第12話 記憶-2-
「気合いが足りない」
「気合い、気合いって……ちゃんと教えてよ!」
「やだ。自分で掴めよ。そらっ」
体についた切り傷は彼が私につけたものだ。
あの日あの時、強くなりたいと彼に願ってから、数年が経った。
私は、小さな剣を与えられ、セレスの剣を止めようと必死になる。
けれどセレスの太刀筋は止めることなどできず、足を動かしもしない彼によって私は毎日ボロボロにされていた。
傷が絶えたことはない。
それでも最近は、傷が少なくなってきたように思う。
傷の手当てはしてくれる。
ご飯も、寝床もある。
風邪をひけば看病をしてくれる。
彼は、私を本当に大事にしてくれていると思う。
ありがたいと思っている。けれど、なかなか素直になれないのが最近の悩みだった。
「アカツキ、俺ちょっと行きたいところがあるから、しばらく留守にするぞ」
「えっ」
突然の言葉に声が出た。
彼は各地を飛び回ることが好きらしく、この森の小汚い小屋を放って行く。
それは構わないのだが、やはり一人になるのは寂しい。
私も少し、遠出をしてみようか。
「わあ」
街を歩き、色んなところに行った。
その日は晴天。太陽の光を反射し、キラキラ光る建物に、私は感嘆の声を漏らした。
ここはなんだろう。どういうところさろう。
私は興味本位で中へと入った。
作りとしては神殿のようだ。中は白く、広い。
「待ってたよ」
不意に声がした。
しかし、誰も居ない。気配もない。
首を傾げる。
止まって居てもらちがあかないので、私は奥へと進んだ。
1番奥は、祭壇のようなものがあった。
何を祀っているのだろうか。神?英雄?
視界が悪いことを気にせず、私は祭壇まで近づいて見た。
なにか文字が書いてある。
ボロボロになったその文字は到底読めるものではないが、かろうじて「魔」という文字を読めた。
魔?
その問いに答える人はいない。
そこで気がついた。
視界が悪い。
……視界が悪い?
そう、この場所には濃い霧が立ち込めていた。
なぜ建物の中に霧が満ちているのだろうか。
その疑問を持つより先に、声が聞こえた
『力を欲せよ。我は与える者なり』
「誰……?」
『力が欲しいか?』
私は無意識のうちに頷いていた。
力は欲しい。強くなりたい。
セレスにも、そう言った。
私は——
『その力、何に使う?』
声が問いを発した。
私は。……私は。
何に力を使いたいのだろう。
考えたこともなかった。
力が欲しい、強くなりたい。
……違う。
「私は、父を殺した人への復讐のため、力を欲する!」
そうだ。これは復讐だ。
強くなって、父を、私を焼いた奴を、倒す。
『我が幼き契約者よ。我が力、使いこなしてみよ』
霧が渦を巻き、私を包む。
渦が消え、私はふと祭壇へと向かった。
祭壇の文字が読めた。
「フィ——」
そこから先は、覚えていない。
「ただいま、アカツキ」
「お帰りセレス。稽古!」
「……なんだよ、少し休ませろよー」
神殿からは、自力で帰ってきた。
気がついたら、神殿の前に佇んでいた。
あれは、夢だったのだろうか。確かに、夢らしかったが。
建物に立ち込める濃い霧。
どこからか聞こえる不思議な声。
力を欲せよ、か。
よく考えれば、馬鹿らしいことだ。
私は、自力で強くなってみせようじゃないか。
「じゃあ、準備してろ。すぐ行くから」
「わかった。……今日は負けないからね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます