第8話

どうして、こんなことに。

僕のせいだ。

僕が、もう少し注意していれば。

クロちゃんが、その選択をすることは目に見えていたのに。

「…まあ、心配すんな。俺は死なねえよ」

「…でもっ」

「フォレストは壊滅。…そう伝えとけ」

クロツキは。

僕の双子の姉は、そう言って笑った。


事は数刻前にさかのぼる。

アマツキらは敵陣地に乗り込み、順調に進んでいた。

アルハードの情報では現在、頭領は最上階、つまり五階にいるという。

その下の階に、例の殺し屋がいるらしい。

四階に上がり、クロツキは違和感を感じた。

「…暗いな」

「…トルロディ、使いますか?」

「……いや…」

一発の銃声。

クロツキは咄嗟に手に持っていたナイフを構えアマツキを後ろに押す。

同時に後ろに下がり、銃弾は足元に刺さる。

「よく来たな。偽名野郎」

…偽名野郎?

アマツキはもちろん、クロツキも首を傾げた。

「本当の名前教えたら殺しはしないぞ」

「…はぁ」

「あ、やっぱ殺さねえとな…」

ふぅ、と息を吐く音が響く。

「…エルヴァン…僕疲れた」

「はぁ!?もうちょっとかっこつけよう…うわっ」

聞きなれない男の声に咄嗟にナイフを投げるが手応えはない。しかし、それを合図にアマツキも動き出す。

「トルロディ——!!」

青い稲妻の弾丸が地を這いその光が消えるまで辺りが照らされる。

人影程度しか見えなかったが、その人数は二人。

二対二のようだ。

「アマツキ!」

クロツキが声を張り上げる。

「片方は魔術師だ!そっちを任せる!」

「はいっ!」

「…あらら、バレちゃってる?」

エルヴァンではないほうの男が感情のこもっていない声色で言う。

暗闇の中、クロツキとアマツキ以外に二人が動く気配がした。

二手に分かれる。


銃声が鳴る。

その弾を避けるために軽く跳躍し、着地と同時に距離を一気に詰める。

手に携えたナイフがエルヴァンの喉を狙う。

金属音と共にナイフが宙を舞った。

「…銃じゃねえのかよ」

「悪いな」

目が暗闇に慣れて来た。

エルヴァンが手に持っていたのは、ギザギザとした刃が特徴的な短剣。

突き出して来た短剣を首を捻って避ける。

あと少し遅れていたら、死んでたな。

クロツキは少し焦っていた。

俺はなんとかなるとして…あの魔術師の実力がわからない。

わからないから、アマツキの安否が気になってしまう。

「考え事かよっ!」

「うあっ」

銃弾が頬を掠める。

焼けるような痛みと共に、血が舞う。

新しいナイフを取り出し、エルヴァンの懐に潜り込む。

が。

「エルヴァン!」

「!」

魔術師の男の声が聞こえたと同時に、目の前から気配が消える。

「…なっ」

追いかける間も無く、目の前が赤く染まった。

熱と、その音にクロツキは軽くパニックになる。

「…ぁ…っ!」

「クロちゃん!!」

火だ。

クロツキは逃げるように後ろに下がる。

それを追うように打ち出される尖った氷が飛んで来る。

咄嗟にしゃがんで避ける。

「…うっ!」

アマツキの悲鳴が聞こえた。

「アマツキッ…」

「動くな」

エルヴァンでも、魔術師の男でもない声が聞こえた。

暗闇が晴れる。

そこには、銃を構えた男がズラリと並んでいた。

エルヴァンが気まずそうにこちらを見ていた。

「…お前が、殺し屋アカツキか。」

「…だったらどうすんだ」

「お前には殺された部下が沢山いる。今日殺された奴ら以外にも。」

一番太った男が笑う。

ギラギラと輝く悪趣味なネックレスを揺らし、アカツキに近寄る。

その向こうに縛られたアマツキが見えたのもあり、クロツキは動くことができなかった。

「…だからなんだ。俺を殺すか?」

「それもいいが、俺様はいたぶるのが好きなんだ」

男の拳がクロツキの頬に食い込む。

小さな体は大きく吹き飛び、一人の男に当たる。

そのまま腕を縛られ、身動きが取れなくなる。

「…クロちゃん」

「アマツキ」

クロツキがアマツキに目をやる。アマツキも同様に縛られている。

足元には一本だけナイフが落ちていた。

「アマツキ、頭を下げろっ!」

アマツキが困惑の表情を浮かべた。

言われるままに下げると腕の拘束が解けた。

「お前っ」

足元のナイフを器用に浮かせ、蹴りで的確にアマツキの腕の縄を切り裂いたのだった。

「トルロディッ!」

「いいから逃げろっ!!」

アマツキ辺りの人間が吹き飛ぶ。

「…心配すんな。俺は死なねえよ」

「でもっ」

「フォレストは壊滅する。そう伝えとけ」

エルヴァンが威嚇するように銃でアマツキの足元を撃つ。

少しの迷いを見せ、アマツキは小さく頷く。

雷で威嚇しながら逃げるその姿を見て、クロツキは安堵した。


「…テメェ」

「さあ。やってみろよ豚野郎」

頭領と思われる男が、構えた。

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