06.とんび

握られた糸は空へと延びる

目ではもう捉えられない

天球に凧が羽をひろげている

握られた糸にかかる揚力

手を繰ると天球面を凧はすべる

手にかかる揚力

ひろげた羽を上空の風が叩いて

吹き抜けていく音が聞こえる

風のない地上1.7mから

弓なりにしなって空の青に消えていく

糸を繰ってもっと

もっと高みへ

昇っていけ

どこまでも どこまでも 高く 高く

遠く 遠く 手のなかで 遠く 遠く

そこからの眺めを教えろ


  とべとべ とんび

  空高く

  なけなけ とんび

  青空に


  ぴーん よろ ぴーん よろ

  ぴーん よろ ぴーん よろ


  楽し気に輪を描いて


糸は突然に切れて

ちからの空白を踏みこらえて

青い球面をなぞって

山の向こうへと流されていく影を目で追う

土の上に垂れ下がった糸を握ったまま

ほんとうに遠くなる凧を目で追う

ほんとうに ぐんぐん遠くなる

僕のものでなくなっていく


  とぶとぶ とんび

  空高く

  なくなく とんび

  青空に

 

  ぴーん よろ ぴーん よろ

  ぴーん よろ ぴーん よろ


  楽し気に輪を描いて


憶えている

私を忘れて滑っていった 凧のことを



  ※字下げの詩は童謡「とんび」葛原しげる作詞より

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