第3話:俺、魔法使いになりました。
自室のベッドに横たわった俺は、今日の出来事を思い返していた。
赤点を覚悟した物理のテストが思いの外簡単に解けたこと。いつもは理解できずに聞く気もなかった授業も突然わかるようになり、授業を聞くのが楽しくなってしまったこと。
たった1日でここまで頭が良くなるなんてことはありえない。どう考えても普通じゃない。こんな事が起こるためには、なんらかの大きな外的要因が必要になるに決まっている。
そして俺はその原因として一つ思い当たるものがあった。
最近あった特徴的な出来事。それは、昨日拾った謎の金ピカPSDである。
もしこれが原因だとするならば、一体このゲームの何が俺に影響したのだろうか。
とりあえずまたゲームを起動することにした。ログインしてゲームを開始、ステータス画面を開く。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
カンダケイジ:勇者Lv5
筋力:5
素早さ:5
体力:4
魔力:3
賢さ:6
魅力:1
装備:鉄製の剣・革のローブ・黒い手袋
スキル:
【打撃】スマッシュLv2・力溜めLv1
【魔法】ファイアLv1
【パッシブスキル】なし
【アクティブスキル】なし
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(もしかして・・・)
そう思った俺は台所からフライパンをこっそり自分の部屋に持ち出した。
両手でフライパンを持って力を加えると、「クシャ」という音とともにまるで紙のように簡単に曲がってしまった。
何度も繰り返していると、フライパンの取っ手以外の金属部分が手で丸められたティッシュのようになっていた。
これでなんとなく想像はついた。テストが簡単になったのは俺が「賢く」なったから。フライパンを曲げる事が出来たのは「筋力」が上がったから。
このゲームのステータスは、現実世界の俺のスペックとリンクしているのだ。
つまり勇者のレベルを上げまくれば、それだけ俺がハイスペックになるのだ。
(やばくないか?これ?)
筋力を上げれば俺は強くなる。
素早さを上げれば早く動けるようになる。
体力を上げれば耐久力、持久力が高くなる。
賢さを上げれば頭が良くなる。
ここまでは容易に想像できたのだが、問題は魔力と魅力である。
特に魔力に関しては、色々と考えてみる必要がありそうだった。
魔力のステータスはゲーム内で魔法を使った時の破壊力に影響している。魔力を上げれば上げるほど、モンスターに魔法で与えられるダメージは大きくなる。
つまり、魔力のステータス上昇による現実世界の俺への影響は、俺が使う魔法の威力が上昇するものと予測できる。
そして俺には魔法は使えない。いや、昔は使えた(設定上)が、あれはあくまで一時期の気の迷いだ。俺自身が魔法を使えないのであれば、ゲーム内で魔法を主力としない限りこのステータスは上げる必要性はない。
【だが、もしも俺が今魔法を使えるようになっているとしたら?】
「っつ!!」
(おいおい!何を馬鹿げた事を考えている神田敬司!魔法を使える、使えないなんて話は既に4年前に通り過ぎて永遠に封印しようと誓った話題だろう!落ち着けオレ!またあの黒歴史を掘り返す気か?)
自分自身の愚かな考えを必死に正そうとしていたが、一度でもその「可能性」を考えてしまった思考回路ではどうしても期待を捨てきることはできなかった。
(いやいや、試してみる価値はあるだろう。あくまで確かめるだけ、な。確かめるだけだぞ!?そう、確かめるだけ、確かめるだけ・・・)
俺がゲーム内で使える魔法は今の所『ファイアLv1』だけである。もしも俺がこの魔法を使えるのであれば、部屋で発動するのは危険だ。そこで、
「風呂、入ろう・・・」
消火のための水がたくさんある風呂で確かめることにした。
服を脱ぎ、湯船に浸かる。
さて、魔法を使ってみようと風呂に入ったのはいいが、どうやって魔法を発動すればいいのだろうか。
ゲームであれば、モンスターとの戦闘の際自分のターンに『魔法』を選んで『ファイアLv1』を選べば発動する。だが、現実世界にスキルウィンドウ(スキルの選択画面)なんてものは存在しない。
そこで俺は立ち上がり、いかにもアニメや漫画らしく、右手を前に出しその魔法の名前を叫んでみた。
『ファイア!』
すると、手のひらより一回り大きいサイズの炎の玉が目の前に現れ直進し、バァン!という破裂音とともに壁にぶつかって霧散した。
「え?何これ、マジで魔法?マジで?」
信じられない、という感じで、炎が発現した右手をまじまじと見つめていると、
タッタッタッタッタッタッ、ガララッ!
「ちょっと!今のなに!?すごい音したんだけど!」
妹の瑠美ルミがいきなり風呂場のドアを開けてきた。
「きゃぁぁ!なんでお兄ちゃん裸なのよぉ!」
「風呂場なんだから当たり前だろう!」
「わ、わかってるわよそんな事!それより今の音は何よ!?」
この状況下で「魔法使ってみた」なんて答えるわけにはいかないので、適当に誤魔化す。
「転んだんだよ!石鹸で滑って思いっきり頭打ったんだ!」
「転んだだけであんな音出る?ってあれ?何その壁の黒いの」
瑠美の指差す先を見ると、先ほどの『ファイア』で壁が黒く焼け焦げていた。
これもまた「魔法で焦げました」なんて言うわけにもいかない。なんとか誤魔化すしかない。
「カ、カビじゃないか?最近暖かくなってきたし、湿度上がってきたし、風呂場がカビに住みやすい環境になっているんだよ、きっと」
「カビなんて年がら年中風呂場にいるし、流石にここまでは大きくならないでしょ。ホント何なのそれ」
我が妹ながらなかなか手強い。 ならばよろしい。最終手段だ。
「なあ瑠美」
「なによ」
「お前はいつまで俺の裸を見てるつもりだ?」
「なっ・・!」
瑠美の顔がみるみる真っ赤になる。
「なに言ってんの!?バカ!わかってるわよ!出て行くわよ!この変態!」
瑠美は思いっきり風呂場のドアを閉めて出て行った。
(変態って・・・風呂場に入ってきたのはそっちだろうに)
とにかく邪魔者はいなくなったので、魔法に関しての考察を再開しよう。
いまさっき俺の手のひらから現れた火の玉は、間違いなく自然の物理現象から生まれたものではない。俺の魔力によって生み出されたもの、と考えるのがこの際妥当だろう。
「ホントに魔法使えるようになったんだ・・・!俺・・・!」
そう確信すると、言葉にならない感情が心の底から溢れ出し、いまにも風呂場の中で発狂しそうだった。
それも当然だ。いままであくまでフィクションだと、あり得ないものなのだと諦めていたものがいきなり現実に現れてきたのだから。嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
いますぐもう一回使ってみたかったが、今度は壁に穴が空きそうなので何とか自制した。
また少し冷静になり、いまの状況を把握する。俺が使ったのは『ファイアLv1』。そこから推察するに、もしかしたらそれ以外の技スキルも現実で使えるのかもしれない。
現在俺の持つ残りのスキルは『スマッシュ』と『ちからため』だ。どちらも物理攻撃力を増大させるスキルであるのだが、まだゲーム内での使用回数が少ないのでいまいち強化倍率がわかっていない。
『スマッシュ』は使用した次の初撃の攻撃力を増大させるもので、『ちからため』は使用後数ターン動けなくなるが、強化倍率は『スマッシュ』を遥かに上回り、また効果も数ターン続く。
とりあえず『スマッシュ』を使ってみようと思った俺は、湯船に浸かりながら右手を振り上げ、スキル名を叫びながら水面に振り下ろした。
『スマッシュ!』
ドパァァァン!
凄まじい炸裂音とともに湯船の水が思いっきり飛び散って、お湯は1/3以下まで減っていた。
タッタッタッタッタッタッ、ガララッ!
「お兄ちゃん何やってんのよ!?うるさいって言ってるでしょ!?」
「だから入ってくるなって言ってるだろうがぁぁ!!!!」
俺は自分に誓った。これから絶対家ではスキルは使わないと。
俺は自分の部屋に戻り、PSDを再開した。
このゲームのシステムを理解した以上、やる事はひとつ。そう、レベル上げだ。
モンスターを狩る。
移動する。
モンスターを狩る。
移動する。
モンスターを狩る。
移動する。
ただひたすらにそれを繰り返し、レベルは20まで上がった。
意外だったのはレベルが結構上がりづらかったことだ。5から20まで15レベル上げるのに5時間もかかった。
むしろそこまで飽きずに時間をかけることができた自分自身に驚いた。
すでに時刻は午前3時を回っており、さすがに寝ないと明日は遅刻する。
レベルアップボーナスの30ポイントを振り分け、レベル10、20超えによって取得可能となったスキルを全て取得した。
装備によってステータスが大きく上昇することも分かったので、ドロップするまで粘って手に入れたものを装備した。
明日が楽しみだ。
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カンダケイジ:勇者Lv20
筋力:12(+12)
素早さ:7(+6)
体力:8(+5)
魔力:10(+15)
賢さ:12(+4)
魅力:5(+4)
装備:銀の剣・マジックローブ・ファイターグローブ・聖女の涙・初級魔術書
スキル:
【打撃】スマッシュLv3・力溜めLv2・見切りLv1
【魔法】ファイアLv2・フリーズLv1・ライトニングLv1
【パッシブスキル】カウンター1(20%)
【アクティブスキル】パワーエンハンス1(120%・3T)・サーチ
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