第16話「オーシャン・バカンス」
貸し切りのコテージで着替えた
ビーチサンダルの上からでも、
そして、目の前に広がるオーシャンビュー。
自然と優輝の仲間達は、白い波を寄せては返す
「おっしゃあ、海だーっ!」
「デュフフフ、千咲氏。まずは準備体操を」
「見て見て、優輝っ! 凄い、海だよ! 海っ!」
「あ、待ってシイナ」
優輝も気付けば笑みが
とりあえず、千咲と朔也が放り出したビーチパラソルや敷物を拾って、適当な場所へ広げておいた。その間も、三人の声が楽しく弾んで優輝を呼ぶ。
荷物の見張りも、ここでは必要がなさそうだ。
高い椅子の上から監視員のお兄さんが笑うので、軽く会釈して優輝も走り出す。
友達との夏は今、最高潮の沸点で優輝の胸を熱く
「優輝氏キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
「優輝、こっちこっち!」
「お待たせ、みんな」
波打ち際に脚を
遠くに昇る入道雲の白さが、優輝の目にとても
「凄い、いい天気……ねえ、千咲。本当に凄いね、ありがとう」
「あー、いいのいいの! 優輝もほら、楽しもうよ! ……こーやってぇ!」
不意に千咲は、シイナへと海水を浴びせた。
突然のことで目を丸くしたシイナも、すぐに笑顔でやりかえす。
その光景に目を細めて、優輝は危うく美少女主人公がしてはいけない表情になるところだった。自然と顔がにやけてしまいそうで、隣の朔也が
自分には似合わぬと知っていても、かわいい女の子の服やアクセサリーが大好きなのだ。そして、目の前には美少女である以上の形容が必要ない二人が遊んでいる。
もっとも、シイナは
きらびやかな二人の水着姿に、ついつい優輝はうっとりしてしまった。
「優輝氏、顔がゆるんでおりますぞ? デュフフフ」
「かわいいよねえ、千咲もシイナも。はぁ、かわいい……」
「これが
「そうかも……」
千咲の水着は、大胆なハイレグのワンピースだ。白の水着はよほど自分の身体に自信がなければ着られないのだが、彼女は完璧に着こなしている。
なにより、彼女の均整がとれたナイスバディが、水着の良さを引き立てていた。
過不足なく上向きで形良い胸。
くびれた腰と、その下への優美な曲線が集うヒップライン。
最高である。
そして、シイナも愛らしい。
空色のビキニはワンショルダーのトップスがチャームポイントで、同じ色のパレオが波間に
だが、朔也はやれやれと溜息で肩を
「しかし、優輝氏……それはいただけないですぞ? デュフフ、優輝氏のそれはいただけんですぞー!」
「そ、そぉ?」
「
競泳用のもので、サイズもピッタリ……そう、ピッタリだからこそ上からパーカーで隠してる。その姿は丈の長さも手伝って、パーカーだけを着ているようにも見えるだろう。
やはりまだ、自信は持てない。
千咲やシイナを見てしまうと、
自然と優輝は、パーカーの前を合わせて両手で握ってしまう。
「ほ、ほら、こぉ……お見せできるものじゃないかなあ、って。あはは、はははは……」
「優輝氏……せっかく夏の海に来ておいて、残念な子にならなくてもいいのですぞ?」
「残念な子、って。じゃあ、朔也のそれは? ……どこで売ってるの、そういう水着」
「
朔也の水着はなんというか、大昔の人達が着ていたツーショルダーの布面積が多いものだ。もっとも、
確か、
シイナも大好きなそのアニメのヒロイン、エウロパが微笑んでいる。
完全に
だが、明るい笑みの朔也を見れば、優輝も嬉しくなる。
痛水着だっていいじゃない、痛々しくないもの、いいじゃない。
しかし、自分の水着を棚に上げて、朔也はデュフフと笑う。
「優輝氏もパーカーをキャストオフ! ですぞぉ……さあ、水着になって泳ぎませう。小生と遠泳対決をしたり、皆でビーチバレーをするのです、グフフフフフフ」
「お、おおう……その、ちょっとやっぱ……ほら、真っ平らだから。ホントにもう、ひたすらに平面だから。やっぱ、気後れしちゃう」
「シイナ氏だってそうでござろう。安心めされよ優輝氏……
「うっ、嬉しくない!」
朔也がからかうようにパーカーの
笑いながら優輝も、慌てて浜の方へと逃げた。
だが、今度は千咲も朔也に味方する。
「こらー、優輝っ! 脱ぐのだ、うははははは! さあ、その青い果実を……それとっ! シイナも! そのパレオを……とーるーのーだーっ!」
「だ、駄目だよ千咲ッ! ボ、ボク、恥ずかしいよ。……その、見苦しいかも?」
「だいじょーぶっ、むしろ優輝にはご
「えっ! ……ホ、ホント?」
こらこら、なんでそこでマジ顔になるんだシイナは。
しかし、シイナは肉体的には男の子、女物の水着を着ていても男なのだ。
そして、パレオの奥に隠れた股間を想像すると、自然と優輝は顔が熱く
シイナは赤面に
優輝はなんだか恥ずかしくて、やっぱりパーカーを脱げない。
ほがらかな紳士の声が響いたのは、そんな時だった。
「お嬢様、よう来ましたなあ! わっはっは、今年はお友達も
「あっ、どもー! みんな、このビーチの管理人さん。うちのオヤジの古い知り合いなんだ。おじさん、今年もお世話になりまっす!」
優輝達も順々に、礼儀正しく挨拶した。
頭に白いものが目立ち始めた壮年の男は、アロハシャツで目を丸くしている。だが、すぐに笑顔になって歓迎してくれた。
「いやあ、しかし驚きましたな……お嬢様。いつもは気取って一人で
「あ、ちょ、待って! おじさん、それ駄目!」
「コテージのテラスで
「ちょ、やめー! おいバカやめろ」
「なんか時々、わたくしは孤独が好きですわ……とか
「……う、うう、それ黒歴史……猫かぶってた時代の黒歴史」
自然と爆笑が広がった。
だが、男は海とコテージでの注意点だけ軽く説明して、再度「お嬢様」と笑いかける。
千咲は今、完全に死んだ魚の目になっていた。
「そうそう、
「ぐぐぐ、何故に二度言う……まあでも、いいかも! シイナ、日本の伝統文化であるスイカ割りをさせてあげよーう! 朔也、ちょいヘルプ」
そそくさと千咲は海からあがって、朔也を手招きする。
妙に目つきがやらしい。
そして、そのにやけた笑顔が朔也にも感染する。
「おお、準備を小生が手伝いますぞ! そうですなあ、小一時間かかりそうですなあ。小一時間!」
「おじさん、スイカ冷えてる? アタシが朔也と取りに行くから」
二人は管理人の男と一緒に行ってしまった。
そして、波打ち際に優輝はシイナと二人で取り残される。
自然とお互いを見詰めると、たゆたう空気を震わせる言葉が出てこない。
それでも、シイナは優輝に寄り添いパーカーの
「ね、ねえ優輝……少し、散歩しよ? ……二人、きりで」
頬を赤らめ潤んだ視線でシイナが見上げてくる。
優輝は思わず、大きく頷くしかできなかった。
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