第6話:疑惑
物理のテストは余裕で赤点回避、放課後のテニスも身体能力測定で培った手加減法で怪しまれることなく乗り切ることに成功した。
部活が終わり、帰宅する。
帰りは、また走っていた。
行きの時の最高速はさすがに危ないので(周りにいる人が)、帰りは50m走を6秒台で走り抜けるスピードをずっとキープしていた。
これでも家までの約40kmの距離を1時間半で走りきることができる。
家に帰ると、飯と風呂をすぐに済ませ自室に閉じこもった。そして即「勇者の冒険」のゲームのプレイを開始する。
普通は家に帰ったら授業の予習復習、宿題をやるのだが、今の俺にはそんなものは必要なかった。
なぜなら、ゲームをするだけで頭が良くなるからだ。
ゲーム内でモンスターとエンカウントする草むらを進んでいると、行き止まりの大きな岩の壁に勇者が入れる程度の穴が空いた、洞窟の入り口が現れた。
「これ、もしかして・・・」
長らくゲームをやってきた敬司はピンときた。これはおそらく「ボス部屋」もしくは「貴重なアイテムの入った宝箱の隠し場所」だ。
迷わず洞窟に入ると、内部は複雑に入り組んだりしておらず真っ直ぐ奥に続くだけだった。もちろんモンスターとエンカウントもするので、道中何体か倒した。
洞窟の最奥地に到着すると、大きめの部屋に出た。部屋の中央には「ミノタウロス」と呼ばれるいかにもボスらしい姿をしたモンスターがいた。
「倒したらレアアイテムとかもらえんのかな?」
ボスに近づき、戦闘になる。
勇者は周辺でレベルを更に上げていたのだが、さすがにボスは強く、倒すまでに回復薬ポーションをほとんど使い切った。倒したボスの姿が消滅しフィールドマップに戻ると、
ビロリン♪ピロリン♪
レアアイテムドロップを知らせる音楽が鳴った。アイテム名は、
「★7スキルの書:複合魔法『焱嵐ファイアストーム』 」
と書いてあった。
実は、スキルはレベルアップで覚えるものの他に、特定のモンスターを倒した時に低確率でドロップするスキルの書を使用することで覚えることもできる。
まず、すべてのスキルにはランクがある。例えば『スマッシュLv3』のようにレベルアップで覚えることができるものは、スキルのLvがそのままランクとなる。ちなみに上限は★5である。もちろんランクが高いほど威力や性能が上昇する。
スキルの書で覚えられるのは★6以上のスキルであり、どれも強力なものであるという。これらのスキルはランクが上がることはなく、ずっとそのままなのだそうだ。最高ランクは★12らしい。(村人談)
特徴的なのは、★6以上のスキルはすべて名前が漢字で書かれ、ルビが振ってあったりすることだ。
元厨二病の敬司は不覚にも「かっこいい」と思ってしまった。
そして今回ドロップしたのは数ある魔法の中でも上位種の複合魔法である。2つ、もしくは3つの属性を持った魔法で、『焱嵐』は火と風の属性を併せ持つ。
威力はレベルアップで覚える魔法とは一線を画する高さで、属性が2つあるので相手の弱点属性を突きやすい。
その代わりクールタイムがべらぼうに長いので一回の戦闘では一度しか使えないものと思っていい。
また、使用した次のターンは反動で動けなくなるデメリットがあるが、基本的に雑魚ならワンパンなので問題となるのはボスと戦う時だけだろう。
更にゲームをプレイしていて他にもわかったことがある。
一番驚いたのは、ゲーム内で手に入れたアイテムは現実に召喚可能ということだ。
『ミスリルオーブ』というアイテムを手に入れた時に、ファンタジーの物語でよく耳にするミスリルという金属がどんな物か気になり召喚できるか試してみたところ、名前を呼ぶだけであっさり出てきた。
ちなみにミスリルオーブは野球ボールよりも少し大きいぐらいのツルツルピカピカの銀色の金属球で、見た目に特徴はなかったが、恐ろしいくらいに軽かった。地面に叩きつけたり踏んだり削ってみたりしてみたところ、その軽さとは裏腹に潰れたり傷がつくことは一切なかった。
そこで、召喚したアイテムをどうやって戻すかについてだが、「戻れ」と念じたら勝手に消えた。とても簡単で助かる。
長剣などの武器も召喚できたが、外で持ってると銃刀法違反で捕まるため召喚は控えることにした。
今日はゲームシステムを更に理解するために合計で6時間ぶっ通しでプレイし、今夜はLv32で打ち止めとなった。2度と夜更かしで今朝のような失態を犯すわけにはいかない。
部屋中あちこちに散らばった召喚物をゲームに戻し、ベッドに入り込む。昨日寝たりなかったのか、何かを考える前にすぐに眠りについた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
カンダケイジ:勇者Lv32
筋力:16(+28)
素早さ:11(+12)
体力:12(+11)
魔力:14(+18)
賢さ:16(+8)
魅力:9(+4)
装備:ミスリルソード・マジックローブ・魔法の籠手・聖女の涙・中級魔道書・ミスリルオーブ
スキル:
【打撃】スマッシュLv4・力溜めLv4・見切りLv4・三段返しLv3・★6一閃牙(剣術)
【魔法】ファイアLv5・フリーズLv3・ライトニングLv3・エアショックLv2・★7焱嵐
【パッシブスキル】カウンターLv3(60%)・危機察知Lv2・追撃Lv2(20%)
【アクティブスキル】パワーエンハンスLv3(160%・3T)・サーチ・マジックエンハンスLv2(140%・3T)
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・・・・
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・・
・
次の日、朝起きて時計を確認すると6時半だった。今日は何とか時間通りに起きれたようだ。
いつも通りに学園に登校し席に着くと、クラスの男女数人が敬司の席の周辺にぞろぞろと集まってきた。
その中の一人の男子が、
「なあ神田、ちょっといいか?」
「お、おう、どした?揃いも揃って・・・」
これからカツアゲでもされるんだろうか。
「実は俺たち、神田に頼みたいことがあるんだ」
「頼みたいこと?」
彼は周りの生徒と目配せし、互いに頷き合ってから意を決したようにこちらへ向き直し、
「「「「俺たちに物理を教えてください!お願いします!」」」」
いきなり一斉に土下座された。
「うおぉい!何やってんだお前ら!顔上げろ!恥ずいだろうが!」
「これまでバカにし続けてきた相手に頼みごとをするんだ!これぐらいはしないと割に合わない!」
「わかった、わかったから!話は聞いてやるから!事情を話せ事情を!」
10分くらい続いた押し問答の後、やっと顔を上げてくれたのは、クラスの男女合わせた七人だった。
事情を聞くに、この七人は昨日の物理テストが赤点だったらしく再テストをすることになったのだそうだ。
しかし同じ問題かと思いきや、問題をすべて新しくして、7割超えるまで再テストを続けることになったらしい。
おそらく7割という数字は、間違いなく俺が原因だ。差し詰め、「神田ができたのだからお前たちにもできる」といったところだろう。だから俺にも少なからず原因はある。面倒臭いが、昼休みなどに時間を作って引き受けてやらんでもない。だが一つ疑問があった。
「しかし、何で俺に頼むんだ?プライド捨てて土下座してまで俺に縋すがらなくても、そこに物理満点の如月さんという猛者がいるじゃないか。」
少なくとも今の時点では如月さんの方が頭がいい。俺なんかよりそっちに頼った方が効率的ではと思ったのだ。しかし、
「いやぁ、まあ確かにそうなんだけどさぁ」
ねぇ?みたいな感じでまたお互いを見る七人。
「なんかこう話しかけづらいっつーか、申し訳ないっつーか?」
「申し訳ない?」
「生徒会長様の貴重なお時間を頂くわけにもいかないし?」
「もしかしたらオッケーしてもらえるかもしれないけど、そうなったら『お姉様隊』とか『ファンクラブ』に消されそうだし」
消されそうって。
学校は無法地帯じゃあるまいし。
「それで、俺が適任ってなったわけだ」
「そうなんだよ!頼まれてくれないか?」
七人の視線が俺に集まる。
「まあ、いいだろう。昼休みや、部活のない放課後とかに空き教室を使って教える時間を作ろう」
「「「「本当!?」」」」
「ああ、よろしくな」
「「「「やったぁー!」」」」
「よし、それじゃあ計画を、といきたいところだが、、、おい大沢。なんでお前がここにいる?」
「・・・・・・・」
「大沢?」
「赤点・・・でした・・・」
「で?」
「物理を、教えてください、お願いします」
「よし、それじゃあ俺も含めた七人で教室を借りる申請書を出しに行こう」
「ちょっと待ってくれ!俺も入れてくれぇ!28点なんだよ!頼むから俺にも教えてくれぇ!」
仕方ないので渋々大沢も数に加えてやった。うちのクラス担任が例の物理教師なので、職員室に行って事情を話すと快く了解してくれた。先生曰く、
「自分でわかったと思うだけでなく、人に教えることができて初めて真に理解したと言える。これもいい経験になるだろう」
との事だ。つくづくいい先生だと思う。
再テストが始まるまでの3日間、昼休みを使って空き教室で物理の授業をすることになった。短時間で要点だけを伝えるのは難しいが、今の俺ならなんとかやっていけるだろう。
かく言う俺は、申請を済ませた後に生徒会室に向かっていた。本当であれば教室使用申請書は最終的に先生が生徒会室に提出して確認作業の後受理されるのだが、生憎先生は忙しいらしく自分で出してきてくれないかと言われたのだ。
許可してもらった身なので文句も言えなかったため、こうして訪ねてきたわけだ。
生徒会室に到着し、ドアをノックする。
「すみません!誰かいませんか?」
すると、
「はい、どうぞ」
ドア越しでもわかる澄み切った声が聞こえてきた。
「失礼します」
ドアを開け、生徒会室に入ると中には生徒会長である如月さん一人だけだった。部屋の一番奥にある、一番大きな机に座っていた。
「如月さん一人だけ?」
「はい、他の人は皆丁度出払っているので。ところで、要件は何でしょう?」
「あ、うん。実は空き教室を昼休みに借りたくて、申請書の提出に来たんだ」
申請書を如月さんに渡す。
「もしかして、あの物理のテストの件ですか?」
「如月さん、聞いてたの?」
「あれだけ大きく騒がれたら耳を塞いでいても聞こえますよ」
「あはは・・・」
そりゃそうだ。かなり大騒ぎしたからな。
「物理を教えて欲しいと神田君に頼んだそうですね?」
「まあ、7割が合格点になってしまったのは俺にも原因はあるからね。全員に合格点に届いてもらうようきちんと教えるつもりだよ」
「そうですか」
「うん」
「・・・・・」
「・・・・・」
(あれ?どうしたんだ?)
如月さんは俺と物理教師の名前が書かれた申請書を無言で見つめている。
「やっぱり・・・私には頼んでくれないんですね・・・」
「え?」
「い、いいえ!すみません!わかりました。申請を受理します!」
急いで判子を取り出した如月さんが、申請書に判子を押そうとしたその時、
「如月さん!あ!よかった!生徒会室にいたぁ!今すぐ来てもらえませんか?ちょっと揉めてしまって・・・」
「ど、どうしたんですか高木さん、そんなに慌てて」
高木さんは初めて見る生徒だったが、生徒会役員の証である腕輪をつけていることから、役員である事は間違いないだろう。
「実は、野球部とサッカー部がグラウンドの使用権で喧嘩になっているんです!俺たちが先に申請したんだー!って聞かなくて・・・」
「わかりました。すぐに向かいましょう。神田君、受理はこちらでしておきますので、教室は自由に使ってもらって構いません。それでは」
生徒会長は高木さんと一緒に生徒会室を出て行き、俺一人だけが残された。
「如月さん、今さっき・・・」
聞こえるか聞こえないかの瀬戸際ぐらいの小さな声で確かに聞いた。
『やっぱり・・・私には頼んでくれないんですね・・・』
彼女は頼って欲しかったのだろうか。
それだったら教室で俺の「何故如月さんに頼まない?」という質問に対する皆の答えは彼女にとってはショックだったのかもしれない。
「なんか、悪いことした気分だ・・・」
生徒会室にはもう用はないので出て行こうとしたその時、ふと会長の机の上を見ると見慣れたものが置いてあった。
それはピンク色で俺のとは色が全く違うが、形は全く一緒だった。
ピンク色の、携帯ゲーム機、PSDであった。
「これ、如月さんの?」
いや、流石にありえないだろう。
ゲーム機などを学校に持ち込むことは校則違反だ。クラスの中には極数人それを承知で持ってきている人はいるが、まさか生徒の代表であり手本である品行方正な生徒会長が持ち込むわけがない。
「落し物か、没収したものだろうか?」
それを手に取り、裏返すと、そこには、
「Mirei Kisaragi」
の文字が書かれていた。
「本人のもの?それとも同姓同名?」
いや、同姓同名もないだろう。
「だったらやっぱり本人のもの?」
ありえないだろ。だって生徒会長が・・・
「でも、名前が・・・」
頭が混乱してきた。
しかし、生徒会長の物なのか、違うのかを迷って混乱していたのではなかった。
俺だけが考え得る『最悪の可能性』を何とか頭の中から排除しようと必死になっていたのだ。
しかし、考えれば考えるほど、「それしか無いのでは」という結論しか出てこなかった。
もしも、彼女の凡人離れした「スペック」が、生まれ持った才能で無かったとしたら・・・
そんな・・・そんなまさか・・・
こんな事があって良いのか?
「このゲーム・・・如月さんも・・・?」
俺と・・・同じなのか?
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