第10話
「エノク、さんっ!!」
「ど、どうしたアマツキ……。悪いが、今は」
「お姉ちゃんがっ!!」
騎士団宿舎にて。
アマツキが駆け込んだ時は、大広間の机でエノクが一人の青年と喋っていた。
見覚えのある青年だ。
目を引く鮮やかな青い髪を無造作に後ろに束ね、驚いたようにこちらを見ている。
「アマツキじゃねえか。アカツキがどうした?とうとう死んだか?」
「縁起でもないこと言わないでくださいセレスさんっ!」
アカツキの育ての親、セレスだ。
ケタケタと楽しそうに笑い、エノクを見る。
「あの馬鹿やっぱり馬鹿やらかしたみてえだぜエノク。」
「……僕がやらかしたんです!」
「同行者の馬鹿もテメェの馬鹿だ。で?どうしたって?」
アマツキはことを説明する。
「セレス」
「なんでそんな雑魚に苦労するんだかねえ」
「セレス、俺も行こうか」
「どっちでもいいぜ。俺は好きに暴れさせてもらうとしようか。」
「……!ありがとうございます!」
いいっていいって、とセレスはニコニコと笑った。
「可愛い可愛い娘のピンチなんだろ。父親として助けねばなぁ」
と。
実の父ではない。
奴隷になっていたアカツキを買い取り、自由にし、武器の扱いを叩き込み、アカツキがを育てたのはセレスだ。
アカツキは彼を慕ってはいるが素直になることは少なく、セレスが父と名乗る度に文句を言うが、その実、満更でもなさそうなのが、アマツキにはとても微笑ましかった。
「ここがフォレストの基地?」
「そうですよ」
「
「面白いこと言ってるわけじゃねえからなセレス」
「なんだよ笑えよエノクテメェ」
「馬鹿なことしてないで行きましょうよ」
いがみ合いを始める馬鹿二人を置いて、アマツキは足を運ぶ。
慌ててそれに続いてエノクとセレスが続く。
窓から侵入することもできず、堂々と正面から乗り込むことになった。
「……変だな」
「誰も居ませんね?」
「アカツキの警備で忙しいんだろ?檻から出るやり方も叩き込んだぜ」
「お前……アカツキちゃん可哀想」
「うるせえアイツが望んだんだよ!」
セレスが怒鳴る。その声に反応してか黒い服の男が数人現れた。
「あらら」
「セレスさんが大声出すからです!」
「まあまあ。準備運動は大事だぜ?」
「この人数を準備運動って言えるお前に軽く尊敬を覚える」
そりゃどうも、とセレスは背負った剣を手に取る。
一瞬だった。
セレスが踏み込む。
消えた、とアマツキは思った。
その瞬間、男達が宙を舞った。
「おら、次行こうぜ」
セレスが剣を背に戻す。
その足元には、数人の男が目を回して転がって居た。
呆気に取られるしかなかった。
その後もセレスは半分ふざけながら進んで行った。
「……あれっ?」
「どうしました?」
「なあ、アカツキはどこに居るんだ?」
「あ、それ僕も知らないです」
「……最上階だってよ」
セレスとアマツキが問答を繰り広げていたところ、エノクが口を挟む。
彼は一人の男の襟首を掴んで、その男に吐かせたようだ。
頬が赤く腫れている。
「うわあむごい」
「殴っただけだし、散々殺しておいてそりゃねえだろ」
「うはははは」
セレスは楽しそうに次の階へ進んだ。
「真っ暗だなー」
「……これ、敵の殺し屋の術です。二人居るんで気をつけてください」
「あら、バレちゃってるみたい。どうするエル」
白い髪の青年の声だろう。聞き覚えがある。
その青年の問いにエルヴァンは答えることができなかった。
エノクがエルヴァンの場所を突き止め、一気に距離を詰めたので。
「おお!?」
「お前が殺し屋?あまり乗り気じゃないみたいだが」
「……んだよ」
無愛想な声が返ってくる。
セレスに制され、アマツキはセレスと共に剣の打ち合いを見守る。
不意に、その音が途切れた。
同時に、暗闇が晴れる。
「…俺はな、騎士サン。他人に手を出されるのが大っ嫌いなんでね」
「そうか。」
「ここの奴らはそれをわかっちゃいねえ。だからもう、いい。好きにしな。俺は負け組に味方するほど馬鹿じゃない」
セレスが動く。無言のまま、次の階へ進める。
「じゃあね狐さん。また殺しあえたらいいなぁ」
白髪の青年が声をかける。
アマツキはぺこりと、小さくお辞儀をした。
「ここが最上階?」
「みたいですね。行きましょう」
その後3階分上がり、一際綺麗な扉に手をかける。
向こうでは喧騒が聞こえる。組員同士で喧嘩でもして居るのだろうか。
アマツキは不思議そうに首を傾げる。
罠などがないことをセレスが確認し終え、扉を開ける。
「あれ?」
「えっ」
そこには、床に伸びきっている男と、首領と見られるふくよかな男に馬乗りになり、その喉元にナイフを当てているアカツキが居た。
「おーおー、またやったなぁ」
「セレスとエノクもいるじゃん。どうしたの」
「お前を助けに来たんだ」
「ふうん」
ナイフを動かす。
血が流れ、その男は絶命した。
思わず顔を背けるアマツキの横で、一人の青年がアカツキに声をかけた。
「終わったぞ。依頼終了な」
「ありがとうございます」
アマツキとセレスとエノクは、揃って首を傾げた。
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