姫様婚活物語

00 日陰の騎士

 彼の握る剣はどの騎士たちよりも簡素なものだった。特別な意匠を凝らした柄もなく、特別な鉱石で鍛え上げられたものでもない。騎士という地位を誇示する意図の全くない正真正銘、ただの鋼の剣であった。


 あるものは風の精霊の加護を授かり、突風のような素早さを手に入れ、あるものは太陽の精霊の加護を授かり、頑健な肉体を手に入れた。にも関わらず、彼はどの精霊の加護も授かることはなかった。彼はただ一人、平々凡々な人として、剣を握り、騎士に叙任されたのだ。


 彼は皆から愛されたわけでも、尊敬されたわけでもない。酒と肉欲に溺れ、騎士であることを非難されるほど、不出来な人間であった。騎士と言う称号が、彼を堕落させたのだと皆が囁きあった。


 彼は奇襲を得意とし、夜目は人の数倍効いた。彼は好んで後ろから斬りかかり、正面から戦うことを何よりも避けた。彼を外道と罵る者もいたが、彼はそれを気にすることはなかった。


 彼の生まれは特別なものではなかった。沢山いた兄弟の末子。ゆえに領主に売られて農奴としての人生を決定付けられていた。その中で手を差し伸べるものが現れた。彼はその手を取り、暗がりの人生から脱却できたと思っていた。


 彼はその手を取ったことを後悔していない。その手が血に染まろうとも、本当に欲しいものを手に入れることが出来なかったとしても、彼は後悔だけはしていなかった。


 敬愛されるべき人間でなく、誇られるべき人間でもない彼のことを、人は日陰の騎士と呼ぶ。もしくは幸運の騎士と――、ただ騎士王の旅のお供に付いただけで騎士に叙任される幸運を得た男だと。


 それでも彼は何も気にしなかった。酒と、必要であれば女もいる。

 これ以上は望めない。俺に不相応の幸せだと。

 それが日陰の騎士ブロンソンという男である。

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