第38話「ショー・マスト・ゴー・ナイト」
その夜、戦いが……それも、とても盛大な戦いが行われた。
そして、
文武両道、スポーツ万能にして成績優秀、その上に人が言うには容姿端麗な優輝は……死ぬほどテレビゲームが下手だった。
千咲はあれでどうして、なかなかに器用で変に悪運が強い。
夜が
「おっし、そろそろ寝るかねー? ねっ、優輝」
「えっ? も、もうそんな時間? 千咲」
「わはは、一応平日だしー? 夜ふかしはお肌の大敵だし!」
「あっ、11時……本当だ、いつの間に」
珍しく没頭していたようだ。
きっと、ゲームに集中していればアレコレ考えなくてもいいからだ。今も、すぐ手の届く距離にシイナの
でも、決してもう触れることはできない。
互いに距離を保ったまま、同じ方向へ別の道を進むのだ。
兄と妹になった今、もうその道が交わることはないだろう。
「うーん、じゃあ悔しいけどお開きかな。ねっ、シイナ」
「そだね、優輝。今度、ボクが特訓してあげるっ! 優輝は飲み込み早いし、すぐ上達するよ」
「うんうん……ゲーマーのリャンホアや
「目標、低っ! あはは、でも大丈夫だよっ。ボクがみっちり鍛えたげるから!」
シイナの笑顔が、とても眩しい。
思わず目を細めて、視線を少し逃がす。
眩し過ぎてもう、とてもじゃないが直視できない。
そして、これからは慣れていかなきゃと自分に言い聞かせる。もう、優輝は決めたのだ。これからは妹として、兄のシイナを好きになりたい。幸せな家族になりたいし、女手一つで優輝を育ててくれた母には、誰よりも幸せになってほしかった。
それに、この胸の
そう自分に言い聞かせて、今夜のパジャマパーティをお開きにした。
「アイヤ、もう終わりアルか……でも、明日また朝早いネ。それにしても」
リャンホアも残念そうにしていたが、隣のシイナを見下ろし改めて驚いている。
女装男子シイナは、当たり前のように寝間着も女物だ。
ネグリジェ風のかわいらしいものを着てて、それもスケスケとかじゃなくて可愛らしい星柄なので少し幼く見える。
そして、優輝は知っている。
可愛い
持って生まれた骨格と性別を除いて、シイナの容姿は全て頑張りの賜物である。
「シイナ、とてもカワイイアル!」
「ふふ、でしょでしょ? このパジャマ、ボクのお気に入りなんだあ」
「どこからどう見ても女の子アルヨ……で、でも」
「うんっ、ボクは男だよ? でも、それって
「……そう、アルネ。ここはそういう国で、とても自由アル! ワタシ、日本がとても気に入りマシタ」
一瞬、リャンホアの声が陰った。
だが、すぐに彼女は無敵の笑顔を取り戻す。
だから優輝も、奇妙な違和感をすぐに忘れてしまった。
そして、すっくと立ち上がった朔也がフフフと
予定では、リビングに布団を敷いて女子が寝て、シイナは朔也と彼の部屋に寝る予定である。見た目は美少女でも、性別的には男なのだから、これは当たり前だ。
そして、本当にシイナは男の子なんだと思い知らされる。
「シイナ氏……今宵、我が居室にて秘蔵の品を用意しましたぞ……グフフフ」
「えっ、なにそれ朔也」
「
「ほっ、ほんとに!? あのプレミアものの、しかも限定版……全年齢対象版?」
「なにを仰っしゃりますか、全年齢版なぞスープと
「それってもうラーメンじゃないよね! 料理ですらない! でも、つまり!」
「我々も四捨五入すればハタチ! さあ、禁断の扉を今こそ……」
「じゃ、じゃあ優輝! みんなも、オヤスミ! ささ、行こ行こっ! 朔也の部屋!」
喜々として、シイナは朔也の背を押しながら行ってしまった。
そう、やっぱりシイナも年頃の男の子なのである。かわいいものが好きで、女装が趣味でも、セクシャリティは男なのだ。
それを優輝は、一番よく知っていた。
自分に恋してくれた、以前までは彼女みたいな彼氏だったのだから。
その姿がバタバタと去ると、思わず苦笑が
「四捨五入すればもうハタチ、かあ……そっか、来年は受験だし、もうそんな年なんだよね」
「おいおいー、優輝ー? なーに
「そうアル! まだまだワタシたち、花も恥じらうジョシコーセー! 命短し恋せよ乙女アル!」
それに、と千咲はニヤニヤといやらしい笑いを浮かべる。
「それに、今夜は寝るまでガールズトークっしょ! リャンホアのこと、もっと知りたいし!」
「おお、こ、ここっ、これが……いわゆる日本のギャルの、あの!」
「ギャルっていうギャルでもないしー? てゆーかー、あーしお嬢様だし!」
「そう、それアル! 古式ゆかしい日本のギャルめかしいやつアルヨ!」
古式ゆかしいもなにも、昔から日本にギャルがいた訳ではない。
でも、リャンホアが嬉しそうだから優輝も立ち上がって布団を敷きにかかる。前から広いマンションに住んでるなと思っていたが、朔也の家には客人用の布団もバッチリ完備されているのだった。
今日は女子で三人、かしましく川の字になって就寝という訳である。
「あ、そいえばさ、千咲」
「んー?」
「リャンホアにはもう教えた? ほら、千咲と朔也のこと」
「おうてばよ! わたしの男に手ぇ出す奴にゃー、かわいいリャンホアといえど馬に蹴られて死んでもらうぜー! なんてな!」
アイヤー、とリャンホアも嬉しそうに笑っている。
二人が恋人同士だということは、
でも、以前は違ったことを……今はまだ優輝は、過去として語れない。
それに、もう少し整理してから教えた方が良さそうだ。
今の優輝には、妙な誤解や勘違いを喜べてしまいそうだから。
「で、千咲は少しは進んだの? 朔也と恋人らしいことした?」
「あー、それな! っていうか、リャンホアも優輝も聞いてよねー」
千咲はわざわざ自分で持ってきた鏡をテーブルに置いて、ポーチから化粧品らしき
顔全体をマッサージするように、お肌の手入れで三人が並ぶ。
熱心な千咲は、鏡を見ながら話を続けた。
「朔也はいつもああいう感じだし、わたしもそゆの気にならないしさ。変にベタベタするの、結構苦手だし、お互い」
「あー、わかるアル! 男の子ゆーもの、割とテンプレ的展開を避けたがるアルヨ」
「いや、そうでも……なくも、ない。そうなのさ、それでさー、わたしこの間聞いてみたんだ」
ほれほれ優輝と、手の止まっていたとこを千咲に急かされる。
見様見真似で、優輝も自分の
そういうとこだぞ、優輝……自分で自分に心のなかで言ってみる。
そんな心境を知ってか知らずか、千咲はまだ恋人との話を続けていた。
「なにかしてほしいことあるー? って聞いたら……あんにゃろーさあ」
「なになに? ま、まさか……」
「してほしいことアルヨ……年頃的男子、絶対にしたいことあるアル!」
だが、その実態は意外なものだった。
「
「あっ、健全アル……ちぇー、普通アルヨ。全年齢版的健全交際アル」
「しかーもっ! わたしが膝枕されて! わたしが耳掃除されるの!」
「アイヤー! 性癖がこじれてるどころか、一周回って心配になってくるアル!」
「でしょー? しかもさあ、あいつ耳掃除上手いでやんの」
「……そういう趣味アルカ?」
「わたしもぉ、恥ずかしく恥ずかしくて。それに、大きいのが取れたとか言われて、もぉさあ」
さして気にもならずに接してきたが、優輝も思わず「むぅ」と唸ってしまった。
でも、つい本音がぽろりと口をついて出る。
「なんかでも、いいな。よかったよ、千咲」
「んー、まあな! 優輝もめげずに、気が向いたら新しい恋でもしなよ」
「うん、考えとく」
「そこはそれ、考えるな! 感じろ! だじぇ! ……それまで側にいるからさ」
「……うん」
悪びれずのろけ話をして、優輝を察しても謝ったりはしない千咲が好きだ。普段は猫を被ってお嬢様な彼女の、ラジカルで明るくしたたかな生き方には憧れてしまう。
それに、とても優しい。
そして、それはリャンホアにも自然と伝わったようだ。
「アイヤ、ごちそうさまアル……優輝、羨ましいネ。千咲、これとてもいい女アルヨ。朋友アル」
「うん、私の大事な親友。リャンホアも、そうなってくれると嬉しいな」
「
また、思いつめたような顔をした。
だが、すぐにリャンホアはいつもの笑顔に戻る。
そして、優輝の想像力も千咲の気遣いも察することができない……大陸から来た少女が、その旨の内に抱えた闇に。それは、光の中で暮らす日本のティーンエイジャーには、暗いとさえ思えぬ世界
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