第三話 存分にラブコメするがよい!
「……で。結局、『縁結び』するって言ったって、どうすりゃいいんだよ……」
期末試験を終え、間もなく夏休みに突入! という、浮かれた空気の教室内。昼休みである今は、皆が思い思いに長期休暇の予定を語り合っていた。
ある者は部活の辛さを。またある者は家族旅行の際に買う、お土産の話を。
そんな中、窓際真ん中にある自席に座った俺は、スマホの画面を睨みつつ、誰に言うでもなくそう呟いていた。……つもりだったのだが――
「ん? どうしたんだよ、鵜坂。お前がそんなことに興味持つなんて珍しいな」
どうやら、気付かぬうちに友人が前の席に座っていたらしい。
俺の前に座っていたのは、一人の男子生徒。長めの茶髪の先をワックスで弄り、ワイシャツのボタンは三つ開けている。そして、そこからは赤いシャツが顔を覗かせていた。
顔立ちは特徴的でない。だが、黒のオシャレ眼鏡のおかげで少し印象的ではあった。
「あ? ……あぁ。なんだ、
俺はスマホをしまって、その友人――雄山に力なく返事をした。すると、行儀悪く足を組んだ彼は不満げに、口をへの字に折り曲げる。
大げさに両手を広げて、雄山は言った。
「おいおい、そりゃないぜ? ……で? 『縁結び』がどうしたってんだよ」
しかし、すぐに話題を俺の独り言へと逆戻りさせる。
前のめりになって俺の顔を見る雄山。こういった時のコイツは、自分の知識を披露したくて仕方がないのだ。――小学生時代からの付き合いだから分かる。もう、諦めたのだ。
「いや、その……本来というか、どうやってやるモノなのかな、って思ってさ」
仕方なしに、ニタニタと笑う友人に相談した。すると、
「ふっふっふ。なるほど、分かった。安心しな……その悩み、恋愛マスター雄山が解決してくれよう!」
待っていましたと言わんばかり、ふんぞり返る雄山。椅子から落ちそうになっていた。
コイツはガキの頃から女子にモテようと、多種多様な知識を学んできた。その努力は凄まじい物だし、尊敬にすら当たる行動力であると、俺は思っている。
そんな雄山に彼女が出来ない理由は――まぁ、そのうち分かるだろう。
「『縁結び』の第一歩……それはズバリ! その効果がある神社に参拝することだ!」
「まぁ、そうだろうな……」
指をピンと立てて、当たり前のことを自慢げに述べる友人に、俺は力なく相づち。
「だが安心することなかれ、だ。神頼みするのであれば、その神社に祀られている神様について知っておく必要があるだろう。そして、その中で最も効果のありそうな場所に絞っていくのだ! ……ふっふっふ。今回は、迷える子羊である鵜坂のために、オレが重ねた研究の軌跡と、そこから導き出された『縁結び』神社トップ3を教えてやろう! まずは――」
自己顕示欲が満たされて上機嫌になった雄山は、こちらのことなどお構いなし。自由に、己の本能の赴くままに語り始めた。
俺はバレないように息を吐き、そっと視線を外に向ける。
聞きたかった内容からは、やはりかけ離れてしまった。だけれど、せっかくなので自分なりに考えてみることにする。そして――
「……あ。そういや」
ふと、記憶の端にあった神社のことを思い出した。
「
通学の際に使っている電車内から見える、小さな神社だ。名前も知らない場所ではあったけど、おそらく俺の家から一番近い神社だと思う。
「あ、あぁ……あの神社か」
だがそれを聞いた雄山が、途端に声の調子を落とした。そして、
「悪いことは言わない。あの神社だけはやめとけ。良いことないぞ、絶対」
怪訝そうな表情を浮かべ、顔の前で手をヒラヒラさせながら、そう続けた。
「……どうしてだ?」
「あそこ、いわく付きなんだよ。――……通称、首吊り神社」
俺がさらに訊くと、雄山の口から飛び出したのは何やら物騒な言葉。――ぞくりと、嫌な予感がしたものの、友人の話を中断させることは出来なかった。
「なんか昔、あの神社で首吊った男がいた、とかなんとか。……で、その理由が痴情のもつれってやつだって噂なんだよ」
「へ、へぇー……」
そこで一度、(一方的なモノではあったが)俺達の会話は途切れた。何やら重い空気がただよって、どうにも居心地が悪い。
先に耐えられなくなったのは、俺だった。
「そ、そう言えばさ。お前この週末に『デモハン』のオフ会に行ったんだろ? それの戦果はどうだったんだよ」
淀んだ雰囲気を散らすため、思いつく限り明るい話題を振る。内容は先週の金曜日にこの友人が楽しげに話していた内容だ。それならば外れるはずがないだろう。
実はこの友人――雄山は、俺を『デモハン』の世界に引きずり込んだ張本人だったりする。彼いわく、最近はネットゲームを出会いの場として利用する人もいるとか、らしい。
だからさぞ、楽しい週末を――
「……あ? あぁ、行ったよ。クソ喰らえって思ったけどな」
と思ったら、苦虫を噛み潰したような顔をされてしまった。
俺は不思議に思って聞いてみる。
「あれ? この前はスゲェ楽しみにしてたじゃないか」
「え? あー……まぁ、そうなんだけどよ。なんというか――そうだ。ネット上では女なのにリアルは男。よーするに、ネカマばっかだったんだよ! 信じられるか?」
すると、しばし悩んだ後にそんなことを言って同意を求めてきた。――が、付き合いの長い俺は、コイツのついた嘘をすぐに見破った。
「あぁ……また、か」
俺は呆れ、ため息を吐いた。
先ほど言っていた、雄山に彼女が出来ない理由がこれ。
この男は異常なまでに面食いなのである。今のように悪口は決して言わないものの、その理想が高すぎる気がある。そのため、お調子者な性格から男女問わずに友人は多いが、その血のにじむような努力も叶わず、彼女は出来たことがない。今回の一件でテンションがだだ下がりなのは、オフ会にお眼鏡にかなう女の子がいなかった、ということだろう。
まぁ、同じく。彼女いない歴=年齢の俺も人のことを言えた義理ではない。
けれども今日に限ってはハッキリと、コイツに言っておきたい。そう思った。
「でも、さ。雄山……顔も大事だけど、それ以上に大事なのは性格だと思うぞ?」
……この時、俺が誰のことを考えていたかは、皆さんのご想像にお任せしたい。
「お、おう……やけに真剣じゃねぇか。鵜坂」
そして、この俺の一言は思いのほか感情が乗っていたらしい。聞いた雄山はモヤモヤとした表情から一転、ポカンとした間抜けな物に変わっていた。
そして、そこで丁度――
「……ん? もうこんな時間……やべぇ! 次、移動教室だ! それじゃあな、鵜坂!」
チャイムが鳴り、俺とは選択科目の違う雄山は慌てた様子で立ち上がった。そして軽くこちらに挨拶をして、外へと向かって駆け出し――
「あっ! ご、ごめんなさいデスっ!」
「ご、ごめんなひゃい! そ、それじゃ!」
同じく教室に駆け込もうとしていた女子生徒とぶつかっていた。
幸いどちらも転ぶことなく、簡単な謝罪をし合って別れる。その女子は、他の女子に声をかけられて、恥じらうように笑っていた。
「あ、そうだ……」
その様子を見て、俺は自分のやらなければいけないことを思い出した。
慌ててスマホを取り出して、カメラを起動する。消音に設定し、出来る限り平静を装って、先ほどの女子生徒へと向けた。――まぁ。今なら某ゲームだと思われるだろう。
そして、画面をゆっくりとタッチ。
「……よし」
小さく頷いてスマホをしまう。
そのあと俺は、何事もなかったかのように一日を過ごすのであった――
◆◇◆
――で。
学生としての一日を終えて、帰宅。そして部屋に戻ると――
「『うっはwww神降臨!www』――っと」
「いや、だから……それをお前が使うのはどうなんだ? 見習いだけどさ」
今朝と同じ体勢でパソコンを覗き込み、某巨大掲示板を閲覧している少女の姿が。
とても本物の神様としての自覚を感じられない彼女の口振りに思わず、挨拶もなしにツッコんでしまった。
「? あぁ、なんだ。ユウか。帰っていたのだな」
だが、そんなことは気にも留めないらしい。
エニシはこちらを一瞥したかと思えば、すぐに画面へ向き直る。そしてマウスを動かし、スクロールさせ、何やらカチカチと文章を打ち込んでいた。
「あれ? 今日は『デモハン』やってねぇの?」
ふと、気になった疑問をだらしない少女に投げつつ、俺はベッドの横へと移動。受け取ったエニシは視線そのままに、頬を大きく膨らして答える。
「う、うるさいな。儂だって、毎日『デモハン』をやっているわけではないぞ。今日はただ、その――そう! 糞メンテのせいで、やりたくてもやれない状態なのだ!」
「なるほ――って、メンテナンスがなかったらやってるんじゃねぇかよ」
ガクッと、肩の力が抜けてしまった。――この少女は、本当にどうしようもない。
「ほら。撮ってきたぞ、写真。……それで? この後はどうすればいいんだ」
だが今さら気にしていたって仕方がない。俺は切り替えるようにそう尋ねて、スマホをテーブルに置く。肩に掛けていた荷物を下ろして、ベッドにゆっくりと腰かけた。
「む……?」
そこに至って、ようやくエニシがこちらに目を向ける。
写真というのは、言わずもがな、昼休みに撮影した物のこと。昼に撮ったアレ以外にも、俺は複数回に渡って同じことを繰り返した。
弁明しておくが、これは当然ながらコイツの指示によって行ったことだ。
だから、断じて俺は――
「――もう盗撮してきたのか。手が早いのだな」
「盗撮って言うな! それに、これはお前がやってこいって言ったんじゃねぇかよっ!」
……やれと言われても、二度とやらねぇ。そう心に誓った、高校二年の夏である。
俺は著しく傷つけられた名誉のために声を荒らげたが、少女は意に介さない。「はいはい、分かった分かった。乙~」と、面倒くさそうにあしらう。
そして俺のスマホを手に取り、眠そうな目で盗さ――画像の確認作業に入った。
釈明できない現状は不満だが、エニシは『デモハン』の定期メンテナンスのためか、テンションがかなり低い。そのためこれ以上叫んだところで、また妹にキレられるだけだ。
「で? それって結局何なんだよ。説明してくれ」
と、いうわけで。俺はがっつりと話題を変えた。
やや強い口調になってしまったが、それも今はどうでもいいらしい。スマホからは目を逸らさず、エニシはダルそうな調子で答えた。
「これか? これは今、お主好みの女の中から、『恋愛の縁』がある者を探しているのだ」
「『恋愛の縁』……?」
聞き返すと、小さく頷く我が家の神様。そしてさらに説明を付け加える。
「人の『縁』という物には、いくつか種類があってな。よく『運命の赤い糸』とか言うだろう? アレなんかは『恋愛の縁』によく似た物だ」
「あぁ、なるほどな。……それで縁結びの神様ってのは、それを成就させてくれるのか」
少女の例えを受け取って俺はなんとなく納得し、腕組みをして頷いた。
だがそこでピタリ、エニシの手が止まる。こちらを見た彼女は、
「残念だが、それは少し違うぞ。あくまで神は、『縁』を感じ取りやすくするだけだ」
あっさりと否定した。
「……えっと、悪い。解説を頼みたいんだけど」
「むう? 仕方のないやつだなぁ……」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた俺が言うと、エニシは手を止め、スマホをテーブルの上に置いた。そして人差し指をピンと立て、半眼のまま話し始める。
「まず、第一に『縁』というのは本来、見えないモノなのだ。だがな、微かにではあるが感じ取ることは可能だ。――……時に、ユウ?」
そこまで言ってから、少女は立てていた指を俺へと向けた。
「お主は今まで、はたから見れば極めてお似合いなのに恋仲ではなく、そしてそのことを指摘されると、互いに強く関係を否定する男女……というものを、見たことがあるか?」
「え? ……あぁ。たまにいるな、そういうやつら」
「でも、それがどうしたんだ?」と俺が続けると、「勘の鈍いやつだな」とエニシ。
その言い方についついムッとしてしまった。だが少女はこちらの機微を知ってか知らでか、変わらぬ様子で説明を続ける。
「つまり、だ。人にとって『縁』――とりわけ『自分自身の縁』は感じ取りにくい。だから先ほど言っていたようなことが起こり得る、と言いたいのだ」
「ふーん? 少し理解できたような――」
「――ちなみに、儂はこれを『お前らさっさと爆発しろ現象』と、名付けることにした」
「あ、そう……」
……最後にエニシが何か言っていたが、今は触れないでおこう。
俺が真顔になっていると、説明はここまでといったふうに、エニシは再度スマホを手に取る。そしてまた、画像の確認を開始した。なので、俺もベッドに身を預け、天井と向き合うだらしない体勢に。
「で。今やってるのが、その『縁』を探す作業ってことか」
そのままの状態で俺が聞くと、「あぁ」と、肯定の声が返ってきた。
「『縁』を見つけたら、神はその者が『自身の縁』を感じ取りやすいモノにする。その先のことは見習いの神が自由に決めていいのだが……本当は、ただ見守っているべきなのだ」
強く断言したところで一度、間が置かれる。そして――
「――しかし今回は……まぁ、時間がないからな」
だから仕方ないだろうと、そう言いたげに少女が息をつく音がした。
時間がないのはエニシの責任なのではないかと思ったが、今はあえて口を出さない方が良いだろう。そのため、少女が話し終えたタイミングを計ってから質問をすることにした。
「話は分かった。エニシは、感じやすくなった『縁』を『結ぶ』ところまで手伝ってくれる……ってことでいいんだな?」
「まぁ今回だけは、な。だが、ユウ――最後はお主の努力次第だぞ?」
「分かってるって。でも、具体的にはどうするんだ。何か考えがあるのか?」
身を起こし、俺は再びエニシを見る。すると、あることに気付いた。
「エニシ? 何だよ……気味が悪いぞ」
「ふっふっふ……」
スマホを置いた少女。その顔に、悪事をたくらむのような笑みを浮かべていたのだ。
腰に手を当て、無い胸を張ってほくそ笑む。その姿には、若干の不気味さが宿っていた。だが、揺るぎない自信を秘めたエニシの表情。出会ってから今まで、見たことのない表情。
そんな少女の姿を見て、俺は期待を抱かざるを得なくなっていた。
そう。確信した――彼女には秘策があるのだ、と。
「任せておけ。この儂に……いや――」
「――――――」
息を呑む。部屋の中に緊張感がただよう。
そして、その次の瞬間だ。最大限まで練り上げられた俺の期待感は――
「――ギャルゲーマスターと呼ばれた、この高瀬エニシになぁッ!」
「………………はぁ?」
――……一気に、失望感へと変化した。
頬が引きつり、呆れた苦笑いが漏れてしまう。俺は自分の浅はかさを呪いつつ、目の前で自慢げにしているこの『廃神』をどうしようか、ということだけを考えていた。……いや。もう手遅れのような気もするのだけれど。
「うむ? ど、どうしたのだユウ。何故、そのようにゴミを見るかのような目を……?」
こちらの様子をやっと察したらしいエニシは、明らかに狼狽える。しかし、出てきた言葉から見る限り、何が悪かったのかを理解はしていないらしい。
それならば、と。俺は子を叱る父親のような心持ちになって――
「あのな? 現実とゲームを一緒にしてはいけないぞ。……それは、分かるだろ?」
「い、いや。しかしだな……」
――説得をしようとしたのだが、目の前の子供は納得しようとしなかった。まっすぐに見つめると、太めの眉をひそめ、不満と不安が入り混じった色を浮かべる。
さてさて。だったら、もっと具体的な内容で否定をしてやらないといけないだろう。
そう考え――
「それに、そもそもギャルゲの主人公って、努力も何もないだろ。アイツらって、最初っからヒロインと結ばれるって決まってるじゃないか。参考にならないって」
「………………」
ハッキリと、一般論を突き付けてやった。
瞳孔が開き、眉一つ動かなくなる黒髪の廃神様。
現実と虚実では大きな隔たりがある。そのことを、これでやっとエニシも納得してくれるだろう。そう思い、俺は腕組みをして彼女の再起動を待って――
「って、あれ? エニシ? …………エニシ、さん?」
――いたのだが、どうにも雲行きが怪しい。
そして、その異変を意識した時――今度は俺が、身動きを取れなくなっていた。
「………………」
――少女は驚愕の表情のまま凍り付いていた。
すると大きく愛らしい瞳が、今に限っては恐怖の対象となってしまう。なぜなら大きく見開かれたその目玉が、瞬き一つせずに、俺の姿を捉えて離そうとしないのだから……。
その時間が長くなればなるほど、じわり、俺の危機感は募っていく。
いつの間にか――立場は、完全に逆転していた。
「……おい、ユウ」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
吐き出された、地を這うかのような少女の声。
名を呼ばれ、全身が怖気立つのを感じながら返事をする。しかしそれは恐怖に震え、今まさに食われようとするカエルの一声のようだった。
俺には窮鼠になる勇気もない。ユラリ、立ち上がったエニシを見上げるしかなかった。
「貴様――今、ギャルゲ主人公のことをバカにしたな?」
「――――――――」
血走った眼。
そして、不自然に口角を吊り上げた笑み。
狂気にも似た、静かなる激情をその身から醸し出す彼女に問いかけられ、とうとう俺は言葉を失った。万事休す。俺は逃げ出すように、目を閉じることしか出来なかった。
そして、世界が暗闇に支配された瞬間――
「この……大馬鹿者がぁ――――ッ! ギャルゲ主人公を舐めるなあァ――――ッ!!」
――ギンッ! と、耳を裂くような叫びが、部屋の中に響き渡った。
少し時間をおいて、おずおずと目を開く。するとそこに立っていたのは、先ほどからは一転、眉を寄せて、激しい怒りを小さな身体の前面に押し出したエニシの姿であった。
少女はビッと、俺の眉間めがけて右手人差し指を突き出してくる。
そして大口を開け、持論を展開し始めた。
「ギャルゲ主人公の行動力を甘く見るなっ! 彼らは休み時間になると決まって学内を徘徊し、時にはヒロインの心に寄り添い、悩みを共に解決しているのだぞ!? そのような努力を、貴様はやってきたことがあるのかッ!」
「うぐ。な、ないです……」
唾を浴びながら、俺はうつむいて答える。
だけども少女の激昂は、まだまだ収まらない。
「儂が言いたいのはそういったところだ! 貴様は一面的な部分しか見ずに、対して自分は何の努力もしようとしていないではないかっ! ――どうせ貴様は、休み時間は机に突っ伏し、たまさかに訪れた友人と世間話をする程度の高校生活なのだろう?」
「うぐっ……」
めちゃくちゃ言い返したい。
でも、それとなく正論なので言い返せない。
――……く、くそっ! ゲームの話なのに! ただのゲームの話なのにっ!
「たとえ『縁』が見えていたとしても、行動しなければ『縁結び』はならぬ。だから儂は貴様に、今回はギャルゲ主人公の努力を見習い、参考にして行動をしろと言っているのだ。……分かったか? ユウ」
「……はい。分かりました」
「うむ。では、今後は存分に励むがよい!」
結局、そのまま押し切られる形となってしまった。
ちらりと様子をうかがえば、そこにいるのは仁王立ちしてドヤ顔のエニシ。こちらを見下すその目は、勝利による優越感に満ちている。
対して俺の心には、言いようのない敗北感だけが残されたのであった。
「さて。そうこうしているうちに、『縁』の確認が終わったぞ。……ほれ」
「え、いつのまに?」
と、そこで唐突にエニシが言う。
いつの間にか四つん這いでうな垂れていた俺は、突き出されたスマホを見る。するとそこには、昼に雄山とぶつかった女子生徒が映し出されていた。
サイドアップにしたセミロングの金髪が特徴的な女の子だ。
活発そうな碧眼の眼差しに、明るい笑顔。スッと通った鼻筋に、チラリとのぞく八重歯が良く似合う。モデルのようにすらっと伸びた手足は、ほのかに日に焼けた小麦色をしていた。
白のセーラー服を着る他の生徒とは異なり、彼女だけは紺色の制服に真紅の帯を結ぶ。爽やかな緑色をしたスカートも、その女の子の魅力をより引き立てていた。
「ユウ。この女子の名はなんと言うのだ? どうも西洋的な外見をしているようだが」
「えっと、この子はアンジェリカ。たしか、おばあさんが日本人のクォーター……だったかな。今、ドイツからうちの高校に留学してきてるんだよ」
「ふむふむ」
エニシは頷き、再び女の子――アンジェリカさんをまじまじと見つめる。
アンジェリカさんは昨年の今頃にやって来た留学生だ。祖母が日本人ということもあって、元々こっちの文化に関心があったとか。
最初の頃は端麗な容姿と、物珍しさという偏見によって、やや浮いていた節もあった。だが今では、持ち前の明るい性格もあってか、すっかり周囲に溶け込んでいる。――というよりも、来た当初よりも絶大な人気を誇っている。我が校のアイドルだ。
かく言う俺も、今年は同じクラスになれて陰ながらガッツポーズを……――
「って、え? まさか……」
ふとそこで思考が途切れる。あることに思い至ったのだ。
その予想が正解であるか否かを確かめるため、その予想が正解なのかどうかを確かめるため、エニシへと視線を送る。すると彼女はニンマリとした笑みを浮かべ、腕を組んで待ち受けていた。
そして、小柄な少女は堂々と、自信満々に宣言したのだ。
「うむ! ――……存分に、ラブコメするがよいっ!」――と。
「……マジか」
聞いた俺は自然、そんな言葉を漏らすことしか出来なかった……。
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