4話 M-1

 ゴスロリ幼女はゆっくりと下降し、アルナとミルの元へと降り立った。少女というより幼女と言った方が正しいだろうか。身長はアルナより低く、俺やミルの腰の高さ程しかない。


「アリア、あんたどういうつもり」

「なにを怒っているのかしら」

「なにをもこうもないわよ。アルナのこと私にけしかけたんでしょ」

「えぇ、それがなにか?」

「それがなにか、じゃないわよ。危ないでしょ。てか実際危なかったんだから」

「あなたがこの辺りにいると知ったものだから、少し戯れようと思って」

「戯れで人1人死んだらたまったもんじゃないわよ」

「その時はその時よ」

「あんたとは話が合わないな」

「奇遇ね。同じことを考えていたわ。気は合うようね」

「なに?喧嘩売ってんの?あんたとお戯れの続きしてもいいのよ」

「相手をしてあげてもいいのだけれど、今日は先約がいるの」


 そう言ってゴスロリがこちらに振り向く。

 その顔を見た瞬間、俺は吹き出してしまった。

 しょうがないだろ。だってそのゴスロリ、おもしろアイマスクしてんだもん。

 シックなワインレッドを基調に白のフリルをあしらったクラシカルなロリータファッション。金髪は見事なドリルを描き、真っ黒な日傘を差した正統派ロリータ幼女。それが振り向くと恥ずかしげもなくゴ◯ゴ13みたいな目と眉のついたアイマスクしてるんだぞ。誰だって笑うだろ。てか狙ってるだろ。つーかそれ、目は見えているのか?


「あなた、こっちに来なさい」

「いや、行きたいのは山々なんだけど。行ける格好じゃないというか…」


 なんとか笑いをこらえつつ、顔だけを折れた木から出した状態のままそう返した。


「構わないわ、来なさい」


 凄んだ様に言わないでくれ、目がずっと凄んでるから。


「いや…だからその……全裸なんだ」

「知ってるわ」

「知ってんのかよ!じゃあわかんだろ!行けねえよ!」

「そう、滑稽で愉快だと思ったのだけれど」


 ロリ少女がこちらへ手をかざすと俺の目の前に魔法陣が生まれ、そこから黒いマントが1枚出てきた。


「使いなさい、差しあげるわ」

「お…おう、…ありがとう」


 揶揄する態度から一変、急な優しさを見せられてちょっと戸惑う。


「気にしなくていいわ。それは先週亡くなった執事の物で、娘に形見として渡して欲しいと頼まれていたものなのだけれど。気にしなくていいわ」

「気にするわ!」

「嘘よ、いいから早くそれを羽織って出てきなさい」

「嘘かよ!」


 マントは首元にボタンがひとつ。裾は膝までの長さがあり、すっぽりと全身を隠すことができた。マントといえばマントだが、どちらかというとポンチョといった感じだ。少し揺れるだけで肌がチラリズム、風に吹かれるとえらいこっちゃ。

 全裸にポンチョ1枚。足も裸足のまま。これ、下が全裸なのモロバレじゃね?大丈夫?変態度は変わってなくないか?

 まぁ文句ばかりいってもしかたない。全裸よりはマシになったと自分に言い聞かせて俺は3人の前に姿を見せる。

 3人は裸マントの俺の姿をマジマジと凝視する。これなんて羞恥プレイ?


「で、誰これ」


 最初に口を開いたのはミルだった。

 さて、なんて答えたものか。とりあえず自己紹介?

 そんな事を考えていると、アルナが俺の横に立つ。


「この人はね。あたしの召喚獣なの!」


 アルナが自信満々に答える。


「根拠は?」

「根拠?」

「貴方、生き物なんて召喚できないでしょう」

「それはそうだけど、でもあたしが呼び出したの」

「けれども、その瞬間を貴方は見ていないのでしょう」

「それはっ……そうだけど」


 アルナは口が立たずに伏し目になる。

 俺がこの世界に来た時、その場にはアルナしかいなかった。だからアルナが俺を呼び出したと言えば俺も信じる。

 しかし確かに俺が召喚された時、アルナは何故か気を失っていたから、理由はよくわからないけど何故か気を失って倒れていたから俺を召喚したという確証がなかったとしてもおかしな話じゃない。


「そうよね。だって貴方、誤ってその男を自分の背後に呼び出したばっかりに、轢かれて気を失ってしまったのだもの。状況証拠で話しているだけで、自分が何を呼び出したかなんて確認できていなかったものね」

「先生なんで知ってるの!」

「見てたもの」

「見てたんかい!!」


 アリアの答えに思わずツッコんだ。


「ってことは、やっぱりこの人はあたしの召喚獣ってことで間違いないの!」


 アルナが嬉しそうに言う。

 嬉しいのだろうか、こんな全裸の男なんか捕まえて。


「これでM-1に出ることができるの」


 えむ……わん?

 その言葉が耳に入った瞬間、気持ちの高ぶりが身体の内側から一気に跳ねるのを感じた。


「おい……いま、M-1って言ったか?」

「え?うん、言ったよ」

「この世界にも…M-1があるんだな」

「あるよ。あたし、M-1に出たいの。その為にあなたの力を貸してほしいの」

「そうか………わかった。出よう、M-1」


 迷うことはない。すべてのピースが繋がった。俺がこの世界に召喚された理由。

 M-1に出たい彼女の元に、お笑い芸人である俺が召喚された。そういう運命の元に2人が出会った。いずれ歴史に名を残すコンビが今ここに誕生したのだった。『芸人が現代のお笑いネタで異世界で無双するようです』がここに幕を開ける!。


「俺はヘータローだ。よろしく」

「アルナなの。よろしく」


 2人は固い握手を交わした。

 さぁ行こう、伝説のロードを。ここから俺たちのお笑いレジェンドが始まるのだ。



「残念だけど、あなたはM-1には出れないわ」


 意気投合する俺とアルナの仲を割くように、アリアは言い放った。

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