第8話:お嬢様を守るために
「そうか、残念だ」
男はそう呟くと、黒色のジャケットを脱いで地面に投げ捨てた。そしてネクタイを緩めながら、
「ヴィリー、べクター、お前らは美玲お嬢様を保護しろ。こいつは俺に任せて先に行け」
「「yes,sir」」
そう言うと、残りの二人が俺を通り過ぎて如月さんがいる方向へ走って行った。
「美玲、お嬢様?」
今、確かにお嬢様って言ったよな?
すると残った男がポケットから宝石のついた指輪を取り出し指にはめ、何かをぶつぶつと呟き始めた。
「隔絶せよ 拒絶せよ 断絶せよ 新たな世の理を創造せん 範囲結界(アナザーフィールド)!」
「うわっ!」
男の指輪が真っ赤に強く光った。
目も開けられないほどの光量に思わず目を腕で覆う。
腕を退け目を開けると、俺は見たこともない場所にいた。
「どこだ?ここ!?」
いや、周りの風景は変わっていない。
しかし、空が、建物が、木が、道路が、車が、紫色になっていたのだ。
「意外だな。結界魔法はそんなに珍しいものではないのだが、初めて見たという顔をしている」
「け、結界魔法!?」
敬司は何が何だかわからない状況に若干恐怖を覚えつつも、同時にワクワクしている自分に気がついた。
(これはモノホンの魔法?もしくはあのゲームのプレイヤー?)
いや、どっちでもいい。
この状況が面白いのには変わりはない。
「あれほど精巧な探索(サーチ)魔法を使えるのだから、魔術にはある程度通じていると思ったのだが、思い違いだったか?」
おそらく探索(サーチ)魔法というのは俺が使ったスキル、『サーチ』の事だ。
「そんなに凄いモンじゃないけどな」
「いや?おそらく貴様は何度も探索サーチ魔法を使ったのだろうが、我々三人がかろうじて数回感知できる程だった。その技量は褒めてやろう」
魔法を持つものには低確率で『サーチ』を逆探知されてしまうというデメリットを逆に褒められてしまった。
「貴様、カンダ・ケイジと言ったな」
「ああ、そうだ」
「名乗るのが遅れたな。私の名はギース・マクスウェル。さっきのヴィリー、ベクターと同じく、如月美玲お嬢様に仕える者だ」
間違いない、今、如月美玲と言った。
お嬢様というのは俺が追っていた生徒会長のことだ。
「さっき、俺を始末するって言っていたが、三人でかかってくるんじゃないのか?」
「その必要はない。あの二人は見た目こそ同じにしているが、非戦闘員だ。役割は分けている」
「なるほど、だから"俺一人で十分だ、お前ら二人は先に行け"って事か」
「そういう事だな」
理由はまだよくわからないが、この男は俺を排除したいらしい。
結界を張ったのは周囲に戦闘の影響が出ない様にするためだろう。
ならば、これは自分の今の戦闘能力スペックを試すいい機会ではないだろうか。
「どうしても戦わなくちゃいけないのか?」
_____『ちからため』、発動。
「ああ、力づくでも、と言っただろう」
_____チャージ完了。『パワーエンハンス』、発動。
「じゃあ、最後に一つ聞いていいか?」
_____『マジックエンハンス』、発動。
「なんだ?」
『死亡フラグって、知ってるか?』
「なんだそれっ・・・なっ!!」
ギースと名乗る男が疑問を口にした瞬間、敬司は全力で地面を蹴ってギースの目の前まで移動した。
「ふっ!」
10メートル程あった間合いを一瞬で詰められたギースは、右足上段蹴りを放ち間合いを広げようとする。
敬司はゲームで鍛えた身体能力を存分に活かし、その蹴りを初動から読んで後ろに躱す。
「穿て!『炎槍(ファイアランス)』!」
少し間合いが広がった後、ギースはすぐに魔法を放った。こちらに高速で飛んでくるのは長さ4メートルの文字どおり「炎の槍」だ。
「相殺しろ!『ファイア』!」
高い動体視力は『炎槍(ファイアランス)』の軌道を完璧にとらえ、敬司の持つ火属性魔法を放ち相殺しようとした。
バアァァァン!!
二つの炎の塊がぶつかり合い、どちらも跡形なく消え去った。
「なに?第六位界魔法の『炎槍(ファイアランス)』が、初級魔法に相殺された?」
(第六・・・なんだって?)
ギースは聞いた事もない単語を喋り始める。
(しかし、今あいつが放った、ファイアランスとかいう魔法、俺が使える『ファイア』より速いしカッコいいな。よし、ダメ元でやってみるか!)
「『炎槍(ファイアランス)!』」
右手を前に出し、その魔法の名前を叫ぶと、先の彼のよりも大きさが2倍はある炎の槍が出現した。
(まじか!できた!)
「この男、私と同じ様に第六位界魔法も使えるのか?大地よ!我に従い我を守れ!『岩盾(アースシールド)』!」
ギースが地面に手をつけると、地面からギースを守る様に岩でできた壁が一気に飛び出てきた。
「力比べか!穿て!『炎槍(ファイアランス)!」
敬司は空中に発現させていた炎槍(ファイアランス)を岩の壁に向かって飛ばした。
高速で放たれた槍は、壁に突き刺さると同時に大きな音を立てて爆散し、壁もろともギースを吹き飛ばした。
「ぐっ、!あああぁ!」
敬司はまだ止まらない。爆発によってあたりに撒き散らされた粉塵を吹き飛ばす目的も込みで、彼が元から使える2つ目の魔法を放った。
「『エアショック』!」
これは初めて使う魔法であったが、名前からなんとなくどんな魔法であるか想像はついていた。
差し出した右手に空気が圧縮され、臨界点に達した後に衝撃波が放たれる。
いわゆる「空気砲」である。
しかし、初めて使ったせいか狙いが上手く定まらず、ギースに直撃せずにギリギリ横を通り過ぎた。
それでもギースは魔法の余波で横に飛ばされ住居の壁に激突、周りの粉塵も吹き飛ばす事に成功した。
「ぐっ、き、貴様は一体・・・何者だ?」
「その質問さっきしたよな?神田敬司だよ」
「知っている。・・・ガハッ!・・・その上で聞いているのだ。何が、目的だ」
ギースは吐血しながら立ち上がる。
さっきの魔法二連撃が効いた様だ。
「目的?」
「そうだ。貴様は何か目的があってお嬢様に近づこうとした。そうだろう」
「まあ、確かにそうだな」
「その目的を問うているんだ」
「んーと、彼女の事が、気になったから?」
ゲームの事は話すと面倒くさいので、お茶を濁す。
「なに?」
「いや、だから、どんな人なのかなーって」
「それだけ、か?」
「そう、それだけ」
「嘘をつけ。貴様はお嬢様の命を狙っていたのでは無いのか?」
「はぁ?命を狙う?なんで俺が如月さんの命を狙わなくちゃいけないんだよ!」
なんだろう、話が全く噛み合わない。
目的?命を狙う?まさか・・・
「とにかく、だ。疑わしきは罰する。なんとしてでも貴様を野放しにするわけにはいかん!」
「ちょ、ちょっと待て!あんた何か勘違いして無いか!?」
「問答無用だ!」
ギースが再び敬司に向かって飛び出そうとしたその時、
『二人とも!やめてください!』
敬司とギースしかいないはずの結界のなかに、聞いたことのある女性の声が響いた。
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