない黒服の男性の名前はなんですか?」
「ギース・マルルフォイ、だっけ?」
「ムググー!(マクスウェルだ!)」
「私は今、何をしました?」
「魔法で、俺の記憶を消そうとした」
「・・・ギースさんの名前に間違いがありましたが、忘れたのではなくただ覚えてないだけでしょう。神田君、あなたは間違いなく魔導士ですね」
「ありがとう・・・ございます?」
「ふぅ・・・まさかこんなに近くに魔導士がいたなんて・・・。なんで今まで気づかなかったんでしょう・・・」
それはおそらく、俺が最近魔導士になったからだろう。
「それにしても・・・ん?あぁ!」
「どうした?」
如月さんがなにかを思いついたという感じでいきなり顔を上げ、俺の顔を見つめてきた。
「もう一つ!あなたに確認しなければいけないことがありましたッ!」
「お、おう」
「今日、神田君が生徒会室に来て、途中で私が出て行きましたよね?」
「ああ」
「その後私が戻ってくるまでの間に、私の机の上で何かを見ませんでした?」
「っつ!!」
如月さんの言う「何か」。それはおそらくピンク色のPSDだ。
「その顔は・・・やはり見たんですね」
「ああ、机の上に置いてあったPSD、だろ?俺もその件について聞きたいと思っていたんだ」
如月さんが「勇者の冒険」のプレイヤーであるのかどうかは出来れば直接聞かずに知りたかったが、あちらから話を持ちかけてきたのだからここで明らかにしてしまおう。
「どうして如月さんはPSDを持ってるんだ?」
すると、如月さんは少し落ち込んだ顔をして、
「やっぱり、私がPSDを持っていたらおかしいでしょうか?」
「い、いや別におかしいわけじゃなくて、なんというか、目的?みたいな」
「・・・・笑わないで聞いてくれます?」
「わかった、笑わない」
「ありがとうございます。実は・・・その・・・このPSDは、友だちを作るために購入したものなんです・・・」
・・・オモッテタノトチガウ?
「・・・・・・・はい?もう一度お願いします」
「だ、だから・・・!友だちを作るために買ったんですぅ!」
「え?友だちを作るため?それでなんでPSD?ていうか如月さん友だちたくさんいるんじゃないの?」
学校の中じゃあ俺なんかと比べ物にならないぐらいに人気がある。
それに比例して友だちなんてたくさん作れるんじゃないのか?
「自分で言うのは自慢してるみたいで嫌なのですが、私には万能に才能があったみたいで、子供の頃から何をやってもうまくいったんです」
(みたい、じゃなくて自慢だな)
「そのせいか皆からは雲の上の存在、みたいな感じに思われて、話せる人は多いんですけど、普通の友達みたいに話せる人がいないんです」
そんなことない、と言いたいところだったが、物理のテストの件で七人が如月さんに教えてもらうのを渋ったこと、お姉様隊やファンクラブがいることを考えると、否定はできなかった。
「なので、クラスの女子の間で流行っているものを聞いてその話に乗れるようにしようとしたら、教えてくれたのがPSDでできる『乙女ゲーム』と呼ばれるものでした」
乙女ゲームとは、可愛い女の子がたくさん出てくるギャルゲーと呼ばれるものの男版である。かっこいい男の人がたくさん出てきて女の子をチヤホヤしてくれるのだ。
「とりあえずやってみようと思ったのですが、まずソフトの入れ方すらわからず、途方に暮れていたところに神田君が生徒会室に来たんです」
「なるほど、事情はわかった。だけどなんで学校に持ってきてたんだ?校則違反だろう?」
「確かにそうなんですけど、家だと両親がゲームをするのを許してくれなくて・・・こ、校則違反をしてでも、友達が欲しかったんです・・・」
だから、と如月さん。
「神田君には話しておかなくてはいけないと思ったんです。どうか、ゲームを持ってきていたことを秘密にしてもらえませんか?」
「わかった。秘密にするよ」
「本当ですか!」
如月さんの顔がパアァッと明るくなる。
「ただし、条件がある」
「え、条件、ですか?」
「俺は魔導士だけど、魔導士の世界のことに関しては全くの無知なんだ。如月さんはこの世の魔法の世界のことについていろいろ知ってそうだから教えて欲しいんだ」
「わかりました、できる限りのことをしましょう」
「あともう一つ」
「はい」
「俺と、友達になってくれないか?」
「友達、に?」
「そう。如月さんが望んでるような、なんでも相談できて、腹を割って話せて、お互い頼って頼られる関係。如月さんとそんな友達になりたいんだ」
「本当に、いいんですか!?」
「ああ、むしろこっちが『いいんですか!?』って感じだよ」
「神田君と、友達・・・・」
「どう、かな?」
しばらくの沈黙で少し心配になったが、
「はい!こちらこそよろしくお願いします!友達に、なりましょう!!!」
満面の笑みで返事してくれた。
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