11話 猟奇的な彼女

 突如飛来した何かは俺の目の前に墜落し、その勢いで飛びかかってきていたゴブリン達を一掃した。

 土煙が収まると、そこには無残に吹き飛んだゴブリン達の屍。そして一本の棒が地面に刺さっていた。

 地面に突き立った先端には鋭い槍のような刃と、側面に小ぶりな斧状の刃がついていた。

 遅れてもうひとつ、何かがこちらに飛んできた。

 それも地面に勢い良く落下したが、槍のように地面に突き刺さることはなく、しっかりと着地を決めた。

 揺れる薄桃色の髪、白を基調とした清楚なローブ、そこに立っていたのはアルナだった。


「アルナ!助かった!」


 ということはゴブリンの群れを一撃で葬ったこの槍はアルナの攻撃ということか。オレ1人ではミケを守りながらゴブリンと戦うことは無理だった。本当にいいタイミングで来てくれた。

 アルナは無言でこっちをじっと見ている。

 しかしなにか、雰囲気がこれまでと違う。今まで見せてきたあどけなさのある温和な顔つきとは打って変わり、無表情で光の篭らない目をこちらに向けている。

 その視線の冷たさに、目を合わせた瞬間背筋が凍るような悪寒が走った。


「………」

「アルナ?」

「それ、誰?」


 淡々した口調でアルナが訪ねてきた。

 アルナのいった『それ』とは俺の後ろで寝転んでいるミケの事を指しているみたいだ。


「あぁこの子はミケっていって、どっかの村の長だそうだ。ゴブリンに襲われてる時に俺を召喚したんだけど、俺じゃどうにもなんなくて、アルナが来てくれて助か――」


 俺が話し終わるよりも早く、アルナは腰の短剣を抜きながらミケに向かって踏み込んだ。

 飛び込んだアルナは躊躇の欠片もなく両手で握った短剣をミケに振り下ろす。

 ミケは咄嗟に後ろに転がりギリギリでそれを躱す。


「おまえ何やってんだ!」

「召喚?これがヘータローを召喚したの?」

「ななな、なんなんスかこの子!今、絶対本気だったッスよ!」


 短剣を地面から抜いて揺らりと立ち上がったアルナは、未だ尻を地面についたまま震えているミケを感情の宿らない目で見下している。


「これが、あたしのヘータローを奪ったの」

「奪った?なんの事ッスか!ヘータロー。なんなんスかこの子。頭イッちゃってる系っすか!?」

「おいアルナやめろ!どうしたんだよ!」

「ヘータローは誰にも渡さないの」


 アルナは再びその刃をミケに向ける。

 俺はその間に割って入り、その身を盾にアルナの短剣を体で受け、彼女の両肩を掴んで止める。


「アルナ、ちょっと落ち着け」

「あれ…ヘータロー、どうして……」

「ツッコミを受けるのは相方の仕事だからな。俺は自分の相棒が人殺しなんて嫌だぞ」

「相方、相棒?」

「そうだろ、俺達はコンビだろ」

「コンビ………人生の、パートナー。やだもうヘータロー、急に何言うのよ~」


 目に光を戻したアルナが短剣から手を離し、紅潮する顔を抑えつつ俺の身体を思いっきり叩いた。

 どうしたんだ?急に襲いかかったり身悶えたり、アルナはよくわからん。けどまぁひとまずこの場が収まったのならそれでいいか。

 一件落着、そんな事を思っている俺にミケは震えた声を投げかけた。


「ヘータロー……それ」

「ん?どした?」


 ミケは青ざめた顔をして俺を指差している。いや、俺の腹だな。

 確認すると、俺の腹から短剣がにょっきり生えていた。

 なんだこれ?どうなってんだ?

 そう思って短剣と腹の境目に触れてみると、指が赤黒く染まる。


「ははっ……なにこれ」


 あぁこれ生えてるんじゃない、刺さってんのか。

 理解が追いつくと、一気に血の気が引いて意識が遠のいた。

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