第5話:天才生徒会長とテスト結果
三限までかかった身体能力測定が終わり、四限が始まる前の休み時間となった。
敬司は放課後部活があるため、体操服は脱がずにそのまま授業を受けたかったが、教員がそれを黙認していないので渋々着替えた。
教室の席に着くと、大沢が話しかけてきた。
「なあ敬司、お前50m走何秒だった?」
「6.53秒だった。大沢は?」
「え!?速くね?俺は7.15秒だった。絶対勝ったと思ったのにぃ・・・」
5秒切って世界記録を叩き出したなんて口が裂けても言えない。
ってか、言っても信じてもらえないか。
「6秒台なんて頑張れば陸上部とタメはれるんじゃないか?陸上部の誘いそのまま乗ればよかったのに」
「陸上に興味ないし、この時期に今更部活変えても人間関係が面倒臭いだけだ。あとで断ってくるわ」
「せっかくの才能なのに勿体無いなぁ」
「テニスだって足の速さは重要だぞ?」
「まあ、確かにそうなんだろうけども・・・」
「それよりも、だ。大沢って文化部なのに相変わらず運動できるのな」
「文化部を舐めたらあかんで〜?写真部って結構体力いるんやで〜?」
何故に関西弁?
キーンコーンカーンコーン
「こらー!いつまで喋ってる。お前らさっさと席につけー、授業始まるぞ」
四限開始の合図と一緒に先生が教室に入ってくる。
「先生来ちまったな。敬司、この話はあとで」
「おう」
生徒全員が席に着く。
「それじゃ如月、号令を頼む」
「はい。起立、気をつけ、礼、着席。」
「よし、それじゃ授業を始める。今日は先日の物理の抜き打ちテストを返却する。平均点は60点だ。まあ私が想像していたよりも少し高いくらいだったな。赤点は例年通り30点未満とする。いつもは番号順だが、今日は趣向を変えて番号の遅い順から返していこうと思う。前に来て取りに来い。和田!」
「はい!」
次々に生徒の名前が呼ばれていく。テストが返ってくると、点数がよかったのか喜ぶ者、赤点だったのか落ち込む者、友達と見せ合う者、と様々だった。すると、
「次!如月!」
その名前が呼ばれた瞬間、さっきまで騒がしかった教室が静かになった。
「はい」
席から離れ、周りの注目を集めながら歩いて教卓の前に立つ。
「今回のテストもお前さんがトップで満点だ。抜き打ちテストにもきちんと対応できていた。流石は如月だな。これからもその調子で頑張ってほしい」
「ありがとうございます」
如月がテスト用紙を受け取った瞬間、
「おおっ!」とクラスの皆が沸いた。
「流石はお姉様!私たちにできないことを簡単にやってのける!そこに痺れちゃう憧れちゃうぅ!」
「うっわマジかー。如月さんまた満点かよ。どうやったらあんな抜き打ちで満点取れるんだよ」
「美玲ちゃんすごーい!私なんて半分も行かなかったのに・・・」
「日々の予習復習を欠かさずやってるんだろうな。これぞ皆の模範となるべき生徒ってわけか」
生徒がそれぞれに賛辞を述べる。
如月美玲きさらぎみれい。
俺のクラスの学級委員長で、更に生徒会長である。腰まで届く長いブロンド髪は、アメリカ人の母親譲り。決して染めているわけではなく、ハーフなのだ。
まるでモデルではないかと言わんばかりのスレンダーな体つきに整った顔立ち。
世の中の日本人男性100人に聞いたら間違いなく全員「美人」と答えるだろう。
更に成績も優秀で、定期テストは毎回ほぼ満点で堂々の1位。全国模試でも常に上位10位以内をキープするほどの天才だ。
更に更に運動神経は抜群で、今回の50m走では女子の陸上部エースの記録を追い抜いていた。
更に更に更にピアノやヴァイオリンなど音楽にも通じており、コンクールにふらっと参加しては最優秀賞をもぎ取って帰ってくる。
しかし彼女はそれらをまったく鼻に掛ける様子もなく、誰にでも分け隔てなく優しく接するその姿から、一部の女子からは「お姉様」と呼ばれている。
もちろんファンクラブの様なのものも存在する。
一言でまとめて言えば完璧超人だ。
「天は二物を与えず」という言葉が霞んで見える。
そんな彼女は今回の物理のテストも難なく満点を取ったのだ。
(化け物だな・・・)
我ながら歪んだ表現だと思うが、間違ってはないだろう。
「おいお前ら!如月が満点取るのはいつものことだろうが!いちいち騒ぐな!次行くぞ!」
騒ぎ立てる生徒たちに注意し、テストの返却を再開する。そして、
「次、神田!」
その名前が呼ばれた瞬間、さっきまで騒がしかった教室が静かになった。
「はい」
席を立ち、如月の時とは違う視線を浴びながら教卓の前に移動する。
「神田」
「はい」
「俺はお前に7割超えろといったよな」
「はい」
クスクスという笑い声が聞こえてくる。
「どうせまた悪かったんだろ?」
「また赤点か」
「補習乙」
まるでそう言っているかの様に。
だが、その期待はすぐに崩れることとなった。
「まさか本当に超えるとは思わなかったぞ・・・。点数は87点、如月に次いでクラス2位だ」
「「「「は?」」」」
さっきまで笑っていた奴らが「この教師は何を言ってるんだ?」という感じで揃って疑問を口にする。
珍しく如月も驚いた顔をしていた。
「ようやく俺の言葉が神田に届いて、きちんと予習復習を欠かさずやってくれたんだな。お前はやればできる奴だったんだよ。もしかしたらこのクラスの中には、神田がカンニングをしたのではと思っている奴もいるだろう。しかし、テスト中はずっと俺が見張っていたし、抜き打ちだから解答を事前に知りようが無い。カンニングは無いと俺が保証しよう。それと、神田」
「はい」
「クラス2位、おめでとう。この調子でこれからも頑張ってくれ。」
「はい!」
その言葉を皮切りに、次第に皆が喋り始める。
「うそ・・だろ?あの物理平均点クラッシャーの神田が、87点!?」
物理平均点クラッシャーって何だよ。
知らぬ間にそんな奇妙な二つ名付いてたのか?
「お、おい神田!」
大声をあげて大沢が近寄ってくる。
「解答用紙、見せてくれないか?」
「いいぜ。ほら」
大沢に解答用紙を渡す。
彼はまじまじと87という数字が刻まれた解答用紙を見つめ、
「すげえ・・・夢じゃねぇ・・・」
手を震わせながらそう呟いていた。
すると、先生が大きく二回パンパンと手を叩き、
「ほらほら、確かに驚くのも無理無いが、まだ全員の分のテストを返していない。気を取り直して次行くぞ!織田!」
「は、はいぃ!」
こうして四限のテスト返却イベントは無事に幕を閉じた。
散々俺を馬鹿にしていた大沢は28点で赤点だった。ザマアミロ。
気のせいだと思うのだが、俺の点数が87点だとわかってからずっと如月が俺のことを見つめている様な気がする。
いや、気のせいだ。そう。見るとしても、点数が意外だから驚いているだけだ。
俺は自分にそう言い聞かせた。
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