第十四話
4月10日 AM6:30
『ジリリリリッ』
『同室3室確認。ミッションを発令します。モニターをご覧下さい』
『瀬古大輝、木部あいは次の朝食に出るパンを2人で完食しろ。制限時間は次の移動ターン開始まで』
『香坂元気、鈴木美紀はそれぞれ、プレイ中の全プレイヤーの中から紙に1人の名前を書け。書けたらそれを同時にカメラに映せ。名前が同一人物の場合、書かれたプレイヤーを強制脱落とする。香坂、鈴木両名はカメラに映す前に書いた名前を相手に教えてはならない。ヒントを与えることも禁止とする。制限時間は次の移動ターン開始まで』
『波多野郁斗、太田真子はセックスをしろ。制限時間は次の移動ターン開始まで』
「くっ……」
俺はテロップを見て奥歯を噛んだ。そして確信した。大輝の言ったとおり室内の会話はキキに筒抜けだ。真子が初体験を大事だと言った時の会話を聞かれた。それをあざ笑うかのようにこのミッションをぶつけてきた。完全に俺たちの気持ちはキキに弄ばれている。
「あぁ、やっぱりきちゃったかぁ。この手のミッション」
真子が無理に明るく言った。真子の笑顔は強張っている。俺は真子をきつく抱きしめた。そして頭を撫でた。
「大丈夫。時間はあるから。ゆっくり気持ちを整理してから。な?」
「うん。いっくん、よろしくね」
真子は俺の胸に深く顔を埋め、俺の背中に腕を回した。
そして問題は元気と鈴木のミッションだ。誰かが死ぬ可能性がある。下手に名前を書けば恨みを買う。そうすると強制脱落者を出さなかったとしても、今後他人のミッションで自分の身に危険が及ぶ。更に口裏合わせは教えるのと同義だ。
しかし2人は気づいているだろうか。このミッションには抜け道がある。それぞれには絶対に名前を書かないであろう人物がいる。そしてその人物からは憎まれることもない。だから気づいてほしい。元気と鈴木には。
木部はまた大輝とミッションか。一緒に行動をすることにしたのかもしれない。一度自分が津本に狙われていたことを知って、恐怖から大輝と一緒にいるのだろう。大輝も津本に狙われたプレイヤーだ。同じ境遇の人間といることで安心を得ているのだろう。
俺は真子の様子を窺いながら過ごしていた。すると警報音が鳴った。
『ジリリリリッ』
『脱落者確認』
また死人が出た。くそっ。もう津本はいないのに。
モニターを見るとマットの上でうつ伏せに倒れている女子生徒が映った。口から血を流している。
『新渡戸聖羅リタイア』
リタイア……。自ら命を絶ったのか? 毒物などはさすがに持っていないだろう。状況からするに舌を噛み切ったのか。女子の制服はリボンだから首を吊るものもなかったのだ。
「ぐすんっ。聖羅ちゃん。なんで……」
隣で真子が泣き出した。
「なんでこんなゲーム。なんでこんなにたくさん人が死ななきゃいけないのよ。由佳も、ひかりも、怜奈ちゃんも。男の子もたくさん」
もう10人が死んだ。たったの4日間で。32人いたクラスメイトはあと22人だ。俺は真子の肩を抱き寄せ摩り続けた。
AM7:00
朝食が届いた。クリームパンとヨーグルトとパック牛乳か。
「いっくん、あれ」
床下から食事のトレーを取り出していると真子が言った。視線の先には大輝と木部の部屋のモニターがある。俺はその映像を見て愕然とした。
1人分のトレーにクリームパンが5袋も乗っていたのだ。2人合計10袋。ミッションを課せられた2人はこれを午後2時までに完食しなくてはいけない。
朝から2人の死を見て、俺と真子ですらも食欲がないこの状況。女子の木部に完食できるのか? 大輝がいくらか負担するだろうし、2人とも昼食は抜くだろう。そして午後2時までに回数を分けて食べるのだろうが、過酷なミッションだ。
元気と鈴木の部屋のモニターを見てみると2人とも朝食をマットの上に置いていた。映像があるのでまだミッションはクリアしていないことになる。
俺は隣の部屋にいるその鈴木から書き写させてもらったB1フロアの初期配置を見た。
『7.橋本陽平、8.佐藤義彦、9.菊川未来、12.野沢美咲、14.新渡戸聖羅、17.鈴木美紀、18.村井拓也、19.鈴村俊』
「真子、B3フロアの初期配置って確認した?」
「うん。志保ちゃんと一緒に回った時にスタート部屋の扉に貼ってあったから」
俺は真子からB3フロアの初期配置を書き写したノートを受け取った。
『7.高橋卓也、8.津本隆弘、9.佐々木涼子、12.太田真子、14.前田志保、17.木部あい、18.井上明人、19.香坂元気』
真子が津本と同じ偶数だったことに背筋が凍る。本当に出会わなくて良かった。いや、むしろB2フロアに呼び寄せておいて良かったと言うべきか。しかし、そこで2人の犠牲者を出してしまったのだが。いや、やめよう。これはもう考えてもどうしようもない。
「何かわかったの?」
「何もわからん」
「んだよ、ちっ」
「え、舌打ちした?」
「してない」
やれやれだ。とは言え、真子は一度空気が重くなっても、こうして冗談を飛ばしたりなどしてすぐに修復しようとする。俺が好きな真子の一面である。
AM9:05
しばらく無言だった室内の空気を真子が裂いた。
「いっくん」
「どうした?」
「ミッションしようか?」
俺に緊張が走った。
「気持ち整理できたのか?」
「うん。それに今ならまだ3面モニターが点いてるから見る人の視線も分散されるし。それにどちらかと言うと皆、美紀ちゃんと香坂君が書く名前が気になってるんじゃないかと思って」
「そっか、そうだな」
「いっくんに全部任せてもいい?」
「うん。頑張るから真子は受け身でいいよ」
「ありがとう。よろしくね」
真子は優しく微笑んで言った。
俺は真子をマットに寝かせた。2人ともブレザーだけは脱いだ。俺は真子に覆いかぶさり自分の腰に毛布を掛けた。
「服着たままでするな」
「うん。ありがとう」
俺は真子のスカートに手を入れ、真子の下着を下ろした。そして自分のズボンを下ろしたところで真子が口を開いた。
「いっくん、キスして」
「真子……」
「できればたくさん」
俺は真子のリクエストに応えた。2人で時間を掛けて唇と舌を絡めた。ネットで得た知識を頭の中でフル稼働させる。更に時間を掛けて真子に潤いを与え、そしてその時が来た。
真子はずっと痛みで顔を歪めていた。けど「大丈夫」と言うばかりで絶対に弱音を吐かなかった。俺は少しずつ真子の中に進んでいき、とうとう奥までたどり着いた。真子は出血もしていて本当によく頑張ってくれていたと思う。
「真子、全部入ったよ」
「うん。初めてがいっくんで嬉しい」
真子は顔を歪ませながらも安堵の表情を見せた。その時俺たちの部屋のモニターが暗転した。それを確認すると俺は真子から離れた。その瞬間出てしまったのだが。避妊具なんて持っているわけがないし、もう少しで暴発だった。男にとっての初体験なんてこんなものだ。
腕の端末を確認すると『ミッションクリア』と表示されていた。ゲームマスターはモニター確認をしているのだろうが、何をもってしてミッションの完了を判断しているのだろう。今回の場合は行為の最中の2人の会話だろうか。
俺と真子は身の回りを整えるとモニターを見た。すると大輝の部屋のパンが残り1つになっていた。しかもその最後の1つを大輝が食べ始めている。時間はまだ午前10時前だ。
「早っ」
「もしかしてトイレ我慢してるんじゃないかな?」
「え?」
「あの二人、昨日の夜ずっとモニターで部屋の中オープンにされてたでしょ? 移動ターン開始後の30分だけ暗転したとは言え、時間いっぱい使ったらまた7時間半オープンにされちゃうから」
確かに。それは女子である木部には残酷なことだ。それを気遣って大輝が頑張っているのか。
やがて大輝が最後のパンを食べ終わるとモニターが暗転した。残るは隣の部屋。元気と鈴木のミッションか。
その2人はと言うと、互いに背中を向けマットに座り何やら筆記をしている。状況からミッションに取り掛かったのだとわかる。緊張が走る。この映像を見ているプレイヤー達は皆そうだろう。
やがて2人は紙を片手に立ち上がった。そして並んでカメラの前に立った。一度目を合わせると口の動きから「せーの」と言って紙をカメラに向けた。俺の心臓が大きく跳ねた。
『鈴木美紀』
『香坂元気』
それぞれ2人が書いた名前だった。俺は大きく安堵した。
「気づいてくれた……」
元気の手には鈴木の名前を書いた紙が、鈴木の手には元気の名前を書いた紙が握られていた。そしてすぐに画面が暗転した。
「そっか。お互いがミッションのパートナーの名前を書けばいいんだ。自殺志願者でない限り、まさか自分の名前を書く人はいないもんね。そうすれば一致しないし、ミッションを一緒にやるパートナーだから、お互いの心境を理解できて恨みっこもないし」
真子が納得したように声を上げた。そう、真子が言った通りである。これがこのミッションの抜け道だったのだ。
「付け加えるなら、2人は出口経験者だから自殺は考えてない。ゲームを進めているのがいい証拠だよ。万一にも自殺ミッションにはならないよ」
「そっか、そっか。良かったー」
真子が大きく安堵してマットに膝をついた。
しかし今回のミッション。1つもしょうもないと言えるミッションがなかった。テロップに表示された時こそ大輝と木部のミッションはそうかとも思ったが、あれも結局過酷だった。人の死を見た後の大食いミッション。もしクリア前に吐き出していたらどうなっていたのだろうか? 不達成になっていたのだろうか? そう考える背筋が凍る。
今後のミッションの動向が気になる。少しでも多くしょうもないと言えるミッションやメリット型のミッションが発令されてくれればいいのだが。
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