3話 ドラゴン少女とゴスロリ幼女

「おいっ!逃げるぞ!」


 巨大なドラゴンの咆哮にすくむ足をなんとか踏ん張らせて少女を急かす。

 しかし少女は一切怯える様子も見せずドラゴンに対峙する。


「ばっか、何やってんだ!」

「いいの。これ探しにきたの」

「はぁ?!」

「恐いんなら下がってていいよ」

「恐いんならって……恐いに決まってんだろ!」


 とは言っても、女の子ひとり置いて逃げられんだろ。

 とにかくすぐにこの子を連れてこの場を離れないと。

 俺は女の子の手を掴んで強引に引っ張った。だけど女の子はその場に踏み留まろうとする。


「ちょっと、離してよ~。あれはあたしが倒さなきゃなの。逃げるなら1人で逃げてよ~」

「ばっか言うな…お前も逃げるんだよ」


 双方、均衡した引っ張り合いをしながら言い合う。

 あれを倒す?バカ言うな、こんな女の子があんなデカブツに勝てるわけないだろ。一瞬でおやつにされちまうぞ。

 そんな不毛な争いを続けているさなか、周囲がどんどん明るくなっていることに気付いて2人してドラゴンの方を見た。

 大きく開かれたドラゴンの口の中に光の球ができており、それがどんどん大きくなっている。


「なんだありゃ!」

「うわぁ…ちょいヤバかも?」


 俺たちが一言遺言を残すだけの猶予の後、発射された強烈な光線が2人を飲み込んだ。

 光線はドラゴンの口元から放射状に伸び、数キロに渡って森を覆い尽くす。

 光線は数秒間放射され、辺り一帯の景色を蹂躙した。

 その脅威が収まった後、光線の通過した後には数キロに渡って草一つ残っていなかった。一箇所だけを除いて。

 そこは俺と少女がいた場所だ。

 咄嗟とはいえ自分のとった行動に自身でも驚いている。

 俺は少女を庇ってドラゴンに背を向け、その身を盾にしていた。

 耐えれるなんて確信は全く無かった。だけど体が動いていた。

 自分の腕の中を確認する。大丈夫だ、少女にケガはなさそうだ。


「大丈夫か?」


 声をかけると少女は少し呆けたような顔をしていたが、はっと我を思い出したように、そそくさと俺から離れた。


「う、うん。ありがと」


 顔が少し赤いようだが大丈夫だろうか。まぁ成り行きとはいえ全裸の男に抱きしめられたんだ。血圧が上がらないわけがない。ショックで顔面蒼白になられてないだけマシだと思おう。

 それより今はこの場をどうするかだ。


 今ので確信を得た。今の俺の体は完全無敵だ。けどだからといってこの場を切り抜けられるかと言えばそれは別だ。ゴブリンを数メートル吹っ飛ばせたあたり、腕力も多少は上がってるんだとは思うけど、竜の巨躯と対峙すると考えたらたかが知れてる。いくら体が傷つかなかろうとも丸呑みにでもされたら実質詰みだろう。

 せめて俺一人が囮になるか?

 たとえ喰われたとしても体が消化されずにもってくれるのなら無事に排泄されるのではなかろうか。

 ……あぁうん、この作戦嫌だな。うんこだけに。言ってる場合じゃないな。


「さて、それじゃあ改めてやりますかね」


 少女は再びドラゴンと向き合う。

 いやだから待てと。


「おいまだやる気なのかよ!」

「当然。これやんないと先生に怒られちゃうから」

「またさっきみたいなのがきたらどうするんだよ!」

「その時は…またあなたが守ってくれると嬉しいな。それじゃあいっくよ~っ!」


 少女は勢いよく片手を地面につくとその周囲が輝き出す。そして力強く顔をあげてドラゴンを睨みつける。


「びるグヘッ」


 彼女が何かをしようとするよりもずっと早く、ドラゴンの顔が少女へと突っ込み、そのまま鼻先で少女を吹き飛ばした。

 彼女は先程の光線で平地となった地面を勢い良く転がり、やがて停止。すぐには起き上がる気配を見せない。

 ドラゴンは一足飛びで倒れた彼女の元まで跳躍した。巨躯のわりにアグレッシブに動きやがる。着地と同時に大地が揺れる。

 倒れた彼女へ顔を近づけるドラゴン。だけど何を思ってか、攻撃をする様子を見せずに彼女を凝視している。首を傾げるように彼女を観察し、そのうち匂いを嗅ぎ始めた。

 巨大な鼻が彼女の体を徘徊する。倒れて動かない少女はされるがままだ。

 満足したのか、ドラゴンの顔が少女から離れる。

 すると、再びの天への咆哮とともにドラゴンの全身が光に包まれる。巨大なシルエットは徐々に形を変えて2mくらいの棒状になる。

 光が収まると、そこには女性が立っていた。


「アルナじゃない!どしたのこんなとこで」


 嬉しそうな声をあげた女性は倒れている少女の肩を掴んで上半身を起こすと喜びを表すように思いっきり揺らした。未だに少女の意識は戻っていないようで首の揺れ具合がやばい。

 腰まで伸びた黒髪、タンクトップにホットパンツ。背は170くらいだろうか。ハツラツとした雰囲気の女の子だ。胸も実にハツラツとしている。


「うぇ…?」


 あ、少女が目を覚ました。


「あ、ミルだ!なんでミルこんなとこいるの~?」

「やーんもうひさしぶりーー!」


 ミルと呼ばれた女性は少女に抱きついた。少女の名前はアルナでいいのかな。

 さっきのドラゴンの正体がミルだという事でいいのだろうか?


「それで、こんなところで何してるの?」

「先生に言われたの、このあたりにいるドラゴンを退治してこいって」

「それで私とも知らずに」

「ごめんなさい」

「まったく何考えてんのかしらあの子は。ケガしてないみたいだからよかったけど、ドラゴン相手なんて危ないじゃない。寝ぼけて本気のブレス撃っちゃったわよ。で、そっちの変態さんは?」


 話が俺の方へ向く。

 俺はというと、先程のブレスからアルナと共に唯一1本だけ守りきった木…といっても残ってるのは根本から1.5メートルほどまででそこから上は消し飛んでるんだけど、その木の影に身を隠しながら、少し離れた2人の話を伺っていた。

 隠れているわけじゃない、隠しているだけだ。いいかげん服が欲しい、切に。


「やれやれ、情けないわね」


 空から声がして全員が見上げると、全身をゴスロリで固めた少女が宙に浮いていた。


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