26.濃霧現在

ひかりの

 激しい

  散乱で

   視界が暗い

  足許がさえ

 定まらず

景色は

 潰れた

  佇っているのが

 確かとしても

霧のなか

 ふらつきを正すのも

  ふらつきだ ふらつきを正す

 のもまたふらつきだから

正すための

 ふらつきをまた正す

  それもやっぱりふらつきだ

 ときに過剰に

  ときに不足する力加減

 常に直立は脅かされ

  一分の油断がたちまち

   転倒に転じる

    目の明いた者が

     視界を奪われてある身体は

    脆いと痛感しその痛感を

   意識しているとその

    意識が気の逸らしとなって

   大きくバランスが崩れ

  現実に

 引き戻される

なんとか踏み

 留まってしかし

  その踏み留まりにしたって

 やっぱりふらつきでないはずもなく

  直立の恒常原理ホメオスタシス

   手動制御を余儀なくされ

  時間は細分化し

 遠くを

  見やる隙

 もなく

意識は

 直近の

  転倒の

   脅威に

    占拠され

   佇って

  いるのが

 確かと

  しても

   かろうじて

  佇っている

 としか

いえない


脱落した時間平原

平時には幾分の前後の広がりをもって現在とは

知覚されていたのらしい

広がりが適合しているかぎり広がりの

内側は想定され終え安定していた

たちまちに来る将来は

現在に属していたのだ

意識下の自律性が平原を支え

もって私たちは思考という余裕が与えられていたと知る


街の灯りはぼけにぼけ

ふやけきった輪郭で

いつも通りのあてにはならない

覚束ない足どりで

歩くがあらゆるものは

極端に遠い 一向近づくようでない

――いや遠いというのはちがう

距離が失われているというべきか

こんなに歩いたのに

一向に近づくようでない

時間平原の想定が壊れつづける

壊れつづけるのは私たち時間平原上の存在

想定は自律的そのため

やめるということもできない

きりのなか

ひかりのさんらん

そうていはうらぎられつづけ

げんざいは

このいまこのしゅんかんに

むかって激しく尖っていく

濃霧現在 光の散乱苛立ち

時間平原は失われ

刹那の針のやまない連続となる

この身体を支えた恒常原理は

針の上で悪手ばかりとり

翻弄される身体のブラウン運動

不規則な振動 やまない運動

霧に揮散していく身体

正体を失いはじめた自己

針様現在のなか何もかもなく針様をあらわ

前後を断ち切られた連続体として

自己もまた極限の現在へと還元していく

未来は暗い

足許さえ覚束ない視界

揺れる風景 でもほんとうに

揺れているのは身体だ

そして戸惑う認識だ

家路を急ぐもつれた足よ

私の家路はどこだと思う

目的なんて

生物エゴがつくりだす産物で

なかったか

私にはわかった気がしている

家路を急ぐもつれた足よ

急がなくてももう還元かえっているのだ

家はここに完成している

急ぐ用は終わったのだ

鎮まれ恒常原理

濃霧現在へ

崩壊くずれよ身体

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