24話 剣と魔法の世界にスマホなんてあるわけない

 ごまだれ~♪

 ヘータローはスマートフォンを手に入れた!


 え、これマジで?この世界、スマホなんてあんの?



 朝食の時間になって姿を見せたアルナが、俺に手のひらサイズの薄い長方形の物体を手渡してきた。

 あまりに見慣れすぎたそれを見て、俺は目を見開いた。


「え、これ……スマホ?」


 そう、アルナが持ってきたものは携帯電話、まごうことなきスマートフォンだった。

 この世界ってこんな高度な科学文明あんの?中世レベルの建造物に街以外の大半は大自然と魔物のはびこる魔法と冒険のファンタジー世界じゃないの?魔法が発展したが故に科学技術がお粗末くんじゃないの?

 慣れた手つきでホームボタンを押す。すると俺の知識にあるスマホの通り、画面が明かりを発する。そこにでかでかと映し出されたのは悩ましげな上目遣いのアルナのドアップだった。

 画面と本人を見比べる。アルナは俺はその動作を見て照れるような仕草を見せる。本人の仕業か。


 画面にはメッセージアイコンに電話アイコン、その他にもいくつかデザインだけでは機能が連想できないアイコンが並んでいた。やっぱり俺の知るまんまのスマートフォンだ。

 あ、電波立ってない。そうだよね、サンカラって森のど真ん中だもんね。


「持っておくの、絶対無くしちゃダメなの」

「なぁこれ、スマホだよな」

「スマホ?ヘータローの国ではそう呼んでたの?それはスマボ、スマートボードなの」


 そういってアルナは道具袋の中から同じものを取り出して見せる。

 スマートボード、略してスマボか。


「昼前には村を出るから、そのつもりでいて欲しいの」

「うん、わかった」


 それなら村を出る前にミケに会っておくか。それにナクタにも挨拶しとかないとな。

 と、アルナが食事の手を止めてこちらをじっと睨んでいるのに気づいた。


「どした?」

「今、メス猫の事考えてたの」

「あ、あぁ…まぁ」


 鋭い。感も、俺を睨む目も、そこから派生して現れる刃物を連想させるかのように鋭い。


「村を出る前にミケとナクタに挨拶しとかないとなと思って。一緒に行くか?」


 ナクタの名前も出すのがポイント、そして一緒に行くかと誘うのがポイント。平静を装ってやましい事はなにも考えてませんよという事を十分にアピールする……いや、ほんとにやましい事は何もないんだけど。その辺フォローしとかないと体に穴が開く、冗談抜きで。




 ミケに会いに行くと丁度ナクタが治療を行っているとこだった。

 ミケの体の周囲を妖精達が飛んでいる。

 妖精は10センチにも満たず、ぼんやりとした輪郭で儚く浮かび上がっているが、人の姿をしていることは見てとれた。

 それはさながら、ティンカーベルという言葉がぴったりだ。

 やはり腕の傷がひどいのか、妖精たちはそこに多く集まっている。

 うちの1人が俺に寄ってくる。それは俺の腹に触れ、そして首を傾げて怪訝な面持ちを見せる。


「やはり何故だか、君の傷は癒せないようですね」

「あ、ヘータロー。それにアルナも、おはよーッス」


 2人が声を掛ける。俺は「おう」と軽く一言返す。アルナは何も言わない。


「朝のうちに村出てくから、挨拶しとこうと思って」

「え!ヘータローもういっちゃうんスか!」

「こら、じっとしなさい。精霊たちが驚いていますよ」

「あ、申し訳ッス」


 身を乗り出したミケを咎めるナクタ。

 妖精たちが天井近くまで舞い上がる。てか妖精じゃなくて精霊だったか、妖精見たことないから違いわかんないけど。


「そっスか、もういっちゃうんスね。ヘータロー達って普段どのへんで活動してるんスか?」


 と聞かれましても、俺はさっぱりわからない。なんせ異世界生活3日目、フューゲルの街と、ここサンカラの村しか知らないし。

 実はアルナは普段は魔界の奥地で魔王の封印を守ってます、なんてとんでも設定じゃなければいいけど。

 自然と目がアルナのに向く。それを追うようにミケもアルナに顔を向けた。

 催促されるような圧力を不快に感じたのか、アルナは一瞬苦い表情を見せるが、それでも口を開こうとはしない。

 何でか知らんけどアルナってミケに冷たいよね。村に来て初日は同じ部屋で過ごしてるはずだから、俺の知らない所で何かあったんだろうか。

 まぁ女の仲に男が入るってのはよくない。きっと碌なことにならない。その辺触れないでおこう。


「にゃはは、自分嫌われてるんスかね。自分はアルナに感謝してるし、もっと仲良くしたいんスけどね」

「あぁそうだ!」


 俺はこの気まずい雰囲気を打破するためにわざとらしく声をあげた。

 いや、苦し紛れじゃなくて一応ちゃんと要件はあるんだ。

 俺はポケットから回収していたものをミケとナクタの前に差し出した。


「これ、渡すというか、返しておこうと思って」

「なんスか、この木くず。ゴミっすか?」

「これはっ!!!」


 急にあげられたナクタの大声に全員が驚いて体を跳ねさせた。俺はその弾みで人形を落としてしまった。

 床に落ちた木彫りの人形は砕け、その身を2つに分かつ。


「あああああああ!御神体が!」


 これまでずっと冷静な態度を崩さなかったナクタが初めて取り乱した。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る