第25話 二分の一成人式⑧

 当日、式が終わった頃を見計らって、七海はカバンを持って保健室の外に出た。4年生のお母さんが下足箱のところで、口々に、『よかったわねぇ』とか、『感動したねぇ』とか言っていた。中には、未だ興奮冷めやらぬ感じで、涙で化粧がくずれた目元をハンカチで隠しているお母さんもいた。


「いいなあ……」


 七海は歩きながら考えていた。あの保護者向けの子供に対する手紙の書き方を見る限り、たいていの子供は、生まれたときはたいそう喜ばれ、つけられた名前も考え抜かれた素晴らしい意味をもったものなのだろうし、小さい時の思い出には素敵な出来事がたくさんあるのだろうし、病気をしたときにはさぞかし心配されたのだろうし、おじいちゃんおばあちゃんにはたくさん可愛がられたのだろうし、それから……


 もう何度目だろう、このような考えで頭がいっぱいになるのは。七海はここまで考えて、悲しくなったので、頭を振って考えるのをやめようとした。しかし今度は、なぜ私だけがこんな境遇なのかという、いつものやりきれない感情が襲ってきた……


 七海は右手を挙げ、人差し指だけをピンと伸ばし、天に向かってつぶやいた。


「神様って…… いるの?」

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