17.雨上がりの夜

アスファルトの表面を雨が濡らした

人気ない通りの街灯は縮緬模様に飾られ

ときおり吹いた風に並べられた鉢植えの

緑は震えた

揺れる不定形の道路が編み合わされた路地で

人知れず支度される夕飯が鼻にあそぶ


肩寄せた住宅の屋根の上に

黒く巨大な影が立ち上がっている

直線で形作られた四角い影の

その角に赤い光が明滅を繰り返す

ただ自己の存在を明かすっきりで

生活を照らすことはない赤光の下で

今日の店じまいをはじめる畳の店


ここから見るとあの影はゴヤの巨人にも似て

立ち威圧を与えてくる ただ

それはまぼろしのようにも感じられる

薄暗く家の窓々を漏れる弱光にはしかし

はるかの赤光よりぬくもりと親しみを覚える

大通りの喧騒からほんの

一歩踏み入ったのに過ぎないのに

街はまったく違った表情をする

路上をぴしゃぴしゃ叩いた

余韻の雨粒が庇に並び

月の射さない闇を映した路上の溜まりへ

身を投げては跳ねて震わし


風に掃き集められた落ち葉が

重たく濡れて黒ずんでいるのが側溝に見える

誰の気に止められることもないうちに清掃されて

また元通りの朝を誰も出掛けていくだろう

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