第7話:追跡、そして遭遇

俺と・・・同じなのか?


如月さんも、俺と同じようにゲームによってスペックが上がっているのだろうか?


確かめる方法はただ一つ。


目の前の彼女のゲームを調べることだ。

もしも俺と同じゲームであれば、ソフトを入れる後ろのカバーが開かないはずだ。


敬司はピンクのPSDの後ろのカバーに手をかけ・・・


ガララッ!


「っつ!!」


突然の来訪者に驚き、ゲームを机の上に急いで置き直す。


「あれ?神田君まだいたんですか?」


「き、如月さん!どうして?」


「それはこっちの台詞ですよ。私は野球部のグラウンド使用権申請書の承認をしに来たのですが、、、教室を借りる件で何か問題でもあったんでしょうか」


「い、いえ!何も無いです!承認ありがとうございました!失礼いたしますぅ!」


俺は生徒会室を後にした。


(あ、危ねぇ・・・びっくりした・・・)


まだドキドキする。

心臓に悪い。寿命が3分ぐらい縮んだ気がする。


会長のゲームの件は後できちんと調査するとして、とりあえず申請は終わったので教室に戻ることにした。



【〜生徒会室にて〜】


野球部とサッカー部のいざこざが終わり、今日は野球部がグラウンドを使うということでまとまったので、申請書を作成しようと生徒会室に戻ると、神田君がまだ残っていました。


教室使用申請書に不備があったのかと質問すると、焦った顔をして「何も無い」と言って出て行ってしまいました。


「何かまずい事でも言ってしまったんでしょうか?」


だとしたら後で謝らないといけません。

教室でまた会った時に話しかけようと思います。


とりあえず申請書を作成するために机に座ろうとしたら、


「あれ?私のPSD、何でこんなところに・・・もしかして片付けるのを忘れていた?・・・まさか!」


もし神田君が焦って出て行った原因が、このPSDを見たせいであるのだったら・・・


「これは・・・大変なことになりました。こんなミスをするなんて・・・」


PSDにはくっきりと私の名前が書いてあります。きっと私の所有物だと気付いたはずです。


(これは何としても神田君に話をつけておかなくてはいけません・・・!)



私の、立場を守るためにも・・・



・・・・・

・・・・

・・・

・・


教室に戻り、申請が終わったことを例の七人に伝えると、俺は席に着き一人頭の中で作戦を練っていた。



『サーチ』


ゲームの中で勇者がLv15の時に習得したアクティブスキルだ。


ゲーム内ではフィールドマップにいるときのみ使用できて、使うと周囲何マスかの範囲で人間やモンスターがいるのかいないのかを調べることができる。

使用後にレーダーマップのようなものが画面に現れ、人間が青色、モンスターが緑色で表示される。


こうして聞くと便利なスキルかもしれないが、もちろんデメリットもある。

人間やモンスターのうち魔法を使える者がこの『サーチ』に引っかかると、魔力によって『サーチ』されたことを相手側も低確率で感知し、ヘイト(狙われやすさ)を高めてしまう恐れがある。


これで『サーチ』の効果内容は以上だが、敬司はそのスキルを現実世界でも使うことができる。


今まで使ったことがなかったので、教室で使ってみることにした。


現実世界でで『サーチ』を使うと、頭の中にゲーム内と同じ様なレーダーマップが浮かび上がり、人がいるところに青色の人形が表示されている。効果範囲は大体直径20メートルといったところだ。


敬司はこれを使って、如月さんの秘密を調べてみることにした。

調べる内容は、「如月さんが『勇者の冒険』のプレイヤーであるか否か」。


もしも本当に勇者の冒険のプレイヤーであるのなら、魔法を使うことができるはずだ。

つまり何度も『サーチ』すれば、魔法を使える彼女は『サーチ』で感知されたことに気づいて何らかのアクションを起こすに違いない。


(何者かに「監視されている」というのはいい気分じゃないからな)


デメリットを逆に利用する。

発想の転換というやつだ。


効果を確認し、『サーチ』を解除・・・しようとしたら、レーダーマップの直径20メートル範囲内に結構な速さで教室に近づいてくる青色を確認した。


(走っているのか?)


教室のドアの前で青色が止まり、ドアが開くとそこには如月さんが立っていた。


(え?まさか走ってたのって如月さん!?)


「あ!美玲ちゃん生徒会のお仕事お疲れ様〜!野球部とサッカー部揉めてたけど大丈夫だった?」


女生徒の一人が如月さんに話しかける。しかし、


「すみません。今はそれどころでは無いんです」


如月さんは彼女を相手にせず、つかつかとこちらに歩いてくる。


(ん?こっち見てる?こっちに来る?)


「すみません、神田k」



キーンコーンカーンコーン



「おーし!今日の最後の授業は物理だ!お前らさっさと席につけ!」


チャイムの音とほぼ同時に物理教師が教室に入ってきた。そのせいで如月さんが何かを話していたのが途切れてしまった。

話を途中で切られてしまった彼女は、渋々といった感じで自分の席に着いた。


(何だったんだ?)


申請のことで何かあったんだろうか。


(まあいい、それよりも今は計画を練ることに集中しよう)


如月さんは、毎日授業が終わるとすぐに生徒会室に向かう。生徒会の仕事は山の様にあるため、休む暇はないのだろう。


その生徒会室の真上には、誰も使っていない空き教室がある。

今日の放課後は部活を休み、授業が終わればすぐにその空き教室に行くことにした。

上の階であれば生徒会長の机が『サーチ』の効果範囲に入るため、如月さんが作業中でも監視することができるのだ。


わざわざ上の階を選んだのは、生徒会室前の廊下には障害物はなく、張り込んでいれば100%怪しまれるからだ。


教室で何回か『サーチ』を使ってみてわかったことは、スキルのクールタイムが20分程であることだ。つまり俺は『サーチ』を20分置きに使える。


授業が終わり、如月さんが生徒会室で作業を終えてから家に帰るまでに、如月さんに『サーチ』を20分置きに当て、彼女が反応するまで続けて彼女に関する何らかのヒントを得る。


それが俺が立てた作戦だ。


(家に帰るまでって、まるでストーカーだなぁ)


しかし、これも真相を確かめるためだ。仕方ない。そうだ。仕方ないことなんだ。


しっかりと自分を正当化した俺は、授業終了を待った。




キーンコーンカーンコーン


「ん?チャイムか。よし!それじゃあ今日の授業はここまで!如月、号令を頼む。」


「・・・・」


「如月?」


「っは!はい!何でしょうか!?」


「お前が人の話を聞き逃すとは珍しいな。まあいい。号令、頼む」


「わかりました。起立、気を付け、礼。」


如月さんの様子が妙だったのは気になるが、やっと授業が終わったのでバッグに荷物を詰めて即行で教室を出た。


空き教室に到着し、おそらく生徒会長の机の真上である席に腰掛ける。


「もうそろそろ来たかな・・・」


20分ほど経ってから『サーチ』を発動すると、生徒会長の席の場所に青色の光を確認した。


「よし、如月さんを確認。作戦開始だ」


20分置きにタイマーで測って『サーチ』を当てる。

おそらく長い戦いになると思われるので、教室で宿題や勉強をしながら監視した。


1時間経過・・・反応なし


2時間経過・・・反応なし


3時間経過・・・反応なし


そろそろ、「流石にもう違うんじゃないか?」という気がしてきた。


3時間も経つと生徒会の仕事が終わったのか、如月さんが外に出る。


さらに『サーチ』を発動。追跡を開始する。


如月さんが帰る最中も、気づかれない様にゲームで培った身体能力を生かし屋根の上や電柱の上に登って見張る。


しかし、ここまでくると流石に罪悪感が好奇心に勝ってきた。


「もうやめにするか」


そう呟いて踵を返すと、いつの間にか男が三人、目の前に立っていた。

その男たちは三人とも身長が180は超えていて、SPのような黒服を身に纏い、サングラスをかけていた。


まるで某テレビバラエティ番組で行われる、賞金をかけた大人の鬼ごっこの鬼役みたいだ。


敬司はとっさの判断でこの男たちが只者でないことを察し、『サーチ』を発動した。すると、


「なっっ!?!?」


サーチに、三人の姿は映らなかった。


(なぜ!?目の前にいるのに!)


一瞬焦った敬司だが、賢くなった彼の頭はすぐに冷静になり思考を巡らせた。


サーチに引っかからない原因はおそらく2つ。


1、彼らが人間でない


2、彼らが俺の『サーチ』を妨害する何らかの措置を行っている


しかし、目の前にいるのは明らかにどこからどう見ても人間だ。


(どういうことだ?)


敬司が必死に考えていると、三人のうち一人が口を開いた。


「お前は、何者だ?」


「何者か、だって?」


(それはこっちの台詞だ!)


「名を、聞いている」


「敬司、神田敬司だ」


「そうか。我々と一緒に来てもらおう」


「何でだ?」


「そうだな、一言で言えば、お前が怪しいからだ。さあ、一緒に来い」


(それをお前が言うか?怪しいのはどう見てもお前のほうだろ!)


「嫌だと、言ったら?」


「力づくでも連行するだけだ。おとなしく従えば悪いようにはしない」


「なるほど、わかった」


「わかってくれたか。それでは、こっちに・・・」


「断固拒否する」


「今、何と言った?」


「連れて行かれるなんて断固拒否するといったんだ。知らない人にはついていかない様にってガキの頃から親に言われているからな」


「そうか。残念だ」



男が、少し笑った様に見えた。

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