第9話

任せたと言われ、アマツキは剣を構えた。

宝剣トルロディ。

母親から渡されたそれは、稲妻を好きなだけ出すことができると言う魔道具でもある。

しかし、その剣の部分はミスリルでできており、斬れ味も凄まじいものだ。

魔法を兼ね備えた剣。

滅多にあるものでなく、また柄の装飾が美しいことから宝剣と呼ばれる。

「女の子相手にって辛いんだよね」

「僕は騎士です。男と思ってもらっても構いませんよ」

「そんなぁ」

ま、手加減はしないよ。

男が呟くと同時に氷の槍がいくつも襲いかかって来る。

アマツキは、クロツキのように自由奔放に戦うことができない。

だから、騎士団で習ったことを実践するだけだ。

最小の動きで槍を叩き落とし、距離を詰める。

「ほんとだ、騎士の動き」

近づくと彼は白い髪をしていることがわかった。

「トルロディ!」

剣を振るう。

電撃がその斬撃を

それがぐるりと一周することで、残っていた氷を砕くことに成功する。

「魔法道具かあ」

呟く相手に向かって更に走り、教えられた型通りに剣を振るう。

隙を見せない、攻めの剣術。

男は防戦一方のようで、反撃の数は少ない。

その反撃の魔法もトルロディの残る斬撃で一掃し、攻める。

が、しかし、致命的な一撃を与えることはできない。

「魔術師相手に時間かけるの良くないんだよ」

気づけばアマツキは、魔法陣の上に居た。

「…っ!」

「こうなるからね」

気づいた時には遅かった。

足元から黒い剣が飛び出して来る。

体を捻って回避を試みるが叶わない。

アマツキの顎から頬にかけて深い傷が入る。

「それだけで済んだの?運がいいねえ」

「あああああっ!!!」

痛みに意識が飛びそうになる。

それだけはしてはいけない。

そう自分を叱咤し、トルロディを振り回す。

「ッ、と、わ…え、エルヴァンッ!!!」

その瞬間、足に痛みが走る。

同時に魔術師の男が目の前から消えた。

確認する間も無く、少し離れた位置に炎が生まれた。

…火は。

…火だけは…!

「…あ…っ!」

「クロちゃん!」

クロツキは炎が嫌いだ。

嫌いというレベルではない。

その左半身にある火傷を作った日が原因で、炎がトラウマなのだ。

「よそ見すんなっ!!」

エルヴァンの声が聞こえ、構えたトルロディにギザギザの刃の短剣が当たる。

足の痛みが原因で上手く動かない。

「…悪いな」

耳元でエルヴァンが囁いた。

…悪い?

…何が?

確認する間も無く、アマツキは大きく吹き飛ばされた。

立ち上がる前に何者かに抑えられ、腕を縛り上げられる。

「…うっ…」

「アマツキっ!」

部屋が明るくなった。

そこには、大勢の男が銃を構えて立っていた。


クロツキと別れた。

彼女は死なないと言ったが、相手次第ではすぐに殺されるだろう。

僕のせいだ。

もっと周りに気を配り、油断さえしなければ。

「…情けない…っ」

自然と涙が浮かぶ。

そのまま、足を懸命に動かした。

助けに戻らなければ。

その為には、援軍を、求めなければ。

アマツキは騎士団の寄宿舎へと向かった。


「死ねよクソ野郎が…っ」

男がクロツキを蹴飛ばす。

体を丸め受け身を取り、壁に打ち付けられる衝撃を殺す。

取り巻きの男も引く程の勢いで近づき、踏みつける。

「…早く、慈悲を請えよ…っ!」

「…もう終わりか?全然痛くねえよ」

「…クソアマッ」

腰から取り出した銃で腕を撃つ。

がっ、と声を上げて尚クロツキは笑みを絶やさない。

既にボロボロである。

折れないアカツキを見てか、男は牢へ放り込んでおけ、とだけ言い、その場を去った。

ひとりの青年がこちらをじっと見ているのが少し気になったものの、大人しく牢へと入った。

「あーくそ、いってえ。おい、包帯とか持ってこいよ」

「………………」

「…………」

こりゃだめだ、とアカツキは床に胡座をかいて座る。

誰かが来るとは思ってはいけない。

誰かが来た時にはもう死んでいることなんてザラにある。

自分でなんとかすることが大事だ。

かつて、師にそう教えられたことがある。

どうやって逃げるかな。

アカツキは思考を巡らし始めた。

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