第8話 砦
七海は鈴木先生のことが大好きだった。前の保健室の先生は、用事がなければ教室に戻るように言う先生だったが、鈴木先生は無理に教室に行かそうとは決してしなかった。
ほとんど毎日遅刻せざるをえない七海にとって、中途半端な時間に学校に着いた時や、体調がすぐれない時は、いつも保健室に直行していた。
鈴木先生は七海の家庭環境について、そして七海がどれだけしんどい状況にあるかを、じっくりと何回か聞いてくれたので、七海は先生に完全に心を開いていた。七海の相談相手であり、よき理解者だった。決して七海を否定することはないし、叱ることもしなかった。他の保健室に来る子にもまた同様であった。
七海は5年生になって、保健室の先生が鈴木先生になって本当によかったと心から思っていた。今思えば、4年生のときは本当に辛かった。
「先生~ 鈴木先生、おはようございます」
「あら七海さん、今日は早いのね」
「うん、昨日は少し早く寝ることができたから」
「お母さん、帰ってこなかったの?」
「うん」
「じゃあ少しは勉強できたんじゃない?」
「うん、漢字も算数のドリルも全部できたんだ~」
「えらいわね~、あそうそう、もやしを使ったレシピ教えてって言ってたわよね?」
鈴木先生はパソコンに料理のレシピサイトを開いてくれた。
「七海さん、まずは基本的なもやし炒めから覚えなさい。卵とかツナはその後ね……あ、これがいいんじゃない? メモしていきなさい」
七海はノートを取り出して、すぐにメモを取った。
「え~っと、もやし、ごま油、塩コショウ、これだけね……炒めすぎないようにシャキシャキ感を残す、うんこれならできそう」
「七海さん、次にお金がもらえたときは、調味料を買いなさい。調味料があれば、いろいろと便利だから」
「うん分かった。ありがとう先生」
ちょうどそのとき、2時間目の終わりのチャイムが鳴った。
「先生、今日はこの休み時間から教室に行ってみるね」
「えらいえらい、頑張ってね」
七海の今日の足取りは軽かった。
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