第二話 縁結びの試験

 

 ――……寝不足の一週間を乗り越え、達成感に浸っていた金曜日の夜。



「……と、言うわけで。貴方には、『縁結び』に協力していただきたいのです」



 丸型テーブルを挟んだ向かいに正座した人物が、唐突にそう言った。


 その人は幼い外見をしたエニシとは対照的に、成熟した大人の雰囲気を感じさせる女性だ。

 白雪のように美しく、背中まである長い髪。確かな意志を感じさせる瞳は、なおかつ、すべてを許すような包容力を秘めている。そう、感じられた。


 柔らかに微笑む口元には官能的なホクロ。着崩した紫色の着物の胸元からは、その人の隣に座るエニシにはない肉感。豊かな二つの果実が、顔を覗かせていた。


 だが、不自然なほどに興奮を覚えない。――否。この人に、情欲を感じてはいけないのだ。

 魅惑的でありながら、かつ神聖的な不可侵性を持つ美女。


 俺は、そんな彼女の申し出に対して――


「……はぁ?」


 間の抜けた返答をした。

 すると女性は首を傾げ、指を唇に当てて思案顔で言う。


「あらあら? なぜでしょうか……」

「い、いや。突然押しかけられて、前置きなしにそんなこと言われたって、『はい、分かりました』なんて答えるわけがないでしょう? あなたが誰かも知らないのに」


 彼女の疑問を聞いて、俺は即座に指摘する。

 そこでようやく、女性はハッとした表情になりポンと、一つ手を打った。


「まぁ! わたくしとしたことが、失念しておりましたわっ!」

「………………」


 大げさに口元に手を持っていき、驚きの声を上げる美女。――あまりに自然なリアクションに、演技なのか、はたまた本気なのか。その判別はつきそうになかった。

 まぁ。どちらにしたって、俺は彼女の言葉に絶句するしかなかったのだけど。


「それでは、改めまして……」


 こちらが言葉を失っていると、言うが早いか、白雪髪の女性は静かに居住まいを正す。そして、


「お初にお目にかかります。私、エニシさんの直属の上司であり、監督役を仰せつかっております。イズモと申します。以後お見知りおきを」


 身にまとう雰囲気と違わず、美しい所作でお辞儀をした。


 はらり、長い髪の数本が前に向かって垂れ落ち、甘美な世界が視界に飛び込んでくる。慌ててエニシを見ると、女性――イズモさんに合わせて、彼女も頭を垂れていた。

 俺はホッと胸を撫で下ろし、視線を元に戻す。


「えっと……その、それでそのイズモさんが、今日は何の用なんでしょうか?」


 そしてそう言ったのだが、出たのはつっかえた音。

 改めて頬が熱くなってくるのを感じた。しかし、イズモさんはそのような俺の機微に気付いていないのか、ゆっくりと面を上げる。――すると意外にも、その表情は神妙。


 眉をひそめ、トーンを落として話し始める。


「えぇ……実は、驚かれるかと思うのですが――」


 その様子に、俺も思わず身体を強張らせた。

 だがしかし――


「――……私達は、『本物の神』なのです」

「………………」


 一気に脱力した。


 きっとこの時、俺は思いっきり苦笑いを浮かべていたのだろう。しかし、決して彼女の言葉を信じられなかった、という訳ではない。

 それを見たイズモさんは目を丸くし、口元を手で隠していた。


「……あら? どうしたことでしょう。驚いてもらえると思っていたのですが……」

「そりゃあ、無理でしょ。どう考えたって」


 俺は彼女の口振りに、気付けばそうツッコんでいた。

 なぜなら、イズモさんが言ったそれは……そう。すでに『前提』なのだ。


「こっちは、エニシから先に話を聞いてるし。それに、さっきイズモさん光の中から現れたでしょう? もう、それだけで十分に理解できてます」


 少なくとも、ただの人間とは訳が違う、ということは理解している。だから俺にしてみれば、それを聞いてこちらが驚くと思っていた彼女に驚いている。


 ――と言うか、唖然としている。

 もしかして、この人(?)は『アレ』なのか?


「ま、まぁとにかく! それで、イズモさんの要件ってのは何なんですか?」


 だが、追究していては話が進まない。俺はどこか残念そうにしているイズモさんに、話をするよう促した。――のだけれど、そこでさらに邪魔が入る。


「あにきーっ! この間借りたマンガ読み終わったんだけど、続きって持ってる?」


 ガチャリ。ノックもせずに、妹が部屋に入ってきやがったのだ。

 不必要なほどの大声でそう言いながら、妹はズカズカと、テーブル前に座る俺のもとへとやってきて本を突き出す。


 俺は、妹の視線がこっちだけに向いているのを確認し、


「ふぅ……あぁ、持ってるよ。ちょっと待ってろ」


 ホッと息をついて立ち上がった。

 部屋の端にある本棚へ向かい、ついてきた妹からマンガを受け取る。そして元の位置に戻すのと一緒に、次巻を引き抜いた。


「ほらよ。汚すんじゃないぞ?」

「わーってるよ。サンキューな、あにき」


 目的の物を渡す。するとエニシのように小柄な妹は、こちらを見上げてニッと笑った。


「……よし。それじゃ!」


 そして短くそう言うと、駆け足で出て行ってしまった。――ドアを閉め忘れているところを見るに、かなり続きが気になっている模様だ。


 俺は仕方なしにドアを閉めに向かい、対談の席に戻るまでに少女から聞いたことを思い出す。

 エニシが言うには、『神様の姿』は特定の人にしか見えないらしい。

 その条件は、二つだ。


 一つ目は、神様が姿を見せると決めた者。

 二つ目は、その神様の存在を正確に捉えている者。


 だから妹に二人の姿は見えない。――俺に二人が見えるのは、おそらく前者の理由。


「さて、ちょっと邪魔が入ったけど、話の続きを……ん?」


 腰を下ろしてイズモさんに再び対峙する。その時、俺はある異変に気づいた。


「どうしたんですか? イズモさん。そんなお化けでも見たような顔して……」


 イズモさんの顔に、明らかな動揺の色が浮かんでいた。

 俺の目の前に現れてから、今までどこか余裕のある表情を保っていた彼女だ。そんな人が今こちらを見て、口元に手を当てて何度も瞬きをしている。信じられない物を見るかのように。


 原因に見当がつかない俺は、黙って彼女の言葉を待つ。

 そして数秒の沈黙の後――


「あ、あの。すみません……――」


 こちらの問いに、ようやくイズモさんは口を開いた。

 『いったいどうしたと言うのか』と、そう思いつつ、彼女の言葉を耳にした俺は――


「――……貴方は、その……男性の方、だったのです、か?」

「――――――――」


 ――声を、そして表情を失った。さながら、悟りの境地。


 『疑惑』から『確信』へ。

 やっぱり、イズモさんは『天然アレ』だっ――


「……やはり、イズモ様もそう思っておられましたか。彼のことを女の子だと思った時期が、儂にもありました。そして『こんなに可愛い子が女の子のはずがないっ!』と叫ぼうとしたら、リアル男の子でしたっていう……」

「あ、あら。やっぱり、エニシさんも勘違いされていたのですか? どうりで……」


 ――と思ったら、今まで黙って座っていたエニシまで、嬉々として同意しやがった。

 確かに、友達から童顔って言われたりもするけど――――え? そこまで?


「お、おいっ、ユウ! どうしたんだ!? 何故、膝を抱えて小さくなっているっ!?」

「あら……? もしかして、意外とショックだったのですか?」

「………………」


 凹んだ俺を見て、にわかに慌て始める神様二人。

 そして――


「き、気にするな! というか、むしろ素晴らしいじゃないか! ユウ、お主は『神に認められし童顔』なのだぞっ! きっと、世界のお姉さま方が歓喜にむせび泣くぞっ!」

「そ、そうですよ? 貴方の童顔は、男性恐怖症のエニシさんと生活可能という奇跡を実現させて……――」


 見当違いのことを言い始めた! ――くっ。聞いてたら、なんかイライラしてきた。

 そして、とうとう俺の堪忍袋の緒が――


「言っとくけど、お前らそれフォローになってねぇからな!? 人の傷口に塩を塗り込んでるだけだからなッ!? それに――」

「――独り言うるせぇぞ、あにきッ! マンガ読んでんだから静かにしろッ!!」


 ――……キレたら、隣の部屋の妹に怒鳴られた。


「「「………………」」」


 俺達三人は一斉に口を噤む。――その内二名、意味なし。


 無意識のうちに立ち上がっていた俺は静かに座り、両手を中空に彷徨わせて、中腰になっていた神様二人も元の位置へと戻った。エニシはもぞもぞと正座した足を動かし、イズモさんは乱れた髪をせわしなくに整えていた。


「……こほん。一度、落ち着きましょう」


 タイミングを計って、俺はわざとらしく咳払い。そして二人に向かって言うと、彼女らはそろって真顔で頷いた。口を真一文字に結んで。


 さて。それでは、閑話休題。

 脱線しまくった話を戻すとしよう。


「……で。エニシとイズモさんが神様だってのは、もう十分に分かりました。でも、それがどうして、俺が『縁結び』を手伝うってことに繋がるのか、教えてください」

「ふぅ……はい。分かりました」


 俺が話を促すと、イズモさんはふっと息を吐き出し、真剣な表情になって切り出した。


「まず、先に断っておかなければならないことがあります。それは、エニシさんがまだ正式な神ではない、ということです」


 言って、彼女は視線をエニシに向けた。

 俺もそれを追いかける。するとそこにあったのは、ジャージの袖を握り、バツが悪そうに目を伏せる少女の姿。先ほどまでの元気は、欠片ほども見受けられない。


 何かを堪えようとしている様子。

 それを見た俺は――


「え、えっと。それはコイツが、まだ『神様見習い』……ってことでいいですか?」


 つい逃げるようにして、イズモさんに質問を投げてしまっていた。

 だが、そんな俺にイズモさんは何も言わず、ただ静かに首を縦に振る。


「見習いの神は、正式な神になるための試験が与えられます。もちろん、学問の神に人の健康を、などという無理はさせません。その神の適正に応じて、内容は決まります」

「なるほど。それで、エニシの場合は『縁結び』――ん? ちょっと待って下さい」


 説明を受けて、俺の頭は混乱した。――だって、あり得ないだろう?

 エニシに再度、視線を投げる。すると少女はわざとらしく、そっぽを向いてしまった。


「イズモさん。じゃあ、コイツ……エニシって、もしかして――」


 イズモさんは眉一つ動かさず、答える。


「はい、そうです。貴方の予想通り――エニシさんは、『恋愛の神』です」

「マジ? …………ですか」


 俺が困惑に呑まれつつ漏らすと、「はい、マジです」と返す白雪髪の美女。


 適正っていうのを、何をもってして計るのかは知らない。でも、それにしたって駄目なように思えた。――『廃神様』であるエニシには、あまりに難しすぎる内容だろう。


 彼女のよく言う言葉を借りれば――『無理ゲー』というやつだ。


「……という事情ことでして。エニシさんには、貴方と『恋愛のえん』を結んでいただきたいのです」

「え!? ちょ、ちょっと待って下さい!」


 ふと、そこである予感が脳裏をよぎった。


「恋愛の『縁』を結ぶのって、もしかして俺と……――」


 俺は、黙ったままの少女と自分の間で人差し指を交互に動かしながら、


「――……コイツの、ですか!?」


 そう、イズモさんに尋ねた。

 それには、色々と問題があるような気がしてならない。第一、神様と人って同じだと考えてもいいのか。あと、この少女の容姿的に言えば、PTAとか倫理的に問題が……。


「……? 何を仰っているのですか?」

「え、だって……」


 俺が困惑していると、不思議そうにイズモさんは首をかしげる。そして、


「私が結んでほしいという『縁』というのは、貴方とエニシさんに限ったものではございませんよ? エニシさんはただ、貴方と誰かの『縁』を結ぶ。貴方には、誰かと『縁』を結べるよう、出来得る限りの手助けをしてあげてほしい――という意味です」


 改めて、そのように説明をしてくれた。

 ……ええっと?


「……………………あ」


 己の勘違いに気が付いた時、俺は顔から火が出るような思いに駆られた。よくよく考えてみれば当たり前の話だというのに、何を言っているのだろうか、俺は。


「な、なるほど。そういう意味、ですよね? で、でも、どうして俺?」


 思い違いをしていた気恥ずかしさを隠そうとする。――だ、しかしどうしても隠しきれずに、俺は逆にイズモさんへと、そのように聞き返した。


「それは、まったくの偶然です。一週間前、ずっと外との関係を拒絶し、神界に引きこもっていたエニシさんが家出をしたので。なるほど、これは絶好機だ、と」


 すると彼女は、何事もなかったかのように事情を解説してくれる。

 そこに至ってようやく、俺も少しだけ冷静さを取り戻すことが出来た。


「そう、ですか。……偶然、か」

「ふふふっ。まぁ、これも何かしらの『縁』なのだと、思っていて下さい」


 呆けている俺に、目を細めて、小さく笑いかけてくるイズモさん。そんな彼女を見ながらも、俺はその隣に座り、テーブルの一点を睨んでいる少女とのことを考えた。


 エニシがこの部屋にやって来たのは、ちょうど今から一週間前。

 俺と少女が知り合ったのはネットゲーム上――『デモハン』を通じて、だった。


 そして何度か行動を共にしていると、彼女から家出の相談を受けた。その時の俺には、ただ純粋に、友人の助けになりたいという思いしかなかった。

 今みたいな特別なことなんて、ちっとも期待していなかったんだ……。


 でも、断る理由もとくになかった。なので――


「……そうです、ね。分かりました。それじゃあ手伝います」

「あっ……」


 俺は少し悩んだが、そう返答する。すると、うつむいていたエニシが小さく音を漏らした。――面を上げ、何か言いたげにこちらを見る。


「ん? どうしたんだよ」

「え、あ……いや――」


 訊くと、少女は視線を中空にさまよわせた。口角を引きつらせ、頬をかく。

 そして僅かに震える声で、


「――よ……よく、そんな女顔で、恋愛しようなんて思ったなぁ……なんて……」


 威力満点の暴言を吐き出しやがった!


「まだ言うか!? いいじゃねぇかよ、興味あったって! 俺だって、こんな顔してるけど高校二年生、人並みに青春したい年頃なんだからな!?」

「う、うあぁ……すまん、すまん! 謝る! 謝るから、そんな怖い顔しないでくれっ!」


 ぐっと、身を乗り出して詰め寄る俺。するとエニシは涙目になって、両手を前に突出し叫んだ。次いで、身を守るようにして体育座り。――小動物のように震えている。


「はぁ……分かったよ。だから、そんなに怯えんなって……」


 その様子を見ていると、これ以上怒るのが可哀そうに感じられてしまった。

 仕方なしに俺は腰を下ろす。――彼女はちらりと、隙間からそれを探り見ていた。


「ふふっ。それではエニシさん、どうしますか?」


 そこへ、イズモさんの声が飛び込んでくる。

 ――この人、意外と容赦ないな。


「――――――」


 エニシは息を呑み、また目を伏せた。だが、今回はそれほど長い沈黙ではなかった。

 ゆっくりと顔を上げた少女は腕を組んで、


「はぁ~……仕方ない。やります。やりますよ。やればいいのでしょう? あぁ、せっかくちゃんとした回線で、ラグのないネトゲを満喫出来ると思っていたのに……」


 わざとらしく、ため息。やる気のない半眼で、長々と恨みったらしいことを口走った。がっくりと肩を落として、倦怠感をありありと醸し出す。


 しかし俺にとってみれば、今の彼女を見て、嫌悪感より安心感の方が大きかった。

 今の彼女こそ、ここ数日見てきた高瀬エニシという少女の姿だったからだ。


「それでは、確認をしておきましょう」


 俺が深く安堵していると、イズモさんが仕切り直すようにそう言った。


「試験内容は、『恋愛の縁結び』。そして期限は、今から一週間後の金曜日です」

「え……? 一週間? ちょっと短すぎませんか?」


 ――と。確認だと言うのに、新たな疑問が生まれてしまった。


 『縁結び』という内容だけでもエニシにはハードルが高い。それなのに『一週間』という期間設定は、あまりにも無謀に思えた。


「それは、ですね……」


 俺に答えようと、イズモさんは言葉を探す。そして同時に、彼女の視線はエニシとノートパソコンの間を、交互に行ったり来たり。

 あぁ、なるほど。それだけで、何となく理由が分かってしまった。


 これは、つまり――


「自業自得ってことか」

「うぐっ……」


 うめき声が上がった。――図星のようだ。


 おそらく、時間はもっとあったのだ。だと言うのに、エニシは日々ネットの世界に溺れ、試験期間ギリギリまで追い詰められてしまった――と。

 まぁ。そういうことなら、仕方ないのかもしれない。乗りかかった船だ。俺はとりあえず、自分に出来る最大限のことをしよう。


 そう心に決めて、小さく拳を握った。


「それでは改めまして、よろしくお願いいたしますね? ……あら?」


 そんな俺を見て、イズモさんは話を終わらせようと――したのだが、小首を傾げて苦笑いを浮かべてしまった。――どこか、申し訳なさそうにこちらを見つめてきている。


「ん? どうしました?」

「あらあら。私としたことが、貴方のお名前を伺っていませんでした。最後になって申し訳ありませんが、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「あ、そう言えばそうでしたね。俺の方こそ、気付かないですみません」


 指摘されてハッとした。俺は少し慌てて姿勢を正す。


「俺の名前は――鵜坂うさかユウです。よろしく」


 そして、右手を差し出して自己紹介をした。

 イズモさんは面食らったような表情を浮かべたが、すぐに手を差し出し――


「えぇ。こちらこそ、よろしくお願いいたしま――…………あら?」


 互いの手が重なり合った瞬間だ。

 声を漏らした彼女は、やがて目を細め、可笑しそうに笑った。そして、


「……三文にも満たない、安っぽい芝居のような話ですわね。でも、こういった愉しみも、たまには必要なのかもしれませんね……――」


 小さく、そう言った。

 すべては聞き取れなかったが、どこか冷たい響きを秘めたその声。今までとのギャップの大きさに、俺は身動きを取れなくなっていた。


「それでは最後に――エニシさん? 決意表明をお願いできますか?」


 しかし直後、イズモさんは元の彼女に戻って、自分の部下にそう話を振っていた。

 ……気のせい、だったのだろうか。


「むぅ……イズモ様。それは、言質を取ろうとしているのではなくて、ですか?」


 上司の指示を受けたエニシは、不承不承。俺の顔を睨みつつも立ち上がる。そして深いため息を何度も吐き、本心ではない、というアピールを繰り返していた。

 だが、とうとう観念したらしい。


「こうなったら、仕方ない。まったくもって、本意ではないが――」


 そう前置きしてから、少女は長すぎる髪を振り乱しつつ、俺の顔を指差し――



「――……ぞ、存分に期待するがよいっ!」



 そう、震える声で彼女なりの宣言をしたのであった。

 問題は山積みで、かつ流されるままに巻き込まれただけ。



 だがこうして、俺とエニシの奇妙な協力関係は始まったのである……――


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