09.空液層

わたくしどもがせわしく

せわしく走行している

地表と少しばかりの中空

きょうはあんまりその白の

眩しい高層マンションも

わたくしどもを見下ろすが

国際航空機影が南西に向かったのを知っているまい


山間の勾配9%道路半ばのコンビニで

ロードマップのページを開いたまま

かすかに遮光して暗い窓外の深く青い空を見る

ときどき勾配の向こうから車がぬっと出てくる

舗装路を挟んだ対岸には山の緑が

キラキラした緑が人工の瀬戸際まで届きかけている

涎のように延び広がっている

その奥に落ち窪んだ廃屋がある

セーフティフェンスに絡みついて

飛沫のようにのぼる蔦


はるかの海洋では

きょうも出港した船が

幾隻も幾隻も潮のうえをのっている

水深2,000メートルの表面を

ゆるゆると進む


綿菓子のような積雲の

ゆるい集団が空液層のうえをのっている

上空2,000メートルの表面を

ゆるゆると進む

明確な影を山におとし

傾斜をしずかにのぼっていく

実体は上空2,000メートル

手の届きそうな遥かの上空

空液層の表面からおちる影

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